宇宙開発企業なんですけど!?   作:明田川

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第八十話 援軍と撹乱と

東ドイツの国民は二度目の流星を見ることとなる、それは疾風奪還のために投入されたオスカー中隊だ。シュタージは既に666中隊の新鋭機について情報が出回っており、同様の特徴を持つ他国の戦術機となれば誤射の危険は大いにあった。

 

『暫くの間は666中隊とは少し離れた場所で行動させる、撹乱に使え』

 

所属する機体の中で1番通信感度が良好な疾風のアンテナを借り、二つの部隊の隊長は今後について話し合っていた。彼らは一度基地に戻り、補給と整備を受けている。恐らくこれが決戦までに行われる最後の補給になるだろう。

 

「良いのか?」

 

『問題ない、だが疾風を東ドイツ迷彩に塗り替えてやってくれ』

 

この攪乱方法は国際法に違反している、この混乱した状況下であれば再塗装されたとしてもある程度は効果があるだろう。

 

『国連からも勘違いされるしな、すまないが頼む』

 

「了解した」

 

『対外的には工作員から機体を奪還し、なし崩しにそのまま戦力として使わざるを得なかったと伝えておくさ』

 

「色々と助かる」

 

『気にするな、進捗は?』

 

「軍部の組織的な蜂起は成功しつつある、離反した部隊は少将の指揮下に集っている最中だ」

 

師団規模の機甲戦力が彼らに寝返るなど、着々と戦力は整いつつある。シュタージの戦術機部隊も治安維持を名目に駐留している国連が邪魔で思うように動けず、対応の遅れが目立ち始めた。シュタージの内乱で大隊規模の戦術機が既に失われているというのも、かなり大きな原因の一つなのではないだろうか。

 

『特に問題が無ければ成功する可能性が高い、そこまで来たわけか』

 

「ああ、秋津島からの支援もあってな」

 

補給機はゲリラとして動かざるを得ない戦術機部隊の補給を担い、秋津島の監視衛星から齎される敵の動向はシュタージ離反者からの情報提供という体に偽り活躍していた。

 

「少将もただ時を待っていただけでは無いようだ、弱体化したように見せて戦力を隠していたとは」

 

『軍部は元々やる気満々だった訳か』

 

彼らが隼を得られるよう手を回したのも軍の思惑だろう、まさか想定以上の支援でぶん殴られるとは思わなかっただろうが。

 

『国連軍により前線付近は掌握されている状態だ、その結果シュタージは少ない戦力を首都に再配置している』

 

「我々を警戒しているようだな」

 

『クーデターを成功させるにはベルリンの占拠は必須だろう、激しい戦闘になるぞ』

 

整備が可能な隼は兎も角、疾風が万全な状態で動く内に勝負したいというのは二人において一致した見解だろう。隼と同等の性能を持つとされるMiG-23の改修機、MiG-27が複数機確認されているからだ。

 

『軍の主力機は旧式のMiG-21、666中隊の隊長と隊員の二人が国民掌握のために抜けることを考えると不利じゃあないか?』

 

クーデターの旗頭になる二人は機体から降り、別の戦いに赴く必要がある。軍の戦術機部隊が弱いとは言わないが、数が集まろうとも対人戦の経験がある上に機体性能でも上の相手と戦うというのは難しい。

 

「少将が昔のツテで対空ミサイルを用意してくれるそうだ、運が良ければ数機落とせる」

 

『おっかねぇな、まあ勝算があるなら問題ない』

 

首都近郊に移動したオスカー中隊も少数ではあるもののシュタージの戦術機部隊を引き寄せており、戦力を分散させることに成功している。ここからが正念場だ、失敗すれば全てを失うだろう。

 

『…道半ばで死ぬなよ、これが大局を決める戦いになる』

 

「ああ、分かっているさ」

 

 

「再塗装は出来たが、借り物の機体にエンブレムまで入れるのはどうかと思ってな…」

 

整備が終わった隼と共に現れたのは、東ドイツ迷彩に身を包んだ疾風だった。666中隊の特徴的なエンブレムこそ入っていないものの、左肩には部隊機と同じく黒いライン塗装が施されていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「時間の問題もあった、すまんな」

 

眼帯を付けた整備班長が語りかける先は戦術機であり、テオドール少尉に代わって動作確認をするSPFSSが様変わりした自分の身体をまじまじと見ていた。

 

『いえ、ありがとうございます』

 

「燃料と弾薬は補給したが、そろそろ簡易整備じゃ機体が持たんだろう」

 

『…100%とは行きません、ですが十分です』

 

連続稼働時間が長い隼の血を受け継ぐ機体だ、多少の無理は問題ない。副腕が使えればシュタージの精鋭相手にも十分戦える、機体のセンサ類にも目立った損傷はない。

 

『共に戦うのも最後になると思われますが、これで私も部隊の仲間入りですね』

 

一人だけ全く違う塗装で疎外感を感じていたのだろうか、黒いライン塗装を見てなんとも誇らしげだ。

 

「おう、坊主を頼んだぞ」

 

『マスターのことはお任せください』

 

「あいつAIにマスターって呼ばれてんのか…」

 

短い間で整備士達に好かれたSPFSSはなんとも表現し難い満足感を得た後、コックピットを開いて大切な操縦士である衛士を待つ。

彼ら秋津島のAIは戦うためだけに生まれたのではなく、人に寄り添う良き友人としても設計されている。それでも冷徹な判断を下して敵機を次々と撃墜出来るのは、危険なほどの純粋さが生む思考回路の賜物だろうか。

 

『マスター、妹さんとのお話は終わりましたか?』

 

そんな懸念やら危惧やらは後でもいいのだ、それは人と同じように成長していけばいい。今はただ、彼の手助けをするだけである。




柴犬編はもうクライマックスです。

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