宇宙開発企業なんですけど!?   作:明田川

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挿絵が渾身の出来。


第八十二話 犠牲と革命と

戦闘が始まってからというもの、宇宙から見守る二人の空気は最悪とも言っていい状態だった。社長は頭を抱え、隊長は腕を組んでディスプレイを睨んでいる。

 

「首都ベルリン周辺での戦闘だなんて、市民への被害は計り知れませんよ」

 

「大義だ正義だというのは野暮だがねぇ、まあ革命ってのは総じて血が流れるものというのは知ってはいたが…」

 

衛星写真を見れば分かる、戦術機が幾つも墜落したことにより火災が発生していた。首都近郊における戦闘も激化しており、戦術機以外の兵器も次々と投入されている。

 

「空の上から高みの見物とはいかない生々しさだね、これが僕らの仕業となると大罪人で間違いなしだ」

 

「…えぇ、そうですね」

 

ベルリンで今も尚増え続ける犠牲者の数を思うと、なんとも苦しいものがある。原作における外伝の一つ、その主人公達を手助けしたことにより国の首都が燃えているのだ。

 

「だがまあ、これで良かったのかもな」

 

二人が東ドイツへの人道支援は惜しみなく実施することを話し合っていると、放送局から国民に向けて演説が始まった。

 

 

「地上にもシュタージが!」

 

「気をつけろ、奴ら市民に紛れてるぞ!」

 

なんとか放送局を占拠した革命軍達だったが、その行動に感付いたシュタージが戦力を集中させ始めていた。地上では既に銃撃戦が発生しており、戦術機も真上で交戦中だ。

 

「RPGーッ!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

護衛のバラライカが地に足を付けた瞬間、狙い澄ましたかのようなタイミングで対戦車ロケット弾が飛来した。衛士は咄嗟に跳躍ユニットを噴射するが、避けきれずに被弾した。

 

「やられた、直撃だ!」

 

「撃ちやがった奴を潰せ、発射点は見えてるんだからな」

 

戦術機も放送局の周囲に集まり始め、国民に向けての放送が始まったことがシュタージに露見したことが分かる。歩兵に紛れて塗装を塗り直された無人の外骨格も参戦しており、正に総力戦だ。

 

「街の外で戦ってた連中まで来やがる、増援はまだなのか!」

 

「呼びかけていますが、軍の周波数にジャミングが…」

 

何度か響いた爆発音の後に空を見上げると、金属片のようなものが空を舞っている。

 

「チャフか!」

 

「対空ミサイルのレーダーから敵機消失、無線も混乱を極めてます」

 

相手の本丸に飛び込んで形勢逆転を狙う作戦は、シュタージが動ける機体全てを放送局に差し向けるという単純かつ強力な選択により破綻しかけていた。

 

「ここは死守しろ、放送が続く限り絶対…」

 

響く爆発音と立っていられない程の振動、銃を手放してしまいそうになる衝撃波の後に道路に降り立った機体を彼らは怯えながらも睨んだ。そこに立つのは赤いMiG-27、シュタージ率いるヴェアヴォルフ大隊の長だ。

 

「人狼の野郎か、クソッ!」

 

突撃砲が放送局に向けられる、周囲の機体は集まって来たシュタージへの対応で手一杯だ。歩兵が対戦車ロケットを向けようとするが、間に合わない。

 

『邪魔だ!』

 

その機体に対して外部スピーカーで叫びながら体当たりを仕掛けたのは、彼らにとっては見慣れない戦術機である疾風だった。被弾したことにより右肩の補助腕は使えなくなっていたが、好都合と言わんばかりに押し当てている。

 

「666中隊の四本腕だ、助かったぞ」

 

「例の鹵獲機か!」

 

双方が突撃砲を構えて即座に発砲、放送局に居る仲間をなんとしても守らなければならない疾風は被弾しようともお構いなしだ。

 

「直撃だぞ、相打ちか?!」

 

