欧州連合の疾風が狙いを定めるのは間引きのために呼び寄せたBETA集団であり、発射体勢の超電磁砲は二個小隊分の24機だ。今までと違うのはその全機が連射可能な3番機仕様ということであり、補給機を交えて発射体勢は万全だ。
「超電磁砲により敵の前衛にあたる突撃級を一掃、戦車や戦術機による直接照準射撃の効果を飛躍的に向上させる」
そう666中隊に説明するのはオスカー中隊の隊長であり、部隊員の一人が相槌を打っている。
「突撃級の死体が邪魔になって行軍速度も落ちてますね」
「その間に砲身の冷却など再発射までの時間をとり、敵を引きつけてから第二射を行い多くの敵を巻き込むって算段だ」
「これからの作戦において必須の戦力になりますね…重要度で言えば重金属雲と同じレベルですよ?」
666中隊もあまりの光景に言葉を失っているようだ。
しかしそれはオスカー中隊も同じであり、量産が始まったとはいえ大量のレールガンがここまで急速に運用され始めるとは思わなかったのだ。
「何処にこんな数があったんだ?」
「量産の目処が立ったので帝国国内に保管してあった予備砲身が欧州に先立って渡されたそうです、なのであの殆どは宇宙港製ですね」
「そうか、本国は随分と溜め込んでたらしいな」
「ですねぇ」
後方国として更なる派兵や支援を求められつつも国防のための物資は確保しているあたり強かだ、国内で消費する先が訓練くらいしか無いというのもあるのだろうが。
消費先になる筈だった中華戦線への派兵も先の大損害を受けて尻込みしているというのが現状であり、最新の機材を持ち込んで強奪されたくないというのも大きな理由の一つになっている。
「欧州以外にこんなの出せませんからねぇ、コレで撃たれて死にたくありませんし…」
「だな」
「というか、こんなことをAIに聞かせちゃって大丈夫なんですか?」
思想が偏ると困るんですけどと言う部隊員に、より多くの情報が与えられている隊長が答える。
「既に本社にて最低限の教育は済ませてあるらしい、倫理観に関しても戦場に居る気狂いとは比べ物にならんさ」
「成る程、良い子で居てくれよ?」
『分かりました』
いや喋るのかと部隊員全員が驚くが、よくよく考えると旧型AIも分析結果を音声で出力するなど話すこと自体は行えていたことを思い出す。しかしこのように受動的な行動は見たことがなく、少しだけ面食らってしまった。
「お、おう」
「賢いなぁ、俺たちも廃業か?」
そう笑う間にもBETAの数は減っていく、その勢いは増すばかりだ。突撃級を容易に撃破出来るというのは対BETA戦におけるブレイクスルーとも言うべき到達点であり、その効果は計り知れない。
「戦術機が既存の陸上兵器と一線を画す理由は突撃級の背中を取れたから、というのは俺の持論な訳なんだが…」
「砲撃機は纏めて吹っ飛ばすことで解決しましたね」
「盾役が居なくなればこっちのもんだ、戦車の120mmがこんなに輝く戦場も珍しいだろうな」
司令部から見れば戦車兵達は恐怖するべき対象が一掃され、自身の主砲が十分な効果を発揮する相手に対して戦えることに喜んでいるのが分かるだろう。少数ではあるが多脚戦車も参戦しており、機甲科からの撃破報告は鳴り止まない。
「超電磁砲を用いたBETA殲滅、楽になったと言いたいもんだが…」
『オスカー01、仕事だ』
そう上手くは行かないらしい、監視衛星と振動観測によると別動隊が接近して来ていることが確認された。包囲網の外から来たBETAは本隊に比べれば小規模であるものの、突破されてしまう可能性は高い。
「CP、包囲網を下げて砲撃で殲滅出来ないのか?」
『砲撃の迎撃率が想定より大きく上がっている、距離が離れていることを考えると重光線級が多数存在する集団だと見ていい』
「近付かれると疾風が喰われる可能性があるか、連射可能型は動きが鈍いしな」
3番機の実戦投入においても冷却装置を乗せた補給機二機を自身に繋げる必要があった、疾風が即座に移動するのは難しいだろう。
『先の作戦から欧州の兵站は疲弊している。敵本隊から距離がある上に風上でな、重金属雲が薄い地域の面制圧に割く余力は無い』
「元々超電磁砲頼りの間引き作戦かよ!」
通常兵器も戦術機も何もかもが消耗しているのが現状であり、この作戦の部隊においても引っ張り出されてきた第一世代機が殆どだ。だからこそ二個小隊分の疾風が穴を埋めに来たわけであり、待機している予備戦力はオスカー中隊と666中隊以外にマトモなのが居ないという有様だ。
「疾風が急に集められたのはこう言うことか、まだ立ち直れてないらしい」
「国連軍は初めて攻略されたハイヴの防衛に多くの戦力を向かわせてます、全ての方面で万全な戦力が居るとは到底…」
『オスカー中隊は666中隊と共に敵BETA群の足止めに向かい、疾風が迎撃体制を整えるまで持たせてくれ』
オスカー中隊の疾風には連射可能な超電磁砲が無い、一番機と同じ取り回しを重視した単発型だ。元から居た三機と新たに配備された二機で五機の疾風が居る計算だが、それでも心許ないだろう。
他の機体はハイヴ攻略戦を生き延びた鐘馗で構成されており、整備性に難はあったが大隊規模の戦術機を整備可能な整備班がそのまま残っているので問題は無かった。
「他に動かせる戦力は?」
『無人の多脚車輌群を向かわせる、後は欧州連合から第一世代機の小隊が合流する予定だ』
「小隊かよ、向こうもギリギリってことだな」
砲撃支援も最低限、重光線級も多数。
この盤面をどう切り抜けるか、そう悩む隊長だったが…
「つまりだ、光線級を片付ければ砲撃で倒し切るだけの余力が生まれるということだな?」
666中隊の女隊長はそう告げる、ここには無茶を通せるだけの戦力が揃っているのだから。
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