宇宙開発企業なんですけど!?   作:明田川

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1988年〜
第六十九話 次期オルタネイティヴ計画


「装備を提供した666中隊は良くやってくれているようです、旧隼でも東側にとっては高性能機ということでしょうか」

 

「隼改に更新されることが決まった旧隼最後の改修版だ、性能は確かさ」

 

いつもの執務室で業務を熟すのは私こと社長とその秘書だが、今日は何やら興味深い報告が幾つもあるようだ。新年を迎えたと言うのに忙しいばかりで困ってしまう、どうにかならないだろうか。

 

「お子さんも産まれたというのに、難儀ですねぇ」

 

宇宙港の仮眠室に閉じ込められた際にまあなんというか、命中したのだ。

 

「この歳になって息子が出来るとはね、巫さんに何もなくて良かったよ」

 

「存外にも達観してらっしゃいますね、病院で待つ時も思いましたけど」

 

もう上手く思い出せないが、こんなことは前にもあったような気がする。前世の記憶というヤツは歳をとるごとに薄れており、自分を構成しているものがこの世界の記憶に置き換わっているような感覚がある。

 

「まあ…な」

 

「その話は仕事の後にしましょうか、ひとまず報告の続きを」

 

「頼む」

 

秘書が取り出したのはG弾の起爆実験に関する資料であり、米国が昨年に行ったことを公表したのだ。

 

「G弾か、五次元効果爆弾の実用化とは恐れ入るね」

 

「ML機関が暴走しかけた時に社員に対して説明していたヤツですね」

 

「先の一件からその手の開発は自粛ムードだ、公開された資料も危険性に焦点が合わせられてるな」

 

恒常的な重力異常の発生は確認されなかったが、能力で出力した複数起爆時の予測を秋津島開発名義でぶん投げた。言外に注意した甲斐があったというべきか、米国においてもG弾に対しては静観の姿勢が取られている。

 

「しかしオルタネイティヴ3、ESP能力者による直接思考捜査が停滞していることからG弾によるハイヴの攻略を唱える者もいるようです」

 

「通常兵器によるハイヴ攻略は成し遂げたが、逆に現実を見せる形になってしまったか」

 

一国の弾薬備蓄量を上回る火力投射が必要という時点で、BETAの間引きで精一杯の前線国がハイヴ攻略という夢を叶えることが出来ないことが分かってしまう。G弾によりハイヴそのものを削り取り、砲兵や戦術機部隊の運用規模を抑えて攻略を成功させるというのが返って現実味を帯びるプランとなったのだ。

 

「米国のHI-MAERF計画中止もG弾運用推進に拍車を掛けてますが…」

 

「何かあったのか?」

 

「例の事件でその手の過激な組織に手が入り、多数の逮捕者が出たのでG弾推進派は纏めて吹っ飛びました」

 

「えぇ…」

 

今は大粛清を生き延びた少数の穏健派しか残っておらず、軍の損害を減らせるG弾の正しい使い方などを模索したいと表明しているらしい。

 

「綺麗なG弾推進派になってる…」

 

「菓子折りも来てます」

 

「何処で帝国の文化を学んだんだよ」

 

お菓子は指向性タンパクが混入していないか検査に回されているらしい、担当の社員達はどんな気持ちで帝都の和菓子を検査機にブチ込んだのだろうか。

 

「して、次期オルタネイティヴ計画なのですが」

 

「うん」

 

「秋津島開発がラグランジュポイントにて試作を進めている播種船を使った、段階的な地球放棄が提案されました」

 

「…詳しく」

 

「はい、これは我々にとっても重要な議題となるやもしれません」

 

国連の議事録によると、秋津島開発の播種船であれば将来的な全人類の避難は可能であるとするものだった。確かに試作船のスペックは包み隠さず公開していたが、それが国連に持ち込まれるとは。

 

「オルタネイティヴ4飛ばして5って訳かよ、仇になったな…」

 

「宇宙開発部門の数少ない本業でしたから、成果の発表は継続して行っていたのが目についたのかと」

 

「そんな議題を上げたのは誰だよ」

 

「これはあくまで次期オルタネイティヴ計画の策定の際に出た意見でして、実を言いますと帝国からです」

 

よくよく考えるとその手の書類が送られて来たり、官僚さん達が来ていたことを思い出した。丁度出産やらなんやらでドタバタしていた時期だったため、興味も薄れたのかすっかり忘れていた。

 

「最近物忘れが酷いな、思い出したよ」

 

「良かったです、私より先にボケられては困りますからね」

 

この全人類の移民というのは明らかに不可能な目標設定だ、複数回に分けて移動させるにしても資材も技術も容積も何もかも足らない。

 

「しかし夢物語だろ、無理に決まってる」

 

「人を人として運ぶなら、そうですね」

 

「…うん?」

 

秘書が取り出したのは自分が書き出したが問題があるとして非公開にしていた技術と、帝国大学のある研究についての資料だ。非炭素擬似生命、00ユニットの元となる技術のように見える。

 

「人類の脳をそのまま電子上で再現できるだけのコンピュータと、人格と記憶のデータ化技術があれば移民は可能とありますが」

 

秘書が挙げた二つの要素は間違いなく原作の00ユニットが達成していた技術で、つまりこの世界において人類の電子化は不可能ではないということが分かってしまう。

 

「肉体を捨てろっていうのか!?」

 

「おかしいですね、社長がそう構想されていたのではないのですか?」

 

資料もありますよ、やっぱりボケてますかと言う秘書からひったくるように書類を受け取る。書類の内容は自分の設計図とそれに書き込まれていたコメントを元に組み立てられており、書いた覚えのない言葉にゾッとする。

 

引っ張り出した新型播種船の設計図、その一枚目には短く"魂の解放、解脱に至る道"と間違いなく自分の筆跡で書き込まれた文字がある。

 

「俺の字だ、間違いなく」

 

人類をデータ化することで移民に耐える存在に変え、人類の宇宙開発に革命を起こす。倫理観を棚に上げれば素晴らしい案だ、到底理解は出来ないが。

 

「出力した時に俺は手を加えてない、この文は…まさかそんな…」

 

「社長?」

 

「未来の俺が書いたのか、これを」

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