二機がほぼ同時に放った120mm弾は互いに命中していたが、その損傷度合いには差があった。疾風は肩部装甲を失うに留まったが、赤いアリゲートルは片腕を失っている。

 

「小銃でもなんでも撃ちまくれ、アイツを此処で戦わせるな!」

 

「上に飛ばせ!」

 

疾風の副腕が放った攻撃により相手は飛ぶしかなく、戦いは放送局の上空へと場所を移した。

 

 

『両副腕機能喪失、左腕基部に損傷です』

 

肩と腕一本、交換したと考えれば上々だ。爆炎を吸い込み一瞬咳き込んだ跳躍ユニットも調子を取り戻し、相手との距離を詰める。

 

「まだ飛べるか?」

 

『勿論です』

 

相手に突撃砲を撃たせるわけにはいかない、となれば接近戦に持ち込まなければならないだろう。だが相手は片腕を失おうとも相当な手練、アリゲートルの持つナイフよりも殺傷能力が高いマチェットも相まって油断は出来ない。

 

「突撃砲を破壊する!」

 

相手の兵装担架にはまだ突撃砲が残されている、あれを使わせるわけにはいかないだろう。片腕を失っている以上こちらが有利だが、相手の回避はSPFSSでも読みきれず砲弾を避けられる。

 

「避けられ…ッ!?」

 

相手が機体を仰向けにして弾丸を避けたのかと思えば、背中の突撃砲が火を吹いた。兵装担架を稼働させることなく、機体側で狙いを定めて撃ったのだ。

 

『迎撃を!』

 

何故か回避を促さないSPFSSの声に促されるまま左腕を振り抜き、放たれた120mm弾にぶつける。榴弾だったために左腕の肘から下が消し飛ぶが、背後には丁度放送局があった。避けていれば命中していただろう、なんという曲芸か。

 

『ナイフ投げをアクロバットで返されましたね、これで機体状況も五分ですか』

 

相手は虎視眈々と放送局を狙う隙を窺っているが、こちらも仕留める隙を狙っている。突撃砲のマガジンが空になった時が勝負だ、そこからは砲撃戦に頼れない。

 

「クソッ、小回りが!」

 

相手の回避機動に対して砲弾は掠ることもなく、遂に弾が切れた。その瞬間切り返すような動きで眼前に迫って来るのは、腕からマチェットを抜いたアリゲートルだ。

 

『反撃が来ます!』

 

咄嗟にナイフを抜くが、相手のマチェットと比較すると長さが倍近く違う。近接戦におけるリーチの差は明らかだ、このまま衝突したとて勝てるかどうか。

 

「俺はまだ」

 

思考するよりも早く操縦桿が倒れ、脊髄からの反射反応を戦術機が汲み取った。戦術機がとった行動はただ一つ、接触直前での逆噴射だ。

 

「何も終わらせて、無いんだッ!」

 

相手の攻撃は空を切り、それに驚いて前を見れば何かが投げつけられていた。それは弾薬が切れた突撃砲であり、それを隠れ蓑にしてナイフを構えた疾風が突っ込む。

 

『有効打!』

 

彼の攻撃は致命傷には至らなかったが、頭部のレドームを切り裂くに至る。レーダーを失おうとも本来なら周囲からのデータリンクで補えるが、シュタージ自らが行ったジャミングによりそれも出来ない。

 

「このまま…」

 

『駄目です、回避を!』

 

しかし前に展開された突撃砲の射撃により回避せざるを得ず、疾風も兵装担架による射撃を試みる。

 

「腕じゃないと射角が足らない、当たらないぞ!」

 

『片腕なんです、砲を持っても接近戦に持ち込まれれば対応出来ませんよ?』

 

レーダーを失わせたとはいえ有視界での戦闘は問題なく可能、またもや睨み合いの構図となる。赤いアリゲートルが市街地の中を飛ぶ中で、その道路には多くの市民達が歩いていた。

 

「これは」

 

『デモ行進という行動ではありませんか?』

 

よく見ればベルリンの壁に人が集まり抗議の声を上げ、街の中ではシュタージが市民の手により次々と捕縛されていく。仲間による放送は見事国民の魂を動かし、国の形を変えようとしているのだ。

