宇宙開発企業なんですけど!?   作:明田川

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シュヴァルツェスマーケン編
第七十四話 裏切りと内戦と


オスカー中隊の隊員達が赤髪の衛士に次々と物を渡していく、そのための列はそれなりの長さだ。

 

「テオドール、これ持ってけよ」

 

「コイツもだ、向こうは冷えるだろ!」

 

「あ、ああ」

 

そう言って渡されたのは秋津島開発のロゴが目立たないタイプの防寒ジャケットであったり、使い捨てのカイロなどの消耗品であったりなど秘密警察に目くじらを立てられにくいであろう品々だ。

 

「しっかし、帰るってのにこんなミスがあるとは」

 

「跳躍ユニットのフィンが歪むなんてな、大方吸入口に工具でも落としたんだろうが…」

 

欧州戦線の安定と機種転換訓練の修了を受け、彼ら東ドイツ最精鋭である666中隊は既に帰路に着いていた。しかしテオドール少尉の隼に不具合が見つかり、それの修理で彼の出発が遅れていた。

 

「社長から連絡だ、基地のカタパルトで向こうまで飛ばしても良いってさ」

 

「流石にそれは悪い、遠慮して…」

 

「そうは言っても東ドイツ行きの車列に単機で追いつけないぞ、ここは宇宙の旅を楽しんで来いって」

 

最初から彼を打ち上げるつもりだったのだろう、既にHSST用の戦術機格納コンテナが格納庫まで搬入されている。

 

「まあ外は見えんがな」

 

「恐ろしいにも程があるだろ!」

 

そう突っ込む彼を皆が笑う、良いキレだと言わんばかりだ。

 

「最初はツンツンしてたのに、打ち解けてくれて嬉しいぜ」

 

「すぐ舌打ちしてな、まーあ最初から良いヤツだって雰囲気は滲み出てたが」

 

妹さんとの再会は泣いたぜとオスカー中隊の面々は言い、何処からか解散前に撮影した集合写真を取り出した。

 

「現像する施設が遠くてな、遅くなったが受け取ってくれ」

 

「これは」

 

「何を隠そう、カラー写真さ」

 

彼の出発が遅れていなければ渡せなかった品であり、何かそういう因果でもあったのかもしれないと隊員達は思っていた。

 

「荷物はこのコンテナに入れてくれ、元気でやれよ?」

 

「…ああ、そっちもな」

 

コンテナを持って来たのは彼の機体に搭載されていたAI用の外骨格だ、メンテナンスのために取り外されていたAIユニットも搭載されている。

 

「なんだよ、感動のわか…」

 

そう言った瞬間に鳴り響いた非常事態警報の後、格納庫の戦術機が被弾した。着弾した際に見せる火花は見慣れた劣化ウラン弾のものであり、コンテナへと積み込もうとしていた隼の頭部が吹っ飛んだ。

 

「…れ?」

 

吹き飛んだアンテナが落下し、火花が飛び散る。全員が唖然としたが、衛士達は咄嗟の判断で声を張り上げた。

 

「伏せろォーー!!」

 

「作業員は退避!戦術機から離れろ!」

 

120mmがコックピットに撃ち込まれ、配備されたばかりの疾風も例外なく破片を浴びる。飛散した装甲は凶器と化し、機体の近くに居た作業員達は重症だ。

 

「…この駆動音、まさか」

 

「チボラシュカじゃない、バラライカか?」

 

そう、姿を見せたのは国連軍塗装のMiG-21バラライカだった。

移動中の車列は監視が続けられている、いつのまにか接近されていましたという状況なわけがない。

 

「格納庫から退避急げ、接近して来るぞ!」

 

「国連から迎撃機が上がってる、流れ弾に注意しろ!」

 

対抗手段が無いオスカー中隊の隊員達は一斉に格納庫から逃げ出したが、テオドール少尉は目の前で破壊された自らの隼を見て固まっていた。どうしていつもこうなるのかと言いたげな彼だったが、コンテナを抱えたままのAIが引っ張るようにして移動させる。

 

「またか!今度は何処の陰謀だよ!!」

 

「知りませんよそんなこと、馬鹿が考えてることは確かですがね!」

 

 

これ見よがしに暴れたバラライカは駆けつけた国連軍機によって撃墜され、テオドールの隼と共に爆散した。搬入されたばかりだった疾風にも被害はあり、特に整備士達の被害は甚大だ。

 

