宇宙開発企業なんですけど!?   作:明田川

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第六十三話 拝啓、宇宙より遠い場所から

「橋本さんからGOサインだ、流星出せ!」

 

「反動制御系が未調整だぞ!?」

 

「あかつきで支える、委託射撃をやるんだよ」

 

流星が改修を受けていた格納庫は急遽決まった出動に振り回されていたが、核弾頭の件を伝えられた作業員達は死に物狂いで作業を進めていた。

 

「脱落した核弾頭の数は未だ不明、ダンデライオンが観測に出たそうだ」

 

「何もかも滅茶苦茶だ!」

 

本来であれば背部に搭載される発電装置の姿はなく、その代わりに宇宙港から伸びるケーブルを経由して電力供給を受けている。

 

「宇宙港は生命維持システム以外全て送電停止、全部流星に回せ!」

 

「コンデンサの設置急げ、撃てませんでしたじゃあ済まんぞ!」

 

「MMUの主機も発電に使え、大至急!」

 

無重力空間を大量のケーブルが埋め尽くし、作業員達は宇宙服を着て作業をしている。MMU用の燃料電池から艦船の発電機まで総動員して電力を供給しているのは、とんでもない作戦を行うためだった。

 

「弾速を変えて複数発の同時弾着射撃は、もう曲芸の域だって!」

 

「一発一発迎撃する訳にはいかん、爆発の影響で位置が変わる」

 

「だからって…たった一門の砲でやることじゃあないですよ」

 

流星は宇宙港の外に固定され、狙撃の成功率を高めるためにあらゆる手が尽くされている。間接照準射撃になるため流星自身のレーダーは頼りにならないが、それでもやれることはやらなければ。

 

「距離だって離れ過ぎてます、地上から宇宙に行くより遠いんですよ?!」

 

「その程度でピーチクパーチク言うんじゃねぇって、不安なのは分かるが手を動かせ手を!」

 

超電磁砲への送電が始まるまであと少し、猶予は幾許かも無い。

 

 

「…観測位置に到達、このまま待機する」

 

「レーザー通信良好、遅延ほぼ無しだ」

 

通信を中継する体制に入った巡洋艦から連絡が来た。

既に損傷が激しいダンデライオンは自らデブリの雨が降り注ぐ場所に居座り、核弾頭の位置を割り出すために全てのセンサを総動員していた。

 

「レーダーと光学で探す、映像からそれらしいのを割り出せるか?」

 

『可能です、画像解析はお任せを』

 

このまま軌道に居続ければ飛来するデブリで穴だらけになるが、迎撃するための武装も既に喪失している。推進器も拿捕の際に使い過ぎ、観測後に離脱し切るだけの推力は発揮出来ないだろう。

 

「なあ、本当に良いのか」

 

このまま留まればお陀仏だ、そうオペレーターは忠告してくる。

 

「電磁アンカー装備を機体の前に投棄して盾にする、生き残る可能性はある」

 

「そう言うことを聞いているんじゃあないが…まあ言っても無駄か」

 

長い付き合いのオペレーターはレオ1が稀に見せる頑固さのことを思い出し、これ以上止めるのをやめた。宇宙港からは流星が発射体制に入ったとも報告が来ており、迎撃体制は整えられた。

 

「海の上で迎撃するには核弾頭の捕捉を15秒で終わらせろ、それがギリギリだ」

 

「それ以降は?」

 

「ゲームオーバーだよ、あかつきもタダじゃ済まん」

 

「…なるほど」

 

コンティニューも無しかと呟き、操縦桿を握り直す。強化装備とは違って分厚い宇宙服は少し着心地が悪いが、宇宙に放り出された時のことを考えるとこちらの方が良い。

 

「観測可能な範囲にデブリが到達するまで少しある、話さないか」

 

『現在ネットワークに接続出来ておらず、言語を用いたコミニュケーション能力は低下していますが…』

 

「それでもいい、この状況をどう思う」

 

そう問いかけられたAIは思考を始め、答えを出すのに時間がかかっているように見えた。黙ったままでは困る、柄ではないが遺言でもオペレーターに残すかと通信を繋ごうとしたところでAIが返答を始めた。

 

『好ましくありません、当機は大破するでしょう』

 

「だろうな」

 

『このまま機体内にパイロットが待機していた場合、致命的な状態になる可能性が高いです』

 

「知ってる、心配してるのか?」

 

