ジム廃業して飛んでパルデア   作:あさいかくり

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 アカデミーの正面玄関を抜けると長い階段がある。

 心臓破り地獄とも呼ばれる階段の段数は数百とも数千とも語られ、深夜零時には数字が増減するとかしないとか、そんな怪談がまことしやかに囁かれている。

 かいだんだけに。

 

「こんにちはウズ先生」

 

「こんにちはー!」

 

「なんで階段を上り下りしてるんだ……?」

 

「こんにちは。ハルトさん、アオイさん、ペパーさん。三人は登校ですか。朝早くから偉いですね」

 

 見慣れないランニングウェア&リュック姿、そして駆け足でアカデミーとテーブルシティを往復する様子を見て、彼らは疑問を抱いたらしい。

 

「鈍っているのを実感したので鍛え直そうと思いまして。トレーナーとて体が資本ですから」

 

 立て続けに仕事が増えたから気晴らしを兼ねてな。

 クラフトキットの販売経路を見直して、ネット注文は俺が購入者に配達して直接説明を行い、改めて生徒に注意喚起をして……疲れたわー。

 

 その際にクラベル校長から狐面の不審者について問いただされたが、俺は知らぬ存ぜぬで押し通した。ちょっとよく分からないですね。俺に似てる? もしかしたら生き別れの兄弟かもしれないっす。嘘だけど。

 

「へー。って、先生。腕どうしたの?」

 

 アオイは右腕を固定するギプスに気づいた。

 

「受け身を取り損ねて、骨にヒビが入ってしまったんですよ。軽傷なのですぐに治るかと」

 

「体の事で痩せ我慢したらダメダメちゃんだぞ先生。病院で診てもらったか?」

 

「大丈夫ですよ。ご心配ありがとうございます」

 

 実際、見た目ほど深刻な怪我ではない。複雑骨折レベルになると病院&安静コースだが、これくらいなら薬を塗っておけばそのうち回復する。

 

「僕としてはペパーさんの学業の方が気がかりです。進級に必要な単位は足りていますか? まあ、近頃はちゃんと授業にも出席なされているようですが」

 

「うっ……嫌なことを思い出させないでくれよ。でも平気だぜ! オレには相棒がついてるからな!」

 

 素敵な笑顔でペパーは腰のボールに触れる。憑き物が落ちたように晴れやかだ。きっと彼の中で何かが一区切りついたのだろう。たとえば……手持ちのポケモンが元気になった、とか? 知らんけど。

 

「へへっ。それもこれも、ハルトとアオイのおかげだ! 本当にありがとな!」

 

「いやあ照れますなー。でも気にしないで! 私はペパーとマフィティフの力になれて満足だから!」

 

「お礼を言われる事じゃないよ。友達を助けるのは当たり前のことでしょ」

 

 眩しいなあ。朝から青春するのは構わないけど、俺の目の前でやるのは勘弁してもらっていっスか。自分が着実に年老いているのがひしひしと感じられてつらい。

 

「だけどいいのか? 他にやることがあるんじゃ」

 

「いいのいいの。スター団は説得したし」

 

「ジムもあと二つだからね」

 

 はー子供の成長って早いわー。

 大人の必須スキル空気読みでそこはかとなく気配を押し殺していた俺だったが、背中のリュックサックから伝わる微細な振動で我に返った。

 急いで中身を取り出すが……揺れは収まってしまう。こいつ、焦らすだけ焦らしやがって。

 

「それって、ポケモンのタマゴですか?」

 

「ええ、まあ。とある知り合いに無理やり押し付けられたんですよ。ランニングついでに孵化を試みたのですが、僕ではうんともすんとも言わないようで」

 

 マージであの迷子がよぅ。いや善意なのは分かるんだ。でも「生まれてくるポケモンに広い世界を見せてやってほしいぜ!」ってのはズルい、断りきれないじゃん。

 俺が得手とするタイプとかけ離れているのは向こうも承知の上で、信頼できる相手に託しても構わないというメッセージが添えられていたのが救いだ。

 

 信頼できる相手……ほむ。

 ちょうどここに三人のトレーナーがおるじゃろ?

 

「「「?」」」

 

 決めた。このタマゴは彼らに託す。正直、俺はタマゴから孵るポケモンを世話する自信がない。彼らであれば腕は確かで人格面でも信頼できるトレーナーだ。

 

「このタマゴ、育ててみませんか?」

 

「ええっ」

 

「タマゴは元気なポケモンのそばで孵化しやすいという話を聞きますし、課外授業をする皆さんならきっとすぐに孵るはずです。無理にとは言いませんが」

 

「オレは……悪い、すぐに決められそうにないぜ」

 

「誰も受け取らないなら育てますけど」

 

「ハルトさんはどうですか?」

 

「……」

 

 うわ迷ってる。どうしよう、悩ませるつもりじゃなかったのに。そこまで深刻に捉えなくてもいいんだぞ。仮に全員が断っても俺が育てるからさ。ごめん嘘です仕事が増えそうなので可能なら引き取ってほしい。

 

 十分以上悩んで、ハルトはキッと顔を上げた。

 

「僕、育てます。タマゴから生まれたポケモンは絶対に大切にします!」

 

「ありがとう。その言葉を聞けて安心しました」

 

「ちなみに、何のポケモンのタマゴかは」

 

「内緒です。その方がワクワクするでしょう?」

 

 ハルトにタマゴを手渡した。俺は話を聞いているし、十中八九例のポケモンが生まれるだろうが、孵化前の時間を含めて楽しんでくれ若人よ。




アオハルの優先度合い
『レジェンドルート』=『スターダスト★ストリート』≧『チャンピオンロード』
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