ジム廃業して飛んでパルデア   作:あさいかくり

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 スマホロトムがハッキングされた。

 

『はじめまして。わたしはカシオペア。火急につき、このような手段を取ることを許してほしい』

 

 自室で休んでいる時に、突然こんな音声がスマホから流れたら誰だって困惑するに違いない。

 

「今この場で警察に通報する選択肢があるのですが、そちらとしてはどのようにお考えでしょう」

 

『……できれば話を聞いてから判断してもらいたい。あなたも無視できない内容のはずだ、ウズ先生』

 

 ひとまずリアルタイムの通話であること、相手は俺の素性を把握していて、明確な目的を持ってハッキングを仕掛けた……ここまでは今のやり取りで予想できる。

 

 厄介事の匂いがプンプンするんですけど。

 

「無視できない、というのは?」

 

『このままでは、あなたが広めたクラフトの技術が悪用されてしまうかもしれない』

 

 懸念はしていたが、そうか。

 

「詳しく」

 

『あなたは一年半前にアカデミーで起きた事件を知っているだろうか?』

 

「いいえ。僕は赴任していませんでしたから。他の先生からお話を聞いたこともないですね」

 

『では簡単に説明しよう。「スター大作戦」と呼ばれた事件の一部始終を』

 

 カシオペアは語った。アカデミーに存在したいじめと、スター団の結成、そして教師陣の総辞職について。

 スター団ってそんな経緯があったのかよ。今では不良集団の代表ですみたいな顔してるのに、お前ら結成当初の志はどうした。

 

『新参のメンバーは当時の事情を知らない者も多い。今やスター団は問題児の集まりと見做されている。だから「スターダスト大作戦」を決行し……いや、話が逸れた』

 

「この話は前置きなのですね。ではそろそろ本題に移っていただけますか」

 

『あなたは要望を受けて、授業に参加していない生徒でもクラフトを学べるようにしてくれた。だが、その知識が心無い連中の手に渡ってしまったようなのだ』

 

「その方々の情報と、何より根拠はあるのですか?」

 

『ある。犯人は、先程話した、一年半前にアカデミーから去った元生徒の一グループ。彼らは自分たちを退学に追いやったスター団を恨み、報復しようとしている。不審な動きをしていた彼らのSNSを覗き見たところ、そうした内容のやり取りが交わされていた』

 

 件の証拠画像が俺のスマホに転送される。これが事実なら、たしかに放置してはおけない。

 やろうとしてる悪事は小さな規模のようだが……それでも被害者が出る恐れがある。何より、クラフトという技術を貶められるのは捨て置けないわな。

 

「ですが、あなたの狂言という線も捨てきれない」

 

『……』

 

「なのでひとっ走り確かめてきますね」

 

『は?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 てなわけでアンブッシュじゃい。

 カシオペアの証拠画像と、過去の生徒名簿……は改竄された形跡があったのであまり役に立たなかったが、とにかく証拠を頼りに聞き込み、被疑者を尾行して根城を突き止め、全員が揃ったタイミングで強襲した。

 

「ひ、ひぃ……!? 何なんだよお前……ッ!」

 

 そしたらね、大当たりだったのよ。

 廃墟には数人の少年、そしてどこから入手したのか、クラフトキットが置いてある。傍らの鞄にはそれなりの額の現金が詰め込まれていた。あとは取引に関するメモ。

 

 こいつら、クラフトで作ったボールを、市販のボールと偽ってスター団に売りつけてやがった。

 クラフト製のボールと知っていて使うならいいが、市販の商品と誤解したままボールを使用したらどうなるか。

 クラフトで作製したボールにはポケモンの保護機能が備わっていない。つまり捕獲したポケモンが、他の誰かに奪われてしまう恐れがあるのだ。

 

 にしても巧妙な偽装だよ。パッと見ただけでは判別できない。その技能と熱量を他に向ければいいものを。

 

「カシオペアさんの言葉は本当のようですね」

 