 

「いや違う、アイツが…」

 

デモを見てからというもの、機体の揺れが増したように見える。まるで冷静さを失った衛士が乗る戦術機のような挙動を見せた敵機は、民衆に突撃砲を向けようとした。

 

「やめろォー!!」

 

咄嗟の判断だった、しかしロケットブースターの加速力を見誤った相手は避け切れずにナイフを管制ユニットで受けてしまう。

 

『建物に突っ込みますよ!』

 

屋根を吹き飛ばし、建物を数階潰して二機がめり込む。その衝撃によってナイフは深々と刺さり、確実にコックピットまで刃が達した。

 

「…敵機、撃破」

 

最後まで何かに囚われていた相手の衛士と彼が言葉を交わすことは無かったが、少尉はデモ行進を見て秘密警察に身を置く彼女が何を思って精彩を欠いたのかは少し気になった。

 

『ヴェアヴォルフ大隊長機撃破!繰り返す、ヴェアヴォルフ大隊長機撃破!』

 

シュタージの戦術機部隊を率いていた赤いMiG-27、その搭乗者であるベアトリクス・ブレーメの戦死がSPFSSにより革命軍と秘密警察の区別なく報告される。その結果ベルリンでの戦闘は革命軍側の勝利へと一気に傾き、シュタージの残存部隊は最寄りの基地への撤退を強いられることになる。

 

「終わった、か」

 

『はい、ひとまずは』

 

激しい戦闘でガタが来たのだろう、疾風の駆動系が一気にエラーを吐き始める。まるで今まで壊れるのを待っていてくれたかのように機体は膝をつき、四肢から力が抜けた。

 

『…すみません、もう動けないみたいです』

 

通信機に耳を傾ければ、放送局に次いで議会の掌握にも成功したようだ。英雄の娘にして西ドイツから来た666中隊の大型新人、カティアの姿もあるらしい。

 

『機体から離れた方がよろしいかと、人が集まって来ました』

 

シュタージの人間だと思われる人々と、ただ集まってきた野次馬で機体の周囲には人が増え始めていた。建物の影には武器を構えた人間も見えるなど、まさに万事休すといった状況だ。

 

『何、その心配は無い』

 

そう言って降り立ったのはオレンジと白の疾風、オスカー中隊の面々だ。

 

『国連軍だ!その機体から離れろ!』

 

そうやって戦術機が盾を構えつつ市民を追い払う中で、その中の一機がテオドール少尉にだけ通信を繋いだ。

 

『欧州は新政府を認めるってさ、ようこそ西側へ!』

 

中隊の隊長同士が話した際に言われたあの言葉、666中隊が勝った方が都合が良いというのは本当だったようだ。

 

「…そうか、やったのか」

 

テオドールは機体から降り、SPFSSも外骨格を起動してそれに続く。オスカー中隊が機体確保という演技をする中、彼は仲間と合流するために歩き始めた。

 

『マスター、今は危ないですよ』

 

そう言ってAIも後を追おうとするが、ふと振り返って機体を見た。自慢の副腕は吹っ飛び、片腕もついでに無くなり、駆動系がぶっ壊れた影響か煙まで噴いている。いざ外から見てみると、よく飛んでいられたなと思うほどだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

『あらら、大損害ですね…』

 

 

こうして、東ドイツの革命は終わった。多くの死傷者を出しつつも、666中隊と革命軍は目標を達成したのである。

 

東ドイツは対BETAの最前線として、またユーラシア大陸奪還の重要拠点として存在感を増していくのだが、その復興時には秋津島開発のロゴが描かれた救援物資が多く見掛けられたそうだ。




シュヴァルツェスマーケン編終了です、後日談やって社長パートに戻ります。原作外伝終盤を数話でやるのはちょっと無理がありましたが…もしこれで外伝が気になったという方が居れば!取り敢えずアニメがおすすめですよ!!

使わなかった挿絵を置いておきますね。

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