宇宙開発企業なんですけど!?   作:明田川

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第七十二話 現地改修機

「旧隼の量産が進んでる?」

 

「旧式化したことで格安となったライセンス生産契約が大量に結ばれていまして、F-4との代替を行う気のようです」

 

「いやいやいや、もう伸び代無いって」

 

拡張性をほぼ使い切ったことで隼改という別物を作り上げたと言うのに、旧隼の生産機数は今一度増え始めていた。

 

「F-4と違って設計の余剰は無いし、コスパじゃあF-16とは大きな差があるぞ?」

 

「政治的な理由です」

 

米国との仲が悪い国も居るのだ、そういった国々は東側の戦術機を運用している場合が殆どだが…どれも旧式化してしまっている。その上整備性に難がある機体も多く、過酷な環境下ではどうしても稼働率が低くなってしまう。

そこで白羽の矢が立ったのが旧隼、と言うことだろうか。

 

「あー、なるほど」

 

米国が輸出するのは性能を落としたモンキーモデル、その上比較的新しい機体ということもあり製造するには3Dプリンタがあるとはいえ少しハードルが高い。その点旧隼は市場に部品が多く流通しており、自国での製造が難しくとも自動工場を導入すれば安定した生産体制を築き上げることが可能だ。

 

「ここで面白いのが、F-16も共に採用される傾向にあるということです」

 

「Hi-LowならぬLow-Low構成じゃん」

 

「BETA大戦が始まってから国際的な市場、特に民需が死んでいるために経済事情が芳しくないので、小国にとってF-16はHi扱いなんですよ」

 

旧隼の値段は降下傾向にある、本来ならF-16と同価格帯だった機体が更にお安くなって再登場というわけだ。

 

「世知辛い話だな」

 

F-16は小型軽量故に稼働時間が短いが、第二世代機として高い性能を誇る他にも類稀な近接格闘能力を待ち合わせる。また増槽などの補助装備に恵まれている旧隼の稼働時間は長く、F-16に変わって長時間前線に滞在出来るため互いをフォローし合うことが出来る。

 

「安い機体同士でこんな相乗効果を発揮するとは、俺の目でも見抜けなかったな…」

 

旧隼を多数運用していた欧州は大損害を機にして大規模な戦術機の入れ替えを実行、生産施設は段階的に隼改製造のため組み替えられている。払い下げられる機体が増え、F-4を運用する中小国が欲しがるのは当たり前の話だった。

 

「隼とファルコンで紛らわしいため、F-16は非公式ではありますがバイパーという愛称で呼ばれることが増えつつあるとか」

 

隼と戦う隼が同じ戦線に居ると面倒だ、まあType-75とF-16と型番で呼べば問題は少ないのだが。

 

「じゃあF-15の売り上げはどうなってるんだ?」

 

「高性能なハイヴ突入用戦術機として採用されていると聞きます、F-16と比べて稼働時間も長いですから」

 

ハイヴ突入以外にも少数で多数を相手しなければならない光線級吶喊など、確かな性能を求められる部隊に配備されているようだ。

 

「本当だ、欧州仕様の長刀持ってる…」

 

なんと言うか、帝国と米国の戦術機販売戦略が上手く噛み合った結果なのか住み分けに成功している。確かに最近は米国の企業とも仲が良い、先の事件さえなければより多くの分野で協力し合えていた。

 

「して、本題に戻りますね」

 

「旧隼についてだったな」

 

「東南アジアへの提供もありましたが、やはり自国仕様の改修を行いたいと考える国は多くてですね」

 

「拡張性無いんだって」

 

時間差で同じ問題を突き付けられるとは、中々困った事態になってしまった。隼改を輸出すれば良いのだろうが、帝国や欧州がまだ配備中という状況では少し難しい。その上折角住み分け出来ていた戦術機市場で、再び米国と火花を散らす展開になりかねない。

 

「…でもまあ、現地改修機って浪漫だよな」

 

「はい?」

 

「必要とされてる以上、俺達もその声に応えなきゃあならん」

 

机の中から引っ張り出して来た旧隼の概略図に赤いペンで幾つか丸を描き、それを何度か見た後で丸めて立ち上がった。

 

「明日の休みは無しだ、少し地下に籠る」

 

「無理はしないで欲しいんですが」

 

「半日で終わらせるさ、息子に誰だと言われたくないしな」

 

旧隼に隼改のパーツを転用、プリンタで製造可能な範囲の部品を再設計し余裕を確保する。これにより隼改の部品製造単価を下げつつ、低コストで延命を可能にする改修キットが完成した。

 

「本当に半日で終わらせましたね、これは設計班に回しておきます」

 

「まあ付け焼き刃だけどな、隼改が売られるまでの繋ぎに使い倒してもらうさ」

 

「ここまで長く戦わされるとは、第一世代機は皆思わなかったでしょうね」

 

「そろそろ引退して欲しいんだがな」

 

それを許さない状況に追い込まれており、余裕がないと言うのは悲しいものだ。しかしこの対応により旧隼の性能こそ大きく向上していないものの、最低限の拡張性確保に成功した。旧隼は隼改という後輩がやってくるまで、暫くの間代打を務めることとなる。

 

「老骨に鞭打つようで悪いが、頑張ってくれ!」

 

「1番鞭を打たれているのは我々ですけどね…」




旧隼の挿絵は新しいものに差し替えられます。



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