ジム廃業して飛んでパルデア 作:あさいかくり
〜ほのお組チーム・シェダルのアジト〜
「た、大変ですボス!」
「あぁ? オレはもうスター団のボスじゃねーって言ってるだろ。あいつらに負けたんだからな……いやそれより。この騒ぎは何だ?」
「カチコミです! 我々のアジトにカチこんできたやつが、今まさに暴れています!」
「どこのどいつだ、スター団にケンカ売るバカは。まさか、またあの二人じゃないよな?」
「いえ! 侵入者は一人です!」
したっぱの報告にメロコは眉を顰める。
一人? たった一人でアジトに乗り込んでくるやつがいるのか。彼女は内心で呟いた。だが、アオイとハルトという規格外と対峙した後なのでまだ驚きは少ない。
「チッ……オレが出る。お前らは下がれ」
「駄目ですボス! いくらボスが強くても、あいつと戦うのだけは!」
「舐めてんのか? オレだってあれから鍛え直して」
「いえ、そうではなく」
したっぱは言い淀んだ後、
「人間がポケモンと戦っているんです!」
「……あ?」
沸騰した思考を冷ます一言を告げた。
〜フェアリー組チーム・ルクバーのアジト〜
度重なる悲鳴にオルティガは舌打ちする。
「相手はたった一人だろ? 数はこっちが上なんだ、物量で叩き潰せよ」
スター団の十八番、複数のポケモンを繰り出して侵入者を圧倒する団ラッシュと名付けられた戦法。初見の相手はまず戸惑い、不慣れな戦いで指示を誤る。拙いミスで曝け出した隙を容赦なく攻める、この波状攻撃を破ったトレーナーは現状二人しかいない。
「おいオマエ。報告しろ、戦況はどうなってるの」
「は、はいっ! それが……どうやら侵入者はポケモンをボールで殴りつけているようで」
「へえー……あのさ。ふざけてるわけ? そんな馬鹿げた話、信じるわけないだろ」
「本当です! しかも何匹かのポケモンはそのまま捕獲されてしまい、みんな混乱しています!」
どいつもこいつも。
オルティガは早々に自らが出張る支度を始める。スターモービルは例の二人に完膚なきまでに破壊されてしまって、未だ修理はできていないがやりようはある。
「スター団を敵に回したこと、後悔させてやるよ」
ボールを取るためにしゃがんだオルティガ。彼の頭上を、何かが通り過ぎる。
「……?」
遠距離から飛来したそれは、オルティガの見間違いでなければ正真正銘のモンスターボールであり。
二投目、三投目と続けて彼方から投擲されるそれはもはや一種の弾幕だった。
「な、ちょっ、はあーーー!?」
幸いにしてオルティガとしたっぱには命中しない、どころか全てあらぬ方向に逸れていく。だがしたっぱが連れていたパピモッチがボールに捕えられた光景で、彼は報告が真実だと理解した。
「ああ!? 私のもちぱんちゃん!? 最近捕まえたばっかりだったのに!」
「ボールは落ちてるだろ! 回収して誰にも渡すなよ! 他のやつらにも伝えろ!」
かろうじてオルティガが出来たのは、味方に指示を出すことだった。
〜かくとう組チーム・カーフのアジト〜
(……強い)
ビワは己の経験から、目の前の相手が相当の使い手であることを察して身構えた。
既に味方は下がらせてある。他のメンバーでは相手にならない。何より仲間と手持ちのポケモンをいたずらに傷つけるのは彼女の本意ではなかった。
強敵の動作を一瞬たりとも見逃さないよう、ビワは相手の様子をつぶさに観察する。
(大人の、でも若い男の人。白いきつねのお面で隠れているから顔は分からないけど、たぶんそう。線は細い。ただ筋肉は鍛え上げられてる。あの服は……防寒具みたいだけど身軽で動きやすそう。ポケットに道具をしまっているかも、注意しないと)
緊張するビワに、相手は挑発の意を込めて手招いた。
「っ……ウォオオオーーーッ!!!」
裂帛の気合いと共に拳を繰り出す、回避される、続けてローキック、これも跳んで躱される。
何をしてくるか分からない正体不明の相手だ。だからこそ、超至近距離まで肉薄したインファイトで回避に意識を集中させ、何もさせない。その余裕を与えない。
「チーム・カーフを……スター団を守るんだ……! ボスじゃなくなっても、わたしは……!」
「……」
「みんなを守る! 絶対に傷つけさせはしないッ!」
ビワの宣言を聞き、わずかに相手の気勢が揺らぐ。その好機を彼女は見逃さない。
(今の攻防で分かった。この人、右側の攻撃に対しては一瞬だけ反応が遅れる)
しなるビワの左脚。相手の死角に放たれた回し蹴りは、確実に側頭を刈り取る……かと思われた。
(っ、右腕で防御された! でも、この感触は骨が折れたはず。悪いけどこのまま攻めて拘束する!)
