現実とは関係ないフィクションですので、あしからず。
「プラットホームの増設?」
「合成食糧を生産するプラットホームと違い、我々のものは場所を選ばないからだそうです」
いつもの社長と秘書は各国から寄せられた要望について話し合っていた、最近取り沙汰される食糧事情の件だろうか。
「それはそうなんだが、ここまで急な話となると…」
「はい、例の件です」
未だに尾を引くHSST暴走事件だが、相次ぐ実行犯の逮捕によって沈静化しつつあった。国内外問わず大規模な諜報員狩りが実行されており、全てが表沙汰になっているわけではないが成果は上々らしい。
「合成食糧は海からタンパク質を採取して作るからな、魚やらプランクトンやらが多い海のど真ん中じゃなきゃ効率が悪い」
「なるほど」
「それにやたらめったら複数箇所に作ると重金属雲が使えなくなる」
「それは何故です?」
「重金属汚染だよ、帝国でも高度経済成長期にあったろ」
前の世界では日本四大公害病と言えば伝わり易いだろうか、重金属は容易に水俣病やイタイイタイ病などの重篤な病を引き起こす物質なのだ。
「重金属雲を使わなくたって鉛や劣化ウランをばら撒いてるんだ、戦場になった場所はBETAが平にならす前に不毛の大地になるがな」
「人類の起こした汚染に関して、報道は規制が入っているようですね」
失われた国土は二度と人が住めないレベルで汚染されてしまいました、戦後復興出来るか怪しいですなどと国民に言えないだろう。
「話がズレたんで戻すが、そんな危険な物質が合成食糧を作るための魚に混入すれば…」
「公害病の再来になる、というわけですね」
「食糧プラントのある太平洋と大西洋はAL弾の使用禁止エリアに指定されてるが光線級対策に必須の代物無しじゃあ戦えない、つまりこれ以上増やせないのさ」
白羽の矢が立ったのは良いが、我々のプラットホームが行っているのは通常通りの食糧生産だ。合成食糧のように量が作れるわけでもなく、大地で作るよりもコストが嵩む。
「国民を安心させるために食料自給率を底上げしたいんだろうが、維持費に驚くことになるだろうな」
「ですが行動を起こさなければ国民は納得しません、苦肉の策でしょう」
外の環境に左右されず安定した食糧生産を可能とするプラットホームは他の星へと移住した際に使うつもりだった技術であり、未だ発展途上のものだ。将来的には更なる効率の向上が見込めるが、実戦投入が少し早かった。
「…ハイヴ攻略で奪還した国土の重金属汚染をどうにか出来れば、混乱への特効薬になるか?」
「重金属汚染を取り除き、畑に出来るとアピールするわけですか」
「テラフォーミング用の工作機械が転用出来るかもな、設計図を書き出してみるよ」
大量の弾丸と不発弾を回収し、大地の表面を削り取って重金属を取り除く。BETAとの戦闘で湯水の如く消費される弾薬は途方もない量であり、その後始末となれば重労働だ。
「これこそ無人で行うべき分野だな、24時間働かせれば人と比べて速度が段違いだ」
「人類が元に戻さなければならない土地は広大です、効率は重視するべきでしょうね」
汚染が進んだ場所で人を働かせたくないというのもある、舞い上がった土埃を吸い込むだけで病院行きだ。暫くPCを弄っていた社長が意気揚々と秘書に見せたのは巨大な陸上船とも言うべき車両であり、処理施設を内包していた。
「大型車両を母艦としてMMUと外骨格を運用、サイズ差を活かして作業を分担しつつ効率的に浄化を進めるって感じだな」
「成る程」
「…さながら母艦級と要撃級に戦車級だな、設計しておいてなんだが」
BETAも採掘作業を行う際はしっかり役割分担をするらしく、効率化を考えると同じ形になってしまうのかと思わざるを得ない。
「それ絶対に他の人に言わないで下さい、売れなくなりますよ」
「俺も思った」
こうして惑星開拓用として構想があった車両を転用する形で浄化設備が設計され、秋津島開発の今までに無い形での社会貢献が始まるのだが…
「で、何処で作るのコレ」
「何処もキャパオーバーです」
多忙なため、なんと設計図を丸々欧州にぶん投げることになるのだった。