放たれた予備のアンカーがコンテナに命中し、固定剤を吹き付けた。コンテナと速度を合わせたため、HSSTはどんどんと離れていく。
『アンカー固定完了』
「巻取り開始、歯痒いが…奴は仲間に任せる」
爆発を警戒していたため味方のHSSTは少し離れた位置にいたが、すぐさま加速を始めてくれている。燃料の搭載量にも余裕がある、追い付くことは可能な筈だ。
「レオ1、朗報なんだか分からんが兎に角報告だ」
「何があった」
「奴は加速を続け、地球への落下軌道から脱して衛星軌道に復帰した」
「落ちないのか?」
これにより種子島が壊滅するような事態は避けられたと言っていい、ML機関の無力化はまだ進行中だがひと段落だ。
「訳が分からん、コンテナに何が仕掛けられているか…」
「どうにかする、任せてくれ」
コンテナをスーパーカーボン製のナイフで破壊する前に、外装の上からサブアームに取り付けられた機器を押し当てる。これはレーダーを用いて内部構造を透視するためのものだ、救助用装備で爆弾の解体をするとは皮肉だが役に立つ。
「…情報に無いケーブルが幾つかある」
「危険か?」
「恐らく、このまま開ければ切れる形で配線されている」
避けて切るしかない、作業時間は短いと言うのに厄介なことだ。
ケーブルが無い箇所に刃を突き立てること三回、三角形に外装を切り裂いてML機関がようやくお目見えだ。
「ケーブルが邪魔で注入口が使えない、社長に繋いでくれ」
『最初から聞いてるぞ、針で打ち込むんだな?』
後部座席のAIが遠隔操作モードに切り替わり、操縦桿を握りコンソールで色々と操作系を弄り始めた。社長本人が地上から衛星を使い、この機体へアクセスしているのだ。
『レーザー通信衛星を経由して一時的に操縦を行う、悪いが少々機体を借りるぞ』
「いえ、お願いします」
ML機関の重要部を避け中心部のグレイ11に減速剤を注入するのは至難の業だが、ここに何故かその装置の詳細を熟知している人間がいる。まるで自分で作ったことでもあるかのように解体を始め、針を通すための通路をテキパキと作り始める。
『MMUの操縦は出来てね、昔取った杵柄ってヤツさ』
このまま行けばあと30秒もせずに減速剤を投入出来るだろう、そう思わせる程の手際だった。
『これであとす…』
社長が操作していた無人外骨格が動作を停止、遠隔操作システムは"NO SIGNAL"と表示したまま反応がない。
「社長?」
「通信が切れた、衛星からの応答が無いぞ?」
部隊間データリンクが途切れ、HSSTを追って先行していた彗星改と連絡が取れなくなる。それどころか数秒後には緊急事態警報が鳴り響き、デブリ群警戒と表示された。
「あの野郎、諦めた訳じゃあ無かったのか!」
「何があった?」
「恐らく自爆だ、加速して速度を最大限に乗せたデブリをばら撒きやがった!」
恐らくこの警報は地上経由だろう、この伝達速度を考えると相当な大事の筈だ。
「クソッ!よりにもよって軌道を汚しやがって!」
「衛星が巻き込まれればデブリが増えるぞ、ML機関の爆発程では無いにしろ被害は…」
甚大なものになる、そう言おうと思ったが現実は斜め上を行くものだ。後部座席のAIがいつのまにか受け取っていた通信の解読を終わらせ、話し始めた。
『緊急事態です』
「何だ」
『全周地球防衛核投射衛星群"アーテミシーズ"に損害発生、核弾頭の脱落が確認されました』
これは一部の社員にしか伝達されておりませんとAIは言い、それが余程のことであるということを暗に伝えた。アーテミシーズは月のハイヴから打ち出される落着ユニット迎撃の最終防衛ラインであり、それが綻んだというのは非常に危険な状態だ。
「核弾頭が脱落?」
『非公式ですが既に一発が軌道上にて起爆、その際発生した電磁パルスの影響により衛星とそれに連なる通信網が機能不全を起こしました』
落着ユニットという大質量を軌道から逸らすための核弾頭だ、威力は陸で使うものの比ではない。それに電磁パルスは強力で、周囲の電子機器をまとめて破壊してしまうだろう。その影響を受けたのは追っていた彗星改も同じ筈だ、生きていると信じたいが望みは薄いかもしれない。
「その情報は何処からだ」
『秋津島開発の地上通信施設からです、緊急用の通信設備は未だ稼働中』
「…参ったな」
社長による爆弾の解体、落下しかけていたHSSTの無力化双方が不可能となった。遅延の少ない通信網が使えなくなったことで、地上からの遠隔操作も難しい。
「どうする?」
『地上からデータ受信、作業要項です』
秋津島開発が使う暗号通信を解読すると、ごく短い文が表示される。
『開けた穴に思い切り刺せ、ML機関からコックピットは離せと』
「単純明快だな、やろう」
注射針を握り、社長が開けたML機関の穴へ狙いを定める。片手でコンテナを掴み機体を固定し、腕を振り上げ勢いよく突き刺した。
「止まれェッ!」
その瞬間、重力場が増大した。貫通させる時に良くないものを破壊してしまったのかと冷や汗をかいたが、そのまま押し込み続ける。
『右腕部に過負荷、尚も増大中』
「黙って続けろ!」
減速剤が注入された直後に注射針ごとマニピュレーターが圧壊、目の前でバラバラになったがそれ以上の破壊は起こらなかった。手だけではなく腕すらもあらぬ方向へと捻じ曲がったが、反応を止められたのなら安い出費だ。
『右腕大破』
「ML機関無力化!」
「こちらで回収する、急いでこの軌道を離れるぞ」
デブリの雨が地球を一周して向かって来ている、それも脱落した核弾頭を抱えながら。最悪の状況だった時から何も好転しておらず、未知の脅威を排除した後は先の大戦で猛威を振るった既知の脅威が迫っているのだ。
「…核弾頭がいつデブリと接触するか分からない、戦場の上で爆発しようものなら兵器の回路が死ぬ」
「だからって、俺達に出来ることがあるのかよ」
「通信によると社長が流星を出すらしい、アレの超電磁砲ならデブリの中の核弾頭を撃ち抜ける」
ダンデライオンと同じく宇宙用に改造されたF-14である流星は、超電磁砲運用型として改修されていた。長距離狙撃に必要な各種センサと演算装置は最新鋭、それらを運用する火器管制システムも既に実証試験済みだ。
「馬鹿野郎!位置を観測出来る衛星も、その情報を中継する衛星もみんな駄目になっただろうが!」
そう言う巡洋艦のオペレーターだったが、ダンデライオンの片腕が上がる。マニピュレーターは人差し指を立て、自機と船を交互に指差した。
「お、お前と俺で、観測と中継をやるってのか」
「ああ、BETAとの戦線が無い海の上で狙撃する」
宇宙で起きた核爆発で機体が止まり、BETAに喰われて死ぬ衛士など出すものか。既に機体は様々な箇所に損傷を受けているがまだ動く、それに覚悟など宇宙に来た時から出来ている。
「元衛士の意地を見せるつもりでな、ML機関を積んでいる貴艦は中継に徹されたし」
「…分かった、幸運を!」
デブリでML機関を誘爆させる訳にはいかない、矢面に立つのは人類の剣であり鎧でもある戦術機だ。
「やろうか、相棒」
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