ジム廃業して飛んでパルデア   作:あさいかくり

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 技術、第五回目の授業は戦争である。

 多少の誇張表現を用いたが個人的な感想を言わせてもらえば間違いではない。我々は自然の前では無力、どれほど備えをしても嵐で家屋は吹き飛ぶし、寒波はぜったいれいどで農家の生命線を狙い一撃必殺を仕掛けてくる。

 

 つまり。

 きのみ栽培はな……収穫直前が一番大変なのよ。

 

「せ、先生! 空から鳥ポケモンが!」

 

「きゃー!? む、虫いやー!!」

 

「落ち着きなさい。慌てないで、冷静に対処すれば大丈夫です。皆さん、むしよけスプレーを使ってください」

 

 ちくしょう、やはり来やがったか。

 きのみ目当てのコソ泥が。

 

 ゲームと異なり、生態系が確立しているこの世界では食物連鎖の底辺に位置するきのみ様など飢えた野生ポケモンの格好の餌なのだ。人に慣れている野生ポケモンは普通に街中で生活しているからな。

 こうなる事は予想できていたので、事前にいかく持ちにカカシとしてのお仕事を任せたり、防ポケネットを張るなど対策はしていたんだけどな……。

 

 それだけきのみが美味そうってことね!

 

 だがしかし。きのみだけならともかく、この畑には俺が手塩にかけて整備した薬草園がある。貴重な薬草やハーブ、そして例のアレを盗み食いされた日には犯人を地の果てまで追い詰めて天誅してやらねば気が済まない。

 

「これでは授業になりませんし。仕方ないので……出番ですよ、ロズレイド。あまいかおり」

 

 きのみより魅力的な罠で誘導する。

 

「クロバット、ドクロッグ、ゲンガー。全員まとめて、おどろかす」

 

 そして匂いに釣られて一箇所に集まったところを、強烈な一撃で目を覚まさせてやる。もとよりダメージは期待していない。ただこの畑は危険だということを野生の本能に突きつければいい。おとといきやがれ。

 

 で、ドククラゲさんや。君はお呼びでないからね。ボールに戻っていてくれたまえ。

 

「さてと。これで」

 

「先生、危ない!」

 

 気を抜いた一瞬、俺も手持ちも警戒を怠った。

 

 生徒の声で意識が切り替わる。

 

 右上空の羽ばたき。

 

 咄嗟の事で体が硬直する。

 

 こちらの死角から急降下したムックルをドククラゲの水泡が迎撃。手加減したバブルこうせんから逃げるように、ムックルは飛び去る。

 

 俺は腰が抜けたまま、ただそれを眺めていた。

 

「ウズ先生!」

 

「大丈夫? 怪我はない?」

 

「ええ……不意を突かれたので驚いてしまいました。ですが大丈夫。この通りピンピンしていますからね」

 

「ならよかったー」

 

「うんうん。でも〜……もしかして先生〜、鳥ポケモン苦手なの〜?」

 

「え!? そうなの先生?」

 

「仮にそうだとして、人の弱みを揶揄うのは褒められた行為ではありませんよ。皆さんにとっては笑い話でも、本人にとっては深刻な問題かもしれないのですから」

 

 生徒の追及は流して真面目に取り合わない。

 あとドククラゲ、お前には助けられたよ。本当にありがとうな。もちろん他のみんなも。

 

 

 

 

 

 気を取り直して授業再開だ。

 

「ご覧の通り、すくすくこやしを使った木は既に実がなっていますね。一方で、じめじめこやしを使った木はまだ実がついていません。ですが植えてから一回しか水やりをしていないのに土が湿ったままです。こやしの特徴についてはこれで理解していただけたのではないでしょうか」

 

 手本としてオレンの実を収穫する。園芸用のハサミを使うとめちゃ楽。手で千切ってもいいが怪我をする可能性がある。その場合は軍手をつけた方がいい。

 などといった豆知識を説明しながら。

 

 その後は生徒が収穫をする番だ。

 

「うわ、虫食いだ」

 

「ハルトさんのきのみはひときわ育っていましたからね。ああ、それは僕が回収しますよ」

 

「枯れてる……」

 

「もしかして水やりが面倒だから、まとめて大量の水をかけたりしませんでしたか?」

 

「先生ー。私のやつ、なんか違うー」

 

「それは突然変異ですね……一体何をしたんですか、アオイさん……」

 

 とまあ悲喜交々である。大半の生徒は無事に収穫を終えたようだ。俺が裏で世話をしたのに枯らした数名を除けば、最低でも二個には増やせているな。

 

「さて、ここでアドバイスです。収穫したきのみはどのように使ってもいいですが、一個は残しておくことをおすすめします。また植えて栽培できますからね」

 

 こうして自然の恵みは循環する。エコやね。あとポケモンに持たせるならリサイクルで再利用できるぞ。

 

「オレンの実の使い方としては、授業で学んだクラフトや戦うポケモンの持ちものに、あとはサンドウィッチや最近人気のポフィンの材料に使うのもいいでしょう」

 

 ジニア先生から漏洩したポフィンは、ムクロジが新メニューとして販売したこともあり、生徒間で話題らしい。

 

「サワロ先生がポフィン作りの特別授業を開講なさるそうなので、気になる方は参加してみてくださいね。なんでも各地方のきのみ料理も紹介されるとか……」

 

 ポロックや郷土料理などなど。うわ俺も知りたい。

 一部の郷土料理って地元の人に受け継がれていて、旅行者はレシピを学べなかったりするのよ。今の時代はネットでだいたい検索できるんだけどね。

 

「それでは今日の授業はここまで。土汚れはしっかり落としてから校舎に入るようにしてくださいね」

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