宇宙開発企業なんですけど!?   作:明田川

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第七十五話 SPFSS

「襲撃者に機体が強奪されたと言うのは本当か!?」

 

「隊長が人質に取られています、要求は東ドイツにまで機体をマスドライバーで運ぶことだと」

 

「何ということだ、嘘だと言ってくれ」

 

国連軍の司令部は突如起きた襲撃の鎮圧に動いたものの、いつの間にかオスカー中隊の隊長が捕えられていたという事実に頭を抱えていた。

 

「相手については、何か分かったかね?」

 

「ヘルメットを被っていて、話す際も変声器を噛ませているようで…」

 

「狙撃や戦術機による鎮圧はどうか」

 

BETAを目前にして行われた東ドイツのクーデターは、国際社会からは冷ややかな目で見られていた。オスカー中隊への被害も共産陣営の破壊工作だと目されており、国連は治安維持とBETA排除を名目に部隊を動かし始めている。

 

「作業員も脅されているんです、下手な対応をすれば隊長の身を案じるあまりマスドライバーを稼働してしまいかねません!」

 

そう反論するのはオスカー中隊のCP将校であり、彼が持ってきた端末では戦術機の外部スピーカーで脅されている作業員の映像が再生されている。

 

「コンテナの中身は疾風と聞いたが、超電磁砲は?」

 

現在において最も鹵獲を恐れるべきは疾風ではなく超電磁砲だ。疾風に使われている技術は確かに西側において最新鋭と言うしかない代物だが、未来における影響を考えれば無傷のレールガンというのは危険過ぎる。

 

「装備していません、副腕装備型です。しかし突撃砲や長刀といった各種装備品が共に詰め込まれていて、吹っ飛ばそうものなら二次被害は甚大です」

 

疾風は鹵獲を避けるために、ハイヴ攻略部隊以外でもS-11を搭載している。今回はそれが仇になり、もし自爆されようものなら飛散する装備でマスドライバーと周囲への被害は甚大なものになるだろう。隊長の生体情報を使えば機体を起動することも不可能ではなく、今この瞬間に打ち上げ基地が吹っ飛んでもおかしくない。

 

「包囲は緩めるな、どうにか対応を決め…」

 

「あっ」

 

「「えっ?」」

 

彼らが窓の外に目をやると、マスドライバーがコンテナを空高く打ち上げている真っ最中だった。

 

「何故発射したァ!?」

 

「ふ、不明です!」

 

全員が慌てふためく中、帝国の将校が俯いて机に顔を隠した。誰もが同情するなかで、彼はひとまず誤魔化せたことに安堵していた。

 

「(これで本当に大丈夫なのか気になるが、部下に手を出した奴らを殴り返せるなら…とはいえ、これで私も共犯者か)」

 

 

マスドライバーによって宇宙へと打ち上げられたコンテナだが、その中では顔色を悪くした赤髪の衛士がヘルメットを外して吐き気を堪えていた。襲撃者として隊長と共に打ち上げられたのは、666中隊のテオドール少尉だった。

 

「…衛星軌道に到達したか、気分はどうだ?」

 

「最悪だ」

 

「結構、これからは落ち続けるから覚悟しろよ」

 

そう言うと隊長は束の間の無重力状態中にコンテナの中を移動し、緊急時用と書かれた何かを弄り始めた。疾風が固定されていても尚余裕があるコンテナ内には、戦場で見慣れた補給コンテナが二つ載せられている。

 

内部は武器弾薬にドロップタンクまで積み込まれており、当分の間は動き続けられるだろう。隼譲りの信頼性を持つ疾風であれば、相当な無茶をしない限り連続稼働に支障は来さない。

 

「HSST無しの降下だからな、国連の軌道降下部隊さながらの突入になるぞ」

 

「あ、ああ」

 

「それと戦術機がダメになった時用の脱出装置があるからな、俺はコイツで宇宙に残る」

 

そうして秋津島の救助船に助けてもらい、宇宙港で治療を受けるという方便で宇宙に留まる。あかつきと言えば衛星ネットワークの中枢かつ秋津島のテリトリーであり、支援を行うのには打ってつけだ。

 

「…これは軍の作戦じゃないのか」

 

軍がやるにはあまりにも急で行き当たりばったりな行動だ、とても余裕がある帝国軍が焦ってここまでのことをやるとは彼には思えなかった。

 

「気が付いたか、こんな馬鹿をやるって言い出したのは秋津島の社長殿さ」

 

なんでか知らんが、お前らが相当気に入ったらしいと隊長は語る。脱出装置が起動してもコンテナは問題なく東ドイツへ向かう軌道を取り続ける設定になっており、ミサイルによる迎撃を避けるため外殻を分離してレーダーを撹乱する。

 

