宇宙開発企業なんですけど!?   作:明田川

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第八十一話 首都と決戦と

決戦における先制攻撃は軍によるものであり、虎の子の対空ミサイルが巡航中のMiG-23を撃墜した。それと同時に首都近郊の戦術機格納庫へ砲撃が加えられ、複数機へ損害を出すことに成功する。

 

『誘導弾だと!?』

 

『格納庫に砲撃が、集積されていた物資が爆発しています!』

 

BETAに対して必要ない対空兵器は部隊規模が大きく削減されていた筈、戦術機迎撃に使えるようなミサイルなど運用出来る部隊はたった数個だ。それを少将は巧みに使い、彼らに経験したことのない恐怖を与えたのだ。

 

「シュタージの通信が丸聞こえだな」

 

『私の情報戦能力であれば当然です、動かれますか?』

 

「ああ、作戦開始だ」

 

二人欠けた中隊は軍の部隊を引き連れ、首都の掌握に乗り出した。疾風を駆るテオドール少尉は跳躍ユニットの推力に物を言わせ、混乱を長引かせるために市街地へと突入した。

 

「俺が囮になる、一機に対して複数で当たれ!」

 

飛ぶわけでもなくただ立ちすくんでいたシュタージの戦術機を眼前に見据え、36mmを放つ。たった数発の砲弾は立て続けに命中し、胸部のコックピットを掻き回した。

 

「このまま動いてMiG-27を引きつける、出来るか?」

 

『勿論です』

 

放送局の掌握に走った二人の元には行かせない、その思いを乗せて操縦桿を握る。疾風の存在を知った黒い戦術機が彼の元に急行するが、射角と視野が制限される市街地では発見することも困難だ。

 

『北から二機、来ます』

 

しかし疾風にはリアルタイムで更新される衛星写真が届けられる、入り組んだ都市だとしても空からでは丸見えだ。

 

「ああ」

 

ほんの一瞬飛び上がった疾風は突撃砲を一門ずつ敵機へと向けており、相手が撃ち返す前に劣化ウラン弾は着弾した。火花を散らして装甲を貫通し、一機が火を吹いて墜落する。

 

『まだ一機は生きてます、ご注意を』

 

装甲の分厚い肩部で砲弾を受けた一機は果敢に突撃して来るが、飛び込んだ場所にはもう彼はいない。まるで考えを読まれたかのように、自分であれば相手が何をするのか予測出来るとでも思わせるような未来予知でその場から去っていた。

 

『馬鹿な、一体何処に』

 

すぐ近くの交差点まで引いて、一直線の道路に相手を誘き寄せたのだ。逃げ場のない敵機は36mmの雨に降られ、すぐに動かなくなった。

 

『…足の速い機体が居ます、急速接近中』

 

「来たか!」

 

シュタージと軍の総力戦、その混沌とした状況下でも彼が1番の脅威だと認識されたということだ。MiG-27の編隊が迫る、相手の数は少々変則的な五機だ。

 

『相手はあと二機連れて来るべきでしたね』

 

「なんでだ?」

 

『使える腕の数は六本ですから、対応可能です』

 

それは冗談も含んでの回答なのだろうが、そう思わせるほどの性能を有しているのは間違いない。少しキツい相手だが、味方の被害を抑えるためには無理も必要だろう。

しかしここで、思いがけない援軍が到着する。

 

「テオドール、こっちは私が!」

 

編隊に向けて砲撃を加え、果敢に長刀を構えつつ突撃するのは666中隊のアネット少尉だ。僚機として軍のバラライカを従え、敵の編隊から二機を引き剥がした。

 

「アネットか!」

 

『ナイスタイミングです少尉、我々も出ましょう』

 

相手は三機、強がりを抜きにして考えると…どうにかしてもう一機減らしたい。かといって相手は敵の精鋭、しかも隼クラスの機動性ともなれば油断は出来ない。

 

「お前の推力も市街地じゃ使い難い、どうする」

 

『頭を抑えて建物の下に追い込みましょう、一つ手があります』

 

一度しか通用しない奥の手、奇襲には持ってこいの技があった。それはオスカー中隊が大隊だったころ、ワルシャワ条約機構軍から見せて貰ったものだ。

 

「…補助は頼む」

 

ナイフシースを展開し、国連軍で運用されているナイフを手に取る。刃を指で挟み、戦術機の筋肉である電磁伸縮炭素帯から適度に力を抜く。

 

『ナイフの腕、信じます』

 

進行方向を押さえ込むように副腕で突撃砲を放ち、相手に高度を下げさせる。そして衛星写真を元に相手が降りた道路を狙える場所を算出し、その場所へと一気に回り込む。

 

「見えた!」

 

激しい戦闘音が響き、大量の戦術機が存在するこの場所では音も振動も頼りに出来ない。相手は完全な有視界戦闘、不意打ちを喰らわせる隙は十分だ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

『ブルズアイ』

 

ど真ん中、そうSPFSSは呟いた。

投擲されたナイフはほんの少し弧を描き、回転も相まってMiG-27のワイヤーカッターをすり抜けて顔面に突き刺さった。メインカメラを失った敵機は訳も分からず突撃砲を乱射するが、120mmがそれを咎める。

 

「撃破!」

 

『爆炎に隠れて来ます、赤い機体!』

 

煙を突き抜けて現れたのは赤いMiG-27、シュタージのエース機だ。相手から放たれた36mm弾はこちらの胸部を捉えており、当たれば撃墜は免れない。

 

『緊急回避』

 

跳躍ユニットのロケットブースターが起動し、重い機体を一瞬の内に数メートル横にずらした。その結果砲弾は右肩部に命中するも、その内の一発が副腕を吹き飛ばした。

 

『右肩部損傷、副腕機能喪失、突撃砲脱落しました』

 

「やられた…」

 

接近されれば負ける、そう思って突撃砲を放つ。しかし、まるで泳ぐような機動で弾幕は回避され、絶好のキルゾーンだった道路の上から逃げられてしまう。

 

「逃がすかよ、飛ぶぞ!」

 

『まだ一機残ってます、ご注意を』

 

味方を目の前でやられ、曲芸まで見せられた相手は少し怯えながらも果敢に攻撃を加えて来る。それを飛び上がって回避し、大雑把に120mm砲から散弾を撃ち放つ。

 

『何だこれは、目が、跳躍ユニットが!?』

 

第一世代機と比べて装甲の薄くなったMiG-27には散弾が良く通る、まともに身動きが取れない敵機に本命の36mmをお見舞いする。

 

「アリゲートル、二機撃墜!」

 

『帰ったら撃墜マークのペイントを所望します、追撃を』

 

いつの間にか姿を消した赤いエース機を探すが、空には居ない。何処だと首を振るが、衛星からの映像によると相手は別の場所へと移動していた。

 

『相手は我々よりも重要な目標を発見してしまったようです』

 

「まさか」

 

『放送局の制圧に向かった部隊が狙われています』

 

あのエース機からの通信量が増えた瞬間、シュタージの黒い機体は動きを変えた。奴らは本命を直接潰す気だ、この混乱の中で地上の部隊が戦術機に襲われればひとたまりもない。

 

「クソッ、アイリスディーナ!」

 

『直掩に向かいましょう、この機体なら間に合います』

 

エンジンが唸りを上げ、一足先に移動し始めた敵を追った。今やるべきことはただ一つ、シュタージ共を追い抜くことだ。


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