宇宙開発企業なんですけど!?   作:明田川

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第六十話 思惑と暴走と

「宇宙港とは話がついた、種子島の避難を急がせろ」

 

「世界最大の打ち上げ基地が!全12レーンの電磁カタパルトがァ!」

 

秋津島開発が作り上げたマスドライバー群は連日の打ち上げ作業を全て停止、電力も冷媒も供給を止められた巨大構造物からは大量の作業員達が逃げ出していた。

 

「言っても仕方ねぇだろ、また作りゃ良いんだあんなもん」

 

衛星軌道上との通信を終えた社長は指揮に戻り、種子島に住む全ての人々に避難を呼びかけた。ことの重大さを知った政府も協力してくれており、落下する確率の高い地域は既に無人になっている。

 

「で、米国の奴らはなんて?」

 

「それが向こうも混乱しているようでして、最高位の外交官すら知らぬ事態のようです」

 

ML機関が暴走するのはあり得ない、貴重なG元素が搭載されたまま輸送されるなど何かの間違いだと主張していた。

 

「嘘とは思えない騒ぎだ、米国の本意ではないって証左かねぇ」

 

「ごく一部の暴走だとお思いですか」

 

原作でもHSSTを用いた破壊工作は行われていたが、あれは人類の今後を左右する計画の対立によるものだ。今回のような前触れも何もない行動など、あまりにも不自然が過ぎる。

 

「ああ、彼らが後先を考えない策など練らんよ」

 

「解せませんね、どうにも読めない」

 

未来で妨害工作や過激な行為を行う第五計画派やG弾推進派はまだ存在しない、つまりは一つに纏まる前の勢力が事を起こしたということだろうか。

 

「アンチ秋津島開発を掲げる勢力は少なくありませんが、どれもここまでのテロを起こせるほど大規模ではありませんよ?」

 

「HSSTとML機関を用意したのは紛れもない事実だぞ、計算が合わん」

 

「待ってください、なら我々は何処かで思い違いをしているのでは」

 

何か見落としているのだろうか、それとも何かに騙され…

 

「もしかして、少し前から俺達は騙されてるのか」

 

「…と言いますと?」

 

「不自然だろ、ここまで国家機密が善意の協力者によって持ち込まれるなんて」

 

未曾有の危機に繋がる情報だからこそ信じていたが、ML機関の資料とHSSTの固定不良の報告とは引っかかる。今後の行動に影響が大きく出るものであり、どちらもタイミングが良過ぎた。

 

「護衛さん達でも洗い切れない凄腕内通者が居るのか、それとも上もグルで見逃されてるのか」

 

「それは…無いとは言い切れませんが」

 

「なんでか秋津島脅威論を唱える政治家も増えたよな、これも最近の話だ」

 

秋津島放送が覇権を握り始めたタイミングと合致する、何か急速な水面下での動きがある気がする。しかしどれも確固たる証拠などない、下手な推理ごっこのようなものだ。

 

「…本当にML機関内にグレイ11、G元素が残っていなかったとしたら?」

 

「資源探索衛星によってG元素の存在は確認されています、だからこそ暴走している危険性を」

 

「違うんだよ、ギリギリこちらが探知可能な量が残留していたらどうする」

 

つまり判断を下すまでがご丁寧に誘導されていて、我々は何者かの思惑通りに動いているのではないか…という話だ。検知可能なギリギリの数となれば、反応が始まったとしてもすぐに燃料切れで止まるだろう。

 

「種子島を吹っ飛ばす以外に、やりたいことがあるのかもしれない」

 

「ML機関をG弾として使うのは直接的過ぎると?」

 

「今年の末に予定されている起爆実験を終えていない以上、米国にとってもG弾は未知の兵器なんだよ」

 

G弾の効果範囲は球状に削り取られるわけだが、その効果範囲に残された物体の質量は激減する。減った分の質量がエネルギーに変換された場合、太陽系がまとめて吹っ飛ぶこともあり得る計算になってしまう。

しかしそれは実験を行うまで真偽が明らかにならない物であり、自分が危惧する大規模な重力異常なども米国にとっては未観測の事象だ。

 

「ここまで用意周到な作戦で俺達どころか国まで翻弄してるんだ、効果が不明な爆弾を頼るとは思えない」

 

「確かに実験も終えていないものを投入するのは性急過ぎますね」

 

「だから何かしら別の手を打ってくる、そんでML機関は危険性を理解出来る俺達へのブラフって線はどうだ」

 

ただの爆破騒動で終わる相手ではない、そんな気がしてならないのだ。

 

「…なんで我々が陰謀と戦わなければならないんですかね」

 

「衛星軌道上は俺たちの庭だからだ、荒らされちゃあ黙ってられんよ」

 

しかし現場に居るわけではないので手は出せない、現場の社員に任せるしかないだろう。我々は我々で、今やれることをしなければ。

 

「情報の提供が行われたルートは護衛さん達が洗ってる筈だ、俺達は使用されたHSSTに関して調べるぞ」

 

「我々と接点の多い宇宙船なら以前の動向を追うことも可能と、考えましたね社長」

 

「まあな」

 

舐められたままでは済まさない、報復のためにも犯人は絶対に割り出して痛い目を見てもらおう。今回の事件を計画した者が何者で、どのような思惑を抱いているのか定かではないが…

 

「万が一に備えて流星も出せるか?」

 

「アレは対デブリ用の重装備ですよ、動かすのに時間がかかりますが」

 

「いやいい、準備を進めさせておいてくれ」

 

まだ打てる手はある、これまでの積み重ねが活きる時だ。




トータルイクリプスより篁唯依氏、誕生日おめでとうございます。
誕生日イラストは間に合えばTwitterで…

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