ジム廃業して飛んでパルデア 作:あさいかくり
キズぐすりの採点が終わらねえ。
机にこれでもかと積み上げられた手つかずの生徒作の薬瓶、ひたすらに効能を確かめる単純作業は嫌いじゃないが、こうも続くと飽きてくる。
「ちょっとウズ先生!? 手から血が!」
「ああ、ミモザ先生。ご心配なく。これはキズぐすりの効果を確かめているだけなので」
医務室にいても暇なのだろう。ふらりと職員室に顔を出したミモザ先生は俺の傷を見て仰天した。すぐさま消毒しようとするのは学校保健師として流石の一言である。
「あ、そうなの? だからって、自分に傷をつけるのはどうかと思うよ」
「これが一番手っ取り早いんですよ。条件を揃えて治り具合を比較できますので。他人やポケモンにわざと怪我をしてもらうわけにもいきません。……ただ皆さんの目に入るところでやる事ではありませんでしたね。配慮に欠けていました。以後気をつけます」
「そういう意味じゃないんだけど」
今後は技術室か自室でやるべきだろう。血が苦手という人もいる、ここは生徒だって訪れるのだ。
キズぐすりが多くて持ち帰るのが面倒だったが、こういうのは横着したら駄目だな。
「それで、これがクラフト?」
「ご興味がおありで?」
「まあねー。噂になってるし。生徒がキズぐすりを自作するようになったせいで、ますますあたしの仕事がなくなったっていうかー」
「それは……その、すみません」
「あー、違うの。別に文句が言いたいわけじゃなくって。怪我をした時にすぐ治療できたらそれに越した事はないでしょ? やっぱり元気なのが一番だし。だから感謝こそすれ、ウズ先生を責めるのは違うと思うよ」
何だこの人、ぽやっとした容姿で人格者か?
「でも興味があるのは本当。あたしも薬作れるようになりたいし。少し見せてもらってもいーい?」
「構いませんよ。後でレシピをお渡ししましょう」
医務室の薬を切らした時など、ミモザ先生が自作できれば困らないだろうからな。俺がクラフトして卸してもいいが現状でも仕事仕事で手が空かない。冷静になって考えると、どうして俺は頑張って働いているのだろう。アンサーは金。世知辛えよぉ……。
さて、それでは続きに取り掛かろう。
まず手に取ったのは綺麗な色合いの薬瓶。名前欄にはペパーと書いてある。あの熱心な男子生徒か。
ふむ……透き通るような色味。クスリソウ特有のツンと香る青臭さは丁寧に繊維をすり潰してある証拠だ。オレンの実は細かく刻んでから加工してあるな? 授業では説明しなかったがいい工夫だ。自力でこれに辿り着いたのだとすれば、普段からこうした作業に慣れているとみた。
「薬効は……うん、文句無しですね。素晴らしい」
ナイフでつけた浅い切り傷が一瞬で塞がる。高品質の証拠だな。百点満点の花丸ちゃんだ。
次は……ハルトか。
ペパーと違って創意工夫はしていないが、授業で教えた手順を丁寧にこなしたのが分かる出来だった。基本に忠実なのは悪くない。失敗はしないし一定の品質を保つことができる。レシピ通りに作る、その当たり前を真面目にこなせるのは美徳だろうよ。
「効果も既製品より幾分高い。合格です」
あえて点数をつけるなら八十点か。
続いて手に取ったのは若干二色のマーブル模様になっている薬瓶。これはネモだな。
まず間違いなく、二つの材料を十分に混ぜ合わせなかったのが原因だろう。うーん惜しいな。下拵え自体は割としっかりできているんだが、仕上げを焦ったせいで成分が分離している。多分もう少し時間があれば完成まで持っていけたはずだ。
「ふむ、傷は治っていますね。とはいえ市販のものと同程度か少し上……まあ及第点でしょう」
七十点といったところかな。十分だと思うよ。
ちなみにこちらで少量を取り分けて撹拌したところ、ハルトのものと同程度の薬効を発揮した。やっぱり時間、あと丁寧さが今後の課題だろう。
…………で、だ。
「ねえウズ先生、これ本当にキズぐすり?」
「そのはずなんですがね」
あえて避けていた黒い薬瓶。ミモザ先生もその異様さに気圧されているようだ。いやおかしいだろ、何を混ぜたらここまでドス黒い色になるのよ。
「製作者は……アオイさんですか……」
「これ塗るの? やめといたら?」
「いえ……匂いを嗅いだ限り、毒はなさそうです。それにこれでもどく使いなので多少は耐性があります。ミモザ先生、万が一の場合はお願いします」
「えっ、ちょっとそういうのやめてほしいんだけど」
ええい、ままよ。
「……どう?」
「平気ですね。むしろ体調が改善したような」
これあれだな? かいふくのくすりだな?
おそらく自前の材料を追加した結果、化学反応を起こして変色したのだと思われる。察するにクラボの実、モモンの実、チーゴの実、ナナシの実あたりか。なんでもなおしの材料だな。足せばいいってものじゃねーよ。
素材を下処理してオボンの実とキングリーフをベースにしたら、もっと色合いが改善すると思いました。まる。
独自のアレンジを加えるセンスは天才的だが、まずはレシピ通りにクラフトする事を先生は覚えてほしかったです。ハルトの爪の垢でも煎じて飲め。