ジム廃業して飛んでパルデア   作:あさいかくり

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 新しいスマホロトムを買ったぞ。

 いつまでもジニア先生のお古を使わせてもらうわけにもいかん、給料日前なので手痛い出費だが背に腹はかえられない。今のご時世スマホないと何もできんのだわ……。

 

 通知が鳴り止まないから電源切ったけど。

 仕事の連絡はメールでくれ。

 

 技術の登録者急増問題についてはひとまず落ち着いたというか解決の目処が立った。

 純粋に回数をこなして数を捌けたというのと、ナンジャモからのアドバイスを元に授業の動画を収録して生徒たちに配信したのだ。実習部分は対面でやるほかないが、講義パートだけでも時短できるとだいぶ楽になる。

 

 対価としてバトルの最後に使ったあれのことを質問されたが、馬鹿正直に話すわけにはいかないので努力と鍛錬の賜物だと答えておいた。別に嘘は吐いていない。

 

「しかし、少し派手にやりすぎました」

 

 手持ちが久しぶりのバトルで張り切っていたというのもあるが、全世界配信でしていい戦いではなかった。

 当初の想定を超えて注目を集めてしまったし、ジムリ時代のキツい言動をデジタルタトゥー化されてしまったのは誠に慚愧に堪えない。

 ……勝負の後、周囲からの追及が面倒で煙幕張って逃走したのもアウトだよ俺の馬鹿。

 

 しかも後日、授業放り出したのがバレて校長室に呼び出された。厳重注意で済んだのが奇跡である。減給くらいは覚悟していたんだが。まだ給料一回も貰ってないのに。

 

 ほとぼりが冷めるまでは大人しくしよう。

 

『着信ロト!』

 

「電源切ったはずなんですが……」

 

『ナタネさんからのお電話ロト。僕の判断でお知らせしたロト、どうするロト?』

 

 マジか。まあ番号は昔から使ってた携帯のものだから、かかってきてもおかしくはない。

 

「繋いでください」

 

『かしこまりロト! ……ツー、ツー……ガチャ』

 

「おうウズ坊主! 元気そうだな!」

 

「その野太い声は……トウガンさん? なぜナタネさんの番号から?」

 

「お前、私相手だと電話に出ないだろうが。だから借りたのよ。まんまと騙されたな! グハハハ!」

 

 くそ汚いぞはがね使い。

 トウガンさんはシンオウ地方の現役ジムリーダーで、はがねタイプ専門の使い手だ。

 俺の担当だったコトブキシティと彼のいるミオシティは距離も近いのでそれなりに親交があった。色々と面倒を見てもらった近所のおじさんみたいな関係だ。

 ……ただ着の身着のままでこうてつじまに置き去りにされたことは一生忘れないからな。

 

 と、音声通話からビデオ通話に切り替わる。

 画面には持ち主だろうナタネさんの姿が映った。

 

「ごめんねー? 今日たまたまジムリーダーの集まりがあったんだけど、ちょうどウズくんの話になってさー」

 

「……もしかしてあの動画ですか」

 

「そうそう! いやあ、ナイスファイト! シンオウの初心者殺しはまだまだ健在だね!」

 

 言い方よ。俺が性格の悪い内容のジム戦を用意していたのは何も若いルーキーの芽を摘むためではない。

 

 ポケモン勝負とは、いやこの世界で旅をするということは常に不確定要素が付き纏うわけで、自然の脅威の前ではどれだけ準備をしてもし足りないということを体に教え込む役割を誰かが担わなければならない。

 その点でどくタイプかつトレーナーズスクールの教師は適任だ。そして下手に増長した中堅トレーナーが怪我をしないよう、初心者のうちから危機管理能力を育てる。

 

 別に勝てなきゃバッジをあげない、なんて意地の悪いことはしていなかったしな。相応の実力と知識を兼ね備えていれば俺は普通に合格を出す。タイプ相性を弁えていなかったり、自分のポケモンの状態を見極めずに力押しする連中は容赦なく振るい落としたが。

 

「相変わらずいい性格の戦い方をする。オレもまた君とやりたくなった」

 

 いやオクタン使うあなたに言われたくないですわ、デンジさん。

 

「でもウズさん、配信でローテンションは駄目! もっと気合い入れてこー!」

 

「ですです。あ、シンオウに戻ってきたら手合わせしていただけるとありがたいです、はい」

 

 相変わらず熱いねスズナさん。

 そんでスモモさんはあれっすよね、ポケモン勝負の事を言ってるんですよね?

 

「またコンテスト会場で会いましょー!」

 

 またって何。俺コンテストは出たことないですメリッサさん。口車で出演させる気かよ油断ならねえ。

 

「お前さんのドククラゲ、いい根性だった! だけどなぁ、最後の一瞬諦めかけただろ? ありゃいかんぞ」

 

 仰る通りですマキシマム仮面。この人ふざけてるようでいてすごい人なのよな。

 

「とにかく無事なようでよかった。連絡がないので少し心配していたんですよ、先生。……まあ絶対に生きているだろうとは思っていたけど」

 

「それはご迷惑をおかけしました、ヒョウタ君。しばらくはパルデアに滞在するつもりです。ああそうだ、ジムの方はどうですか? 上手くやれていますか?」

 

「どうにか慣れてきましたよ。教わった通りステルスロックは使っています……でも先生の後任は荷が重いですね。なかなか思うようにいかないことが多くて」

 

「それでいいんですよ。僕は僕なりの考えでジムを運営していましたが、ヒョウタ君がそれを真似する必要はない。専門も違うのですから当然です」

 

 新人教育に関しては、コトブキのトレーナーズスクールに残した資料を見て、俺の後任教師が役目を果たしてくれるだろうからな。むしろいわタイプの化石ポケモンのポテンシャルでどくどくとか決められたらその時点で発狂する自信があるわ。

 

 いやでも久々に同郷と話せて楽しかったな。たまにならいいんだよ、たまになら。

 現役時代は俺が避けてた節があるからな。やれジムの建物を新設しろだの、配布した道具は経費で落ちるから予算やりくりしないで別途申請しろだの、もっとメディアと公式戦に出ろだの、みんな口うるさくてさあ。

 

「では、そろそろ切りますね。皆さんも体調にはお気をつけて」

 

「はーい! あ、ウズくん。ハクタイ銘菓のもりのヨウカン、箱で送ったから食べてねー」

 

 ナタネ神……!!!!!!!

 感謝。圧倒的感謝。


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