白熱する思考が高速回転するなか、ビワはお面の下でにやつく相手の異変を感じ取った。
咄嗟に飛び退いて距離を取る。次の瞬間、相手は懐から取り出した球体を地面に叩きつけ、吹き出した白煙が相手と周囲を覆い隠す。
煙が晴れた後、そこには影一つ残されていなかった。
〜どく組チーム・シーのアジト〜
「止まるでござるよ。曲者」
影に潜む侵入者をシュウメイは見逃さない。
アジトにカチこみをかけ、派手な大立ち回りを演じる。一見はスター団にケンカを売る行為にしか見えない。しかし忍者を愛好するシュウメイには分かる。これはミスディレクションであると。
「購入した物資の強奪に来たのでござろう。メンバーの目は誤魔化せても、我の目は誤魔化せぬ。スター団に仇なす不届き者はこのシュウメイが成敗してくれる!」
シュウメイの言に、侵入者はお面の下で困ったように微笑み……両手を合わせて深々と一礼した。
となれば当然シュウメイも応じないわけにはいかぬ。忍者は礼に始まり礼に終わる、挨拶を疎かにする輩は忍者の風上にもおけないルードであるからして。
「よもやユーも忍道を嗜む者とは……そのお辞儀、実に天晴れ。であればこそ! 何故このような不義を働いているのでござるか!」
「……」
「それは、ぼんぐりボール? たしかに我は最近クラフト製のボールを購入したでござるが……はっ、もしや! ユーは侵入者などではなく、我らに忠告を与えに来た同志でござったか!?」
相手は首を傾げつつも頷いた。言語化するなら「少し違うけど大体合ってるからまあいいや」である。
「我はクラフトの修行に励む者、クラフト製ボールと市販のボールの差異を見抜く程度は朝飯前。チーム・シーを謀ろうとした売人はポイズンにて制裁済みでござるよ」
「……?」
「それはそれとしてクラフト製ボールは有効活用するつもりでござる。決して悪用はせぬゆえ、同志殿はご安心めされよ。……おお、注意書きまで用意しているとはかたじけない。頂戴するでござる」
書類を渡した侵入者は、仕事は済んだとばかりにシュウメイから距離を取った。視線の先、侵入者はなぜか大仰な振り付けを交えて印を組む。
次の瞬間、侵入者が二人に増えた。
「ま、まさかそれは分身の術!?」
「……!」
サムズアップをした二人の侵入者は、森に溶け込むように姿を消した。まるで狐に化かされたかの如く現実味のない鮮やかな撤退だったと言えよう。
「我への手向けということでござるか……サンキューでござる。同志、いや忍者マスター殿……!」
〜あく組チーム・セギンのアジト〜
スター団のアジト連続襲撃事件から一夜明けて。
「結局さ、被害はゼロだったんだよね」
元チーム・セギンのボス、ピーニャはボス全員の報告をまとめてため息を吐いた。
「こっちに怪我人はなし。捕獲されたポケモンのボールはそのままで、盗まれてない。ご丁寧にボクたちが騙されてたってことと、クラフト製ボールの扱い方を書いた紙を残していったぐらい?」
まるで嵐のような出来事だった。だが、ここまで証拠が揃うとあの侵入者がスター団と敵対する目的でカチコミを仕掛けてきたとは考えにくい。むしろ、
「助けてくれた……のかな。手段はロックで物騒にも程があるけど」
それを裏付ける証拠はまだある。
事件の後、したっぱの一人がピーニャに事件の真相を白状して謝罪したのだ。本人の意向により、彼が犯した過ちと謝罪の言葉はビデオ通話を利用してスター団の全員に伝わっている。
彼は罪を償うため、犯人グループを連れて警察に自首するらしい。
メンバーには裏切りに対して怒る者もいた。しかし今回の一件は侵入者のおかげで大事に発展しなかった。そのためボス五人の総意として彼を許す方向で話を進めていたのだが……それでは本人が納得できなかったようだ。
「アオイとハルトといい、あの侵入者といい、なんだか最近は想定外の事が起こるよね」
生来生真面目なピーニャには刺激が強すぎる。
「まあ……みんな、お疲れ様でスター」