「詳しくはソイツに聞け、じゃあ暫くの間はお別れだ」

 

「待っ…」

 

颯爽とした去り際で、幾つか聞こうと思っていたことを質問する前に隊長は居なくなった。急に芝居をやると言われ、襲撃者役をやらされたテオドール少尉はまだ落ち着いてはいられなかった。

 

「ソイツって誰だ?」

 

『はい、プランWに基づき貴方を支援します』

 

抑揚のない中性的な人工音声がコックピットに響き、米国製の管制ユニットには無いサブモニターには秋津島開発のロゴと似たようなマークが表示されている。

 

『衛士思考操縦補助システムの音声インターフェースです、今後の予定をご説明致しましょうか?』

 

Surface Pilot Feedback Support System、略してSPFSSと液晶に文字が羅列される。これが人間の脳神経を基に作られたニューロチップを使用した、最新型のAIである。

 

『SPFSS、エスピフェースとでもお呼びください』

 

「…分かった」

 

『まず前提としましては、合流予定だった666中隊は既に拘束されているようです』

 

恐らくは国境付近で待ち伏せされたのだろう。AIが何処からその情報を得たのかは疑問だが、悪い報告であろうとも有益な情報であることに間違いはなかった。

 

『666中隊が使用している基地は現在、機影から見てMiG-23を有する秘密警察組織に掌握されています。その場所に666中隊の車列が誘導されていることを踏まえると、この基地に部隊員が拘束されている可能性は高いと言えるでしょう』

 

「空から直接行くと言うわけか」

 

『はい。彼らが隼を破壊せず持ち帰っている辺り、西側に関しての情報を部隊員から得ようとするのは自然かと』

 

希望的観測も含みますがと機械らしくない一言をSPFSSは付け加え、モニターアームを使って液晶をわざとらしく傾けてみせた。

 

「降下した後はどうする」

 

『敵戦力を殲滅、666中隊員を救出し通信機の捜索に当たってください』

 

AIは未だ駐留しているMiG-23の小隊相手に真正面から突撃、一対多の状況を切り抜けろと当たり前のように言い放つ。

 

「待て、俺はこの機体に乗ったことすら無いんだぞ!?」

 

『少尉の戦術機に蓄積されていた操縦データは保管されていたバックアップから復元、当機に反映してあります』

 

旧AIの情報を引き継いでいるため、初対面とは言えないかもしれませんねとSPFSSは告げる。目の前に居るのは、短い間とはいえ付き合って来た相棒…ということになるのかもしれない。

 

オスカー中隊のベテランでさえ振り回されたという逸話を知っていた彼は本当に大丈夫なのかと言いそうになるが、仲間を助けるために多少の無茶は承知だと自分に言い聞かせた。信頼出来る上官も、再会したばかりの妹も共に捕えられている、一刻も早く助け出さなければ。

 

『当機の性能を疑われているようですね、少尉』

 

「いや、そうじゃ…」

 

『隼との多対一演習にて、本機は小隊相手に勝利しています。無論超電磁砲は装備していない状況においての記録です』

 

今まで棒読みだったのにも関わらず、この瞬間だけなんとも誇らしそうな声色になるSPFSSを見て少しだけ気持ちが和らいだ。

 

『あと少しで降下開始地点に到達します、降下シーケンス開始』

 

コンテナ内の照明が落ち、コックピットが閉鎖される。疾風が待機状態から切り替わり、跳躍ユニットが熱を帯び始める。

 

『機体システムを戦闘モードに移行、各種兵装との接続再確認中』

 

網膜投影も再開され、少尉の視界に疾風の視界が重なった。火器管制システムは既に万全の状況であり、レーダーやカメラも全て順調に動作しているのが感覚へのフィードバックで感じられる。

 

「これは…」

 

全てが知覚出来るのではないかと勘違いしそうになるセンサ類、操縦桿と思考制御の反応速度、自身の手足かのように動く駆動系。まるで戦術機に乗っている気がしない、そう感じた。

 

『全てが隼とは段違いでしょう、マスター』

 

「ま、マスター?」

 

『貴方の名前をレコーダーに残さないための工夫ですよ、私が操縦者として認めたということでもありますが』

 

恐らく自身の性能に驚いた自分の様子を見て気分が良くなったのだろう、話し方に反してなんとも子供らしいヤツだ。機体の製造年を見るに、生まれてから一年も経っていないと考えれば早熟にも程があると言った方が正しいのかもしれないが。

 

『マスターのお手伝いを致しましょう、地球へ戻る覚悟はよろしいですね?』

 

「…ああ!」




2番機って鹵獲されがちですよね。

90話達成、100話まで突っ走りますよ!
と言うわけで、よければブクマと評価よろしくお願いします。
ゴールデンウィークで執筆に使う燃料を下さぁい!
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