ジム廃業して飛んでパルデア 作:あさいかくり
スマホロトムに匿名のメールが届いた。
差出人は不明だが、文面から推察するにアカデミーの生徒だろう。内容は授業に関する質問というか要望だ。
「クラフトキットを販売してほしい、ときましたか」
現状、クラフトキットは授業に参加した生徒にのみ配布している。工具なので取り扱いには注意が必要だからな。その点を対面で説明してから渡すようにしている。
だが、メールの差出人は不登校の生徒の中にも技術に興味を示している者がいると示唆していた。配信した動画を見たのだろうか? あれはアカデミーに籍を置いていれば誰でも視聴できる設定にしたからな。
技術の授業をきっかけに、学校に足を運ぶようになってくれたら万々歳なのだが。不登校と一口に言っても個々人の事情があるだろうからこちらとしても登校の無理強いはできない、となるとやはりクラフトキットを手軽に入手できるようにするべきか。
「一応、普通の道具でもクラフトは可能ですが……やはり使い勝手が異なりますし、オンライン授業だと質問もしづらいでしょうからね。動画の通りに扱えるクラフトキットの方が……」
うーん、しかしなあ。
「先生?」
「おやボタンさん。技術室に忘れものでも?」
「……まあそんなとこ」
イーブイのバッグを背負った女子生徒が、廊下からこちらを覗いていた。唸っている俺を不審に思った様子だ。違うのよ、別に悪い事はしていないんですね。
「……」
「……」
「……ボタンさん。僕に何か?」
黙ってこちらを見られても困る。用事があるのなら話してくれないか。
「その……さっきの、悩み事?」
「いえ、大した事ではないのですがね」
匿名のメールが届いた事は伏せて、不登校の生徒とクラフトキットの問題について話した。……少し愚痴っぽくなってしまったな。生徒相手に何をしているのだか。
「先生は、どうするつもりなん」
「悩ましいですね。生徒の要望には可能な限り応えたいと思うのですが、実際にやるとなると懸念事項がいくつかあります。たとえば、誰でも簡単にクラフトキットが手に入れられるようになったとして、クラフトの技術を悪用されはしないか、とか」
まあ杞憂だとは思うがな。道具が手元にあっても、知識が付随しなければただのガラクタに過ぎない。
「ただ例の……スター団でしたか? 彼らはアカデミーの生徒ですから、僕の授業動画を見ることができる。その点が少し不安といいますか」
「そんな事ないッ!」
ボタンは突然大声で叫んだ。いきなりどうした。
「スター団はクラフトを悪用なんかしないし。勝手なイメージで好き勝手にそういう事を言うの、あんまり良くない……と、思う……」
「……」
「その……偉そうな事言ってごめんなさい」
「……いえ。今のはあなたが正しい。謝らなければいけないのは僕の方です。申し訳ない」
自分で真実を確かめもせず、噂だけで物事を判断するのは教師として、いや人間として間違った行動だった。俺は生徒の身近な大人として模範的な言動を心がけなくてはならない立場だというのにな……まだまだ未熟だ。
「ありがとうございますボタンさん。おかげで決心がつきました。クラフトキットを購買部に置いてもらえるよう、クラベル校長に打診してみます。もちろんネットでの購入も可能にして……スター団の皆さんに、お詫びになるかは分かりませんが」
「……! ううん、別にうちは何も……でも……これがきっかけになるといいんだけど……」
何やら達成感に満ちた顔だな。それと緊張から解放された様子、まるで凶暴なハガネールから命からがら逃げ延びた時の俺を見ているようである。
いやそれ街中でする表情じゃないし。