「トリアージだ!タグを持ってこい!」

 

「強化外骨格で瓦礫を退かすんだ、一時間が勝負だぞ!」

 

衛士達は感動の別れも束の間、強化装備のまま救助に奔走している。旅立つ筈だったテオドール少尉もそれに加わっており、手には治療の優先順位を決めるためのトリアージタグが握られていた。

 

「呼吸…無し、心拍無し、出血多量…」

 

テキパキと状態を確認した軍医が彼に手を伸ばし、手に持ったタグを渡すよう催促してくる。

 

「黒だ」

 

「あ、ああ」

 

666中隊の機体カラーリングにも採用され、BETAに対して時折発せられる黒の宣告という単語はこのタグを意味する。戦場にて死亡又は治療の見込みがない者に付けられるものだ。

 

「テオドールは居るか、緊急連絡だ!」

 

そう言いながら地獄と化した格納庫にやって来たのはオスカー中隊の衛士だ、赤髪ということもあり見つけやすかったのか駆け寄ってくる。

 

「東ドイツで内乱だ、666中隊も車列が襲われた!」

 

彼は思考が追いついていないのか、目を見開いたまま動けない。

 

「隊長から話がある、ついて来てくれ」

 

そう言って引っ張られ、連れてこられたのは小さな会議室だった。秋津島開発のロゴが付いた通信機器が大量に配置され、ケーブルは床を埋め尽くす勢いだ。

 

「これは一体…何をしてるんだ?」

 

「工作員の侵入があってな、重要な機器を掻き集めて別の場所に避難させたと言うわけだ」

 

そう言って投げ渡されたのは東側で運用されている突撃銃であり、工作員が持っていた物のようだ。全長は短く切り詰められており、一般の兵士が持っている物ではない。

 

「今回の内乱で少尉を帝国軍の格納庫ごと襲撃、ついでに火事場泥棒とは大胆不敵にも程がある」

 

「被害はどうなったんだ、聞いていいのか分からないが」

 

「軍用の衛星通信機を一つ掻っ攫われた、最悪の場合秋津島放送の衛星群ネットワークに攻撃が行われるかもな」

 

帝国陸軍の機械化装甲部隊が軽装の潜入部隊に遅れを取る訳がなく、殆どは警告の後発砲された大口径弾でミンチと化した。しかし証拠隠滅のためか爆発物を携行しており、格納庫に付随する施設の一部は損傷により使えない状況だ。

 

「俺も勘が鈍った、引退するべきかもな」

 

隊長が戦場で頼りにしてきた勘も、ハイヴの攻略後からは鈍る一方だ。

奪われてしまったとはいえ秋津島と同等のコンピュータを持たないソ連が防御を破れるとは思わないが、通信機の情報が他の手に渡るのは危険極まりない。

 

「HSST暴走事件のような騒動に利用されないとも言えん、何より現物をチラつかせるだけで相当の交換材料になる」

 

秋津島開発の高度な通信ネットワーク、その機密性を担保しているのはどの国も解読出来ない高度な暗号化にある。軍用品ともなれば手が出せる情報も多く、暗号の秘密が解かれるわけにはいかないのだ。

 

「秋津島開発は奪取された通信機のアクセス権を剥奪すると言っているが、中身を見られるのは困るそうでな」

 

誰がやったのかは知らないが、もし内乱中の東ドイツから他国に亡命するとなれば十分過ぎる対価となるだろう。そういった情報に目敏い奴の犯行か、それともソ連の陰謀か…

 

「帝国の上層部は対応を決めかねている、取り返すために東側へ軍隊を派遣するわけにはいかん」

 

「…ここまで話す理由が知りたい」

 

「少尉に頼み事があるからだ、分かるだろう?」

 

そう言って手渡されたのは秋津島開発製の衛星通信端末で、民間から衛士にまで広く普及しているタイプだ。

 

「衛星通信機の回収又は破壊を頼みたい、装備はこちらで用意する」

 

支援も端末から行うと言う訳だ、なんとも贅沢な話である。

 

「本気か」

 

「少尉が仲間と合流したくないとは思えんのでね、丁度いい条件じゃあないか?」

 

襲撃された車列に唯一追いつく方法を持ち、失われた戦術機の代わりを用意し、衛星からのバックアップすら受けられる。この内乱で空からの目を得られると言うのは、途轍もないアドバンテージだ。

 

「まあ少々…いや、大いに過激なやり方にはなるがな」

 

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