ジム廃業して飛んでパルデア 作:あさいかくり
テスト期間中は図書館が生徒で賑わう。
無料の参考書が揃っている上に自習スペース完備とくれば利用しない手はないだろう。寮の自室が飽きたから気分転換に訪れるという生徒も多い。
俺は受付で本の検索を手伝ったり、あとは生徒のちょっとした質問に答えたりでわりと忙しい。司書教諭ってのは暇そうに見えて案外大変なのよ。
「ウズ先生、また勝負しよう!」
「見て分かる通り仕事中です。それとネモさん、図書館ではお静かに。他の利用者の迷惑になります」
このネモ、本当にところ構わずだな。フルバトルで相手したろうに。ちなみに戦績は一勝一敗である。しかも多分あっちは本気じゃない、勝負を楽しんでやがる。型バレた後の即連戦はきついって。対策させて。
「だいたい、ネモさんは勉強をせずともよいのですか? 試験前でしょうに」
「え? テストって普段から授業を聞いて予習復習していれば解けますよね?」
「……それを他の生徒の前で口にするのは避けた方がいいですね。下手したら戦争になりますよ」
そうだ彼女勉強はできるんだったわ。俺の授業も、話聞いてないようで真摯に取り組んではいた。キズぐすりの評価をフィードバックして、次の授業では丁寧にクラフトしていたし。根は真面目……なのか……?
「何の話? 私も混ぜて!」
「アオイ! わあ、また強くなったのが分かるよ……! 今から軽く勝負しない?」
「いいよ。ハルトが構ってくれないから暇だし」
「アオイさん、あなたもです。少しはハルトさんを見習って勉強してみてはどうですか」
「? テストって自分の実力を測るためのものですよ? 直前で勉強するんですか?」
ブルー、お前もか。
君たちの言は正しいよ。しかしな、正論は時に人を殺すのだ。具体的には学生時代の俺に刺さる。
「まあお二人が問題ないのであれば、こちらとしては何も言えないのですが。勉強に取り組む人の邪魔だけはしないようにお願いしますね」
「ハルトは私を邪魔に思ったりしないもーん」
「二人は本当に仲良しだね」
「そうだよ。なにせ幼なじみだからね。私にはハルトを守るという大事な役目があるのです! だからネモにだって負けないよ……何度挑まれても、勝つのは私だ」
「〜〜〜……ッ! イイ、いいよアオイ! さあやろう早く戦ろう今すぐ戦ろう!」
いや怖っ。弱冠十歳前後の子供が出していい迫力じゃないんだが。もう殺意にまで到達してない? それを受けて平然とするどころか歓喜に震えるネモさんも何なの。
「あ、そうだ」
ネモに手を引かれたアオイは、急に何かを思い出したように立ち止まって振り返る。
「ウズ先生はいろんな地方を旅してたんですよね」
「そうですね。アローラ他いくつかの地方には訪れた事がありませんが。それがどうかしましたか?」
「じゃあ、ひでんのくすりって知ってますか?」
また珍しい名前を聞いた。どんなポケモンでもたちまち元気になるという代物。ジョウトのタンバシティにあるくすりやが取り扱っているが、効き目が強すぎるため余程の症状でないと処方を断られてしまう。
第二世代では、アサギの灯台で苦しむデンリュウの「アカリちゃん」を助けるというイベントがあったな。
ダイパだと210番道路を占拠するコダックの頭痛を治すために、シロナさんから渡されるのだったか。
「生憎と実物を目にした事はありませんね。アオイさんの手持ちに病気の子が?」
「いえ、友達のポケモンが……今はちょっとずつ回復してきているんですけど」
なるほど、友達思いで実に泣ける話じゃないか。
協力してやりたいが、時系列的にシロナさんは現物を所有していないだろうな。我が故郷、なんだかんだとギンガ団はもう壊滅してるそうで仕事が早い。
タンバのくすりやに事情を説明するのは……いやどうかな。これは俺の想像も込みだが、
「お友達のポケモンが回復に向かっているなら、現状の治療法を継続するのが良いのではないかと。ひでんのくすりは効果は確かですが、その分ポケモンの体に与える負担が大きい。他に手の尽くしようがないのであれば話は変わってきますが」
副作用とか出ると大変だからね。遠回りであっても、負担の少ない治療法が見つかっているなら、今後を考えるとその方がいい。一応は俺もどく使いなのでな。この手の問題は多少知識がある。くすりやの親父も同じ事を言うだろう……きっと、たぶん。
「差し支えなければ、その治療法とやらを教えていただけますか? アドバイスできるかもしれません」
「秘伝スパイスっていうのが……」
ほうほう、巨大なヌシポケモンに守られている伝説の調味料で。長期間継続して食べると巨大化するほどの効果があって。サンドウィッチにすると美味しい。
……なにそれ? 本当に食べて大丈夫な薬膳?
しかもまたパンに挟むんかい。
「であれば……アオイさん、あの葉っぱを覚えていますか? あなたがげんきのかけらとピーピーリカバーに混ぜ込んだあれです」
「まだ持ってますけど」
「それはキングリーフと言いまして、『ハーブの王様』と呼ばれる薬草です。薬に含まれる薬効成分を高める性質があります。秘伝スパイスと合わせて摂取すると効果的かもしれません」
「なるほど! ありがとうウズ先生、試してみる!」
「絶対に、まずは少量で試してくださいね。薬は組み合わせによっては毒に変わります。もし不安なら僕の方で毒味を……大事な話なので聞いてくださいね」
アオイは早速スマホで電話をかけ始める。気持ちは分かるが図書館内での通話は禁止です。
そんでもってネモとのポケモン勝負はするようだ。子供はまっこと元気じゃのう。