『当機は自動救命システムを流用して製作されました、パイロットを保護するのは存在理由の一つです』

 

思いの外喋れるじゃあないかと感心したが、急になにやら計器をいじり始めた。何をしているのかと思えば、緊急脱出装置にアクセスしているではないか。

 

「何をしている、脱出は認めない!」

 

『デブリから身を守る際には障害物に身を隠すことが重要と記載がありました、緊急時対処要綱に従い機体を盾にします』

 

つまり投棄した電磁アンカー装備と同じように遮蔽物として扱うわけで、コックピットを射出すれば機体も盾に出来るとは中々狂気的だ。どうやって思い付いたのかは知らないが、存外に良い手かもしれない。

 

「機体の装甲とフレーム全てを使えるなら可能性はあるか、時間になったら燃料タンクも投棄してくれ」

 

『了解』

 

諦めて死ぬ気で居たが、生き残るために最善を尽くすのはパイロット…いや衛士として当たり前のことだ。AIに目を覚まさせられたと感謝の気持ちを抱きつつ、脱出と観測の準備を進めるのだった。

 

 

中継役を担う巡洋艦から連絡が届き、宇宙港の流星は改めて狙いを定める。作業員達も発射間際ということもあり、殆どが港の中に退避していた。

 

「巡洋艦から連絡、デブリ群観測!」

 

「弾頭の数は?」

 

「3発です!」

 

発電能力から鑑みて可能な同時撃墜数は4発まで、最初の賭けに勝った瞬間だ。既に口頭の報告よりも先に流星の火器管制装置には情報が入力されており、最適な弾頭のルートを算出していた。

 

「必要とされる発射間隔は0.5秒、過負荷運転で1秒間隔の超電磁砲が持つかどうか…」

 

「理論上はもっと間隔は短く出来る、それが不可能なのは大電力を供給する機関とそれに耐える砲身が無いからだ」

 

そう言うのは最後までMMUを用いて宇宙空間に留まる作業員だ、副操縦席に座らされた部下が頭を抱えて返答した。

 

「…は、はぁ」

 

「港全ての電力系と砲身一本を使い捨てる想定ならやれる、送電線からの発火に注意しろ!」

 

「だから滅茶苦茶なんですって!!」

 

流星は有り合わせの部品を溶接して作られた固定具で支持され、その急増品は三発目の発射までは耐えられる計算だ。何もかもが突貫工事だが、やらない訳にはいかない。

 

『ルート算出完了、超電磁砲発射体勢』

 

「ぶちかませェーーッ!」

 

流星の操縦士がそう言った瞬間、超電磁砲が放たれた。一発目で足元の構造物が歪み、二発目で送電網が火を吹き、三発目で砲身のカバーと機関部が吹っ飛んだ。

 

「うっわぁぁぁぁぁあ!?」

 

「舌噛むぞ!」

 

一瞬にして見るも無惨な姿になった流星だが、使えなくなった片腕と超電磁砲を見るや副武装の20mm低反動砲を構えた。撃墜出来なかった場合に備えているのだろう、彼もまたプロフェッショナルだ。

 

「巡洋艦より伝達、光点観測数…三!全弾撃墜!」

 

「やった、や…」

 

その直後、発電に使用していた彗星改の燃料電池が電力系の異常が原因で発火。酸素供給系が損傷により逆流を止められなかったことで格納庫が纏めて吹っ飛んだ。

 

 

全作業員は退避済みだったがMMUに搭乗し宇宙での作業を行っていた者達に被害が及び、流星もその余波にて失われる結果となった。核弾頭の爆発によりデブリの大部分が消失したことで軌道上の危機は脱したが、宇宙港の復興には数ヶ月を有するだろうというのが専門家の見解だ。特に送電網が全損と言って良い程の被害であり、復興を担当するMMUも今回の事件により4割が行動不能に陥るなど問題は山積みである。

 

また核弾頭の観測を行ったダンデライオンは大破、自爆したHSSTを追っていた部隊は核の爆発を受け全機が行動不能な状態で軌道を漂っていたところを回収された。部隊には死者も出ており、今後の動向には全世界の目が向けられていると言って良いだろう。

 

尚、今回の事件は一部を伏せられた上で秋津島放送の緊急ニュースとして放送済みである。





【挿絵表示】

流星のデザインはこんな感じです、前回で力を使い切ったので今回はこれだけ。

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