宇宙開発企業なんですけど!?   作:明田川

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第六十一話 強襲接舷

宇宙港から出た警備部隊は巡洋艦を先頭に進む、目標の位置は分かっているためランデヴーはそう遠くない。

 

「強襲装備の初投入がこんな大作戦とは、運が悪いな」

 

通信機から巡洋艦のオペレーターが話しかけてくる。彼とは長い付き合いで、ダンデライオンの運用には最初期から関わるメンバーの一人だ。

 

「問題ない、電磁吸着アンカーを使えるのがこの装備だっただけだ」

 

 

【挿絵表示】

 

 

社長の設計図によって作られたそれは、今まで使う機会が訪れていなかった装備だ。危険な状態に陥った宇宙船から乗員の救助を行うため開発されたが、今回のような状況でも性能を発揮出来る筈だ。

 

「そうかい」

 

元々作業用に設計されていた球体式コックピットに改造されたF-14改が持つ視界は、網膜投影技術によってディスプレイを持たない陸戦用の戦術機とは大きく異なる。

 

「コックピットがモニタに覆われてるのはどうなんだ、居心地悪くないか?」

 

「彗星改より狭くなくていい、解放感がある」

 

社長が考案したという球状のモニターはコックピットを中心に360°の視界を保証するもので、操縦士ではなく支援を担当する副操縦士のために用意されたものだ。

 

「それに細かい作業をしないなら一人称視点より楽で良い、視点が重心に近いのが大きいか」

 

しかし補助を担当する操縦士の育成は間に合わず、その席には宇宙用の無人外骨格に搭載されたAIが座っている。

 

「F-14を複座から単座に改修して、更にモニタ積んで複座にするとか…コイツも大変だよな」

 

「社長の趣味もあるそうだ」

 

「そうなのか…で、緊張は解けたか?」

 

「助かった、機体も俺もオールグリーンだ」

 

オレンジ色に塗装された機体が前を向く、覚悟は充分だ。

 

「HSSTは小さい上に特殊コンテナを載せるための部品が邪魔だ、F-14改単機での作業になるぞ」

 

「強襲装備の大きさも考えると妥当だな」

 

「目標は姿勢制御系が狂ってるらしくてな、時間もないのでアンカーで無理矢理接触する」

 

速度を変えながら横に回転しているらしく、中々に危険な状態だ。それに掴み掛かろうというのだから、並大抵のことではない。

 

「アンカーで接触してコンテナの外装を剥がし、減速剤を投入して安定したML機関を巡洋艦で確保すると」

 

「減速剤が切れた瞬間に力場が発生し、物理的な干渉は不可能になる。時間との勝負だぞ?」

 

レーダーが目標のHSSTを捉える、光学センサでも回転する様子がよく見えた。

 

「近づいた後はお前任せだ、頼んだぞ」

 

「ダンデライオン、レオ1…発艦する!」

 

「全ロック解除、グッドラック」

 

巡洋艦から離れ、背中に搭載された大型推進器に火を入れる。MMUとは比べ物にならない推力が機体を前に押し出し、目標との距離は近づいていく。後部座席のAIが通信機を使い、装備の状況を伝えてくれた。

 

『アンカー、射程圏内』

 

「コンテナに負荷をかけたくない、船体を狙えるか」

 

『可能です、接触後に伝わる回転運動に注意してください』

 

「1番と2番のカバー展開、発射タイミングは任せる」

 

アンカーというには無骨な円柱そのものであるそれはブースターによって一気に加速、多少の減速はしたもののかなりの勢いで衝突する。

 

「拿捕用だからな、手荒に行くぞ」

 

『固定剤、主剤噴射開始』

 

「硬化剤噴射後にアンカーのワイヤー巻き取り開始」

 

『了解、アンカー接触部の強度確保まであと13秒』

 

磁力によって船体の外装にくっ付いたアンカーはそのまま固定剤を噴射することで自身を固定、ダンデライオンが荷重をかけようとも外れないだろう。

 

「自動姿勢制御オフ、スラスターを手動操作に切り替える」

 

『了解、巻取り開始します』

 

「回転運動に着いていく形で機体を動かす、回すぞ」

 

機体のブースターを使い、円運動に追従しつつワイヤーを巻取り距離を縮める。機体が様々な方向から引っ張られ軋む音が聞こえるが、かかる負荷は許容範囲内だ。

 

『接触まであと10、9』

 

「減速は最低限、ぶつけるぞ」

 

『警告!対象が移動開始!』

 

アンカーを固定したHSSTのエンジンが再度点火され、加速を始めた。それに引っ張られ、身体が操縦席に押し付けられる。しかし座席自体の衝撃吸収機構のお陰もあり、そこまでの痛みはない。

 

「やっぱり乗ってるな、パイロットが!」

 

『今までの通信に応答なし、意図的な通信途絶と考えられます』

 

「緊急事態だ、発砲許可は出てるん…」

 

機体のサブアームを使い宇宙用の低反動砲を手に持とうとするが、その前にHSSTは更なる加速を始める。振り解く気かと思えば、何やら爆発音が機体の上で響く。

 

「損害報告!」

 

『機体上部に被弾、目標切り離し時に発生した小型デブリによるもの』

 

使おうとしていた砲もサブアームごと破損、センサも幾らか被害を受けたが対デブリ用に設計された装甲は伊達ではない。依然として行動は可能だ、アンカー装備も問題なく稼働している。

 

「切り離しって言ったか?」

 

切り離されたコンテナと加速を続けるHSSTは速度に差が生じ、ダンデライオンから見ればコンテナが後ろに向かって移動し始める。

 

「逃すか、1番2番アンカー投棄!コンテナに向かって全力噴射!」

 

『HSST、更に加速』

 

「シャトルだけなら落ちても迎撃出来る、今は目標確保だ」

 

アンカーの3番と4番を起動し、背後を向いてコンテナへと狙いを定める。アンカー発射時に速度を乗せなければ、先端がこちらと追いついてしまうためタイミングは重要だ。

 

『弾道計算問題なし』

 

「3番4番アンカー射出、目標を壊すなよ」

 

着弾時の被害を最小限にするべく、コンテナのフレームを狙ってアンカーが放たれた。

 


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