全力を挙げて修理が進められる国連宇宙軍の大型宇宙港だったが、その老朽化や拡張による整備性の悪化は深刻だった。特に先の事件により増加したデブリの清掃は進んでおらず、港にも被害が及んでいるのが寿命低下に拍車をかけている。
「えー、居住区画の遠心力式重力ユニットなんですが…」
「また止めるのか、仕方ないとはいえ多いな」
「いえ、新造します」
ギョッとした顔をする国連軍の関係者に、秋津島開発の宇宙港担当はある計画書を差し出した。それには試作有人移民船転用計画と書かれており、数百人規模を収容可能な設備が整っている。
「月と地球の中間点、ラグランジュポイントにて建造していた試作宇宙船を丸ごと居住区画に転用します」
「…お、おお」
「船内の重力区画は従来と同じ面積を確保しており、有事の際には分離も可能です」
社長曰く、作ったんだし有効活用せよとのことだ。
宇宙港あかつきは開き直って次の宇宙施設への足掛かりとし、試作品を投入することで運用実験を行いたいようだ。
「運用は現在計画中の次期大型宇宙港を完成させるまで、あくまで繋ぎのような扱いにはなりますが」
宇宙放射線の問題を解決出来ていない以上、少しでも被爆する量を減らすためには分厚い外殻が必要だ。その点宇宙船を転用したソレは今まで以上の防護能力を有しており、設備も一新されるとなれば乗らない手はない。
「安全性に問題が無いのであれば是非承認したい、居住区画が新しくなることを喜ばない者は居ないとも」
こうして宇宙港改造計画が始動、この計画により得られた情報から第二の宇宙港が完成することとなる。
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「超電磁砲の冷却周りは絶対にミスるなよ、放熱出来なくて溶かしたら大目玉だ!」
拿捕作戦に投入される筈だった超電磁砲は流星と共に失われたため、地上の製造拠点にて宇宙用のレールガンを新造していた。搭載を予定していた戦艦に戦術機を介さず、主砲として直接取り付けるという設計に変更されたのも搭載機が大破したためだ。
「次の打ち上げに間に合わせにゃならん、軌道変更ユニットはもう完成間際だってのに」
「宇宙用の戦術機はもう母体になるF-14が足りませんよ、格納庫ごと予備機も吹っ飛んだんですから」
「猫なら米国から輸入するらしい、橋本主任も息子さんとの休暇が短くなって大変だとさ」
橋本未来、以前の名前はミラ・ブリッジスでありF-14を作り上げた人物の1人だ。どうにも訳ありで米国から睨まれているらしく、息子を地上に残して宇宙港に勤務せざるを得ないとか。
「ユウヤ君だっけ、社長がよく気にかけてたな」
「最近やっと息子さんが出来たけど、今も昔も自分の子供みたいに接してるよな」
戦術機の訓練装置を触らせたり、強化外骨格の遠隔操作をさせたり、中々職場から離れられない社長なりに娯楽となりそうな物を体験させていた。父親が居ない彼にとってどう思われていたのかは分からないが、色々と手を回していたようだ。
「社長の息子なんじゃないかって噂は払拭されたし、変な噂も流れてこなくなったよな」
「アレは申し訳ない時間でしたけどねぇ」
ユウヤ君が社長の息子なのではないかという噂はDNA鑑定にて否定された、大きな騒ぎとなったために秘書が手を回したのだ。なんでも米国から日本に来たのも一般人には想像のつかない厄介事が原因らしく、あまりに深刻な話だと社長が悩むのを見て社員達は噂を忘れることにしたらしい。
「F-14s用の拡張装備は完成したんですがねぇ、僕らも休暇に入りたいや」
「この大仕事が終われば暫く休みさ、新人も育って来て余裕も出てる」
新たに入った者達は秋津島開発の社員として経験を積み、一人前になりつつある。入社希望者の倍率は今も尚上がり続け、スパイかそうでないかを精査する政府関係者達が1番過労死に近いかもしれない。
「俺達はまだマシだが、衛星部門が心配だな」
ー
「打ち上げ直す衛星の数は?」
「80機です」
「…追加で打ち上げる衛星は?」
「50機です」
大損害を受けつつもなんとか稼働中の衛星警戒網だが、ギリギリの状況であることは間違いない。打ち上げれば済む話かと思えばそうでもなく、大量のデブリを処理しなければ場所が開かないという状況が足を引っ張っていた。
「大破したアーテミシーズは国連宇宙軍により回収、核弾頭も同様です」
「やっとあのバカでかいゴミが退いたか!」
「ゴミって…」
「あんな簡単に世界を滅ぼせる量の核弾頭、浮かせておいて良いわけねぇだろうが」
今の人類に必要な兵器だってことは理解するがなと付け加える彼はどうにも不機嫌そうだ、恐らく代わりの核弾頭と衛星を打ち上げなければならないことが原因だろう。
「BETAが居なくなれば真っ先に送り返してやる」
「まあ、それには同感ですよ」
先の事件が衛星部門に与えた影響は大きい、皆が苦心して打ち上げた衛星群で数十万という人が死ぬ可能性があったのだから。最悪の事態は避けられたとはいえ、人類の食糧庫に大打撃を与えてしまったことは紛れもない事実だった。
「兵器なんざ必要のない星にしてやる、そのために開発班が頑張ってるんだしな…」
「それを言うなら、貴方も我儘は無しですよ」
それもそうかと笑う彼らは、デブリの回収と衛星の打ち上げを想定よりも早く終わらせた。そして本業だと言い張る民間の衛星打ち上げにて、今日も秋津島放送の受信範囲を広げるのだ。