「だ、誰だ!? 誰がこの場所をバラした!?」

 

「馬鹿ですかあなたは。こんな子供騙しの秘密基地、大人の目を欺けるわけがないでしょうに」

 

 ちなみに犯人は全員制圧済みだよ。手持ちのポケモンたちが張り切ったからね。犯人らに怪我させないように抑える方が大変だった。

 

「先に忠告しておきますね。僕のポケモンは毒に通じているので抵抗しない方が身のためです。あなた方の手持ちが入ったボールは預かってますから、無茶はできないと思いますが念のため」

 

 お手柄だぞゲンガー。初手トリックを成功させたのは表彰ものです。

 

「さて質問です。クラフトをどこで学んだのですか?」

 

「……」

 

「構いませんよ。あなた方には黙秘権がある。まあ予想はついてますがね。……そこに隠れているスター団のしたっぱさんから教わったのでしょう?」

 

 物陰で震える少年は特徴的なサングラスを身につけている。はてさて、彼は白か黒か。

 

「どうも。僕の予想が間違いなら首を横に、正しいなら首を縦に振っていただけますか?」

 

 俺の問いかけに、スター団のしたっぱ君は首を縦に振った。肯定。クラフトを流出させたのはこいつか。

 

「何故このようなことを?」

 

「ち、違う……そんなつもりじゃなかったんです」

 

「ではどういうつもりだったのですか? お金がほしかった? それともスター団を陥れたかった?」

 

「違います! 俺、クラフトの動画を見て、なんだコレすげーってなって……もっとみんなに知ってほしくて……そうしたら、その人たちが楽しそうに話、聞いてくれたから……みんなを騙そうなんて、これっぽっちも……」

 

 ……そうか。

 したっぱ君に悪意はなかった。だが、彼は結果として悪事の片棒を担ぐ羽目になった。抜け出せない段階になってから犯人に脅迫されたのだろう。

 元いじめっ子の犯人グループを知らなかったということは、新参のメンバーだった可能性が高いか。

 

「少し待っていてください。君の処遇については、後でゆっくり話し合いましょう」

 

 頷いたしたっぱ君の肩を軽めに叩いて、俺は背後を振り返った。……身動きの取れない、俺の手持ちに囲まれて怯える犯人集団を睨む。

 

「教育的指導をしてからね」

 

 覚悟しろよお前ら。命は取らないでおいてやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カシオペアさん。裏付けが取れましたよ」

 

『あ、ああ。信じてもらえたようで何よりだ……しかし、彼らをどうする?』

 

「警察に突き出すのは躊躇われますね。したっぱさんが芋蔓式に前科持ちになってしまうやも」

 

 まず情状酌量の余地ありと判断されると思うが、司法には詳しくないのでどうにも分からない。

 

「しばらくは動くことすら出来ないでしょうから、僕の手持ちに見張ってもらいます。したっぱさんについては……本人の口で直接、仲間に謝罪したいとのことなので一旦解放しました」

 

『信じるのか?』

 

「信じたいですね」

 

 生徒を信じた結果こうなっているので、説得力はないけどな。クラフトを不登校者も学べるようにと意思決定をしたのは俺、つまり責任は俺にもある。

 

「とにかく。まずは既に販売されたボールの対処、そして注意喚起をしなくては」

 

『後者については任せてほしい。あなたのチャンネルに投稿すればいいだろうか』

 

 それハッキング前提なのよ。今回は助かるから目を瞑るけどさ。こいつ遵法精神の欠片もねーな?

 

「スター団の皆さんと直接会ってお話するというのは」

 

『不可能だろう。あなたはアカデミーの教師だ、まず門前払いされる。いや、どく組チーム・シーのボスならあるいは対話に応じるかもしれないが……』

 

「では手段は一つですね」

 

『策があるのか。なら聞かせてほしい』

 

「カチコミします」

 

『は?』

 

 よーし。久々に本気出しちゃうぞー。

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