ジム廃業して飛んでパルデア   作:あさいかくり

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 待ちに待った収穫祭だ。

 

 ついにこの時がやってきた。鳥ポケに負けず虫ポケに負けず、暑さ寒さにも負けず、真心を込めて雑草を抜き、褒め言葉を聞かせながら水やりをして、とにかく毎日世話をしたかいがあったというものよ。

 

 俺の手には競りで入手した例のアレ。

 誰にも悟られないように、わざわざ夜中に人目を忍んで採った最高のブツだ。これは渡さん。

 大丈夫。この時間なら人は少ない。見られる前に、早く自室に持ち帰って調理をせねば。

 

「押忍! ウズ先生じゃないか! 相変わらずいい筋肉をしているな!」

 

「……!? キハダ、先生……なぜここに」

 

「いやなに。わたしは……見回り、そう! 夜間の見回りに励んでいたところだ!」

 

 嘘だろおい。巡回ルートは事前に叩き込んでいたのに、どうしてこのタイミングで鉢合わせるんだ。というか今日の夜間の見回りってキハダ先生だったか?

 とにかく今すぐこの場を離れよう。例のアレは背後に隠した、このまま挨拶して立ち去れば問題ない。

 

「それでは僕はこの辺で失礼を」

 

「そ、そうだな。わたしも見回りがあるからな!」

 

 二人して引き攣った笑顔を浮かべる。そして俺とキハダ先生は全く同じ方向に歩き出した。

 

「……どうしてついてくる?」

 

「こちらの台詞なのですが」

 

 不意の遭遇に慌てていたが、なぜかキハダ先生は挙動不審だ。ジャージのポケットから見えるのは教室の鍵。視線は前方の廊下に向いている。この先は家庭科室だ。バトル学担当の彼女が何故。

 

「家庭科室は見回りルートでしたか?」

 

「むっ! わたしが家庭科室でサンドウィッチ作りの練習をしようとしていることに気づいたのか!?」

 

 いや今あなたが全部ゲロったでしょう。

 

 

 

 

 

 家庭科室に連行された。

 

「実は、わたしはあまり料理が得意ではない。だが苦手なままではいつまで経っても上達しない! なのでサワロ先生に頼み、家庭科室を使わせてもらっているんだ!」

 

 向上心の塊か。意識高いねー。

 ちなみに調理済みの試作品第一号は名状し難い食感で、噛めば噛むだけ口の水分と味が失われていく代物だった。俺の知ってるサンドウィッチと違う。

 

「まあ付き合いましょう。毒味は慣れているので」

 

「ハッハッハ! ウズ先生はやはり面白いな! そこは試食と言うべきだろう!」

 

「おっと。これは失敬」

 

 やべ、口が滑った。でも合ってるよ。

 

「二号を待つ間、僕もコンロを使わせてもらいます」

 

 隠しても仕方ないからな。キハダ先生の秘密を知ってしまった身としては、こちらも秘密をひとつ明かして対等になろう。あとオレ、モウ、ガマンデキナイ。

 

 悲しい獣が目を覚ます前に調理開始だ。取り出したるは例のアレ。その名もケムリイモ! 食べてよしクラフトしてよし育ててよしの素晴らしい植物である。

 聡明な一般シンオウ在住民なら既にご理解いただけているだろう。今から、俺は、イモモチを作るぞッ!!

 

 イモモチはコトブキシティの裏名物にしてソウルフード(俺調べ)。そのレシピは古代シンオウから連綿と受け継がれており、古の詩歌にも記述がある。

 

 ケムリイモを採る〜。

 ケムリイモの皮をむく〜。

 ケムリイモに火を通す〜。

 焼くなり〜、煮るなり〜、好きにしろ〜。

 火の通ったケムリイモをつぶす〜。

 つぶしたものを練ってこねる〜。

 あとは焦げ目がつくまでやけ!

 ポケモンの技でいうなら〜。

 ひのこでよい〜。

 かえんほうしゃはやりすぎ〜。

 イモモチを好きに食う〜。

 一日が過ぎる……。

 

 アレンジに、下味をつけて炒めた挽肉と玉ねぎ、とろけるチーズを具として包む。ノーマルと具入りの二種類だ。

 タレは醤油と砂糖をベースにとろ火で煮詰めた甘辛風味。ソースやケチャップも美味い。

 

「出来た……」

 

 ああうまい。うめえなぁ。取り分けないと手持ちの分まで食べてしまいそうだ。この時間にこの量は太る。

 

「キハダ先生もおひとつどうぞ。今の僕は全てを許容する心持ちですので」

 

「そうか! ではもらうとしよう! ……うん! 美味い! 美味いなこれは!」

 

「そうでしょう。これがイモモチです」

 

「隣で見ていたが、作り方が簡単なのもいいな! 芋を潰してこねて焼けばいいんだろう? サンドウィッチほどではないが、わたし向きの料理かもしれない!」

 

 たしかにイモモチは簡単な料理だ。しかし名人の作るイモモチと素人が作るイモモチは月とすっぽんならぬルナトーンとカジリガメ。イモモチ道は奥が深いぞ。

 

「ウズ先生! 頼みがあるのだが、その芋を少し分けてもらえないだろうか!?」

 

「なるほど……僕はまた一人、イモモチ信者を生み出してしまったようですね……構いませんよ……」

 

 深夜テンションと多幸感で妙な言葉を口走っている自覚はあるが、赤っ恥などイモモチを前にして気にするものかよ。今の俺は何が起きても許せる……

 

「押忍! 感謝する! では早速!」

 

 キハダ先生が包丁を逆手で持たなければなぁッ!!

 

「待ちなさい。何を考えているのですか」

 

「まず皮を剥くんだろう? 見ていたから分かるぞ!」

 

 本気で言ってるの? だとしたらその眼球はいらないね。かっぽじって俺にひとつちょうだい。

 ええい、やめろ。何事もなかったように平然と料理……料理? のような乱暴狼藉を再開すな。あなた、猫の手はご存知でして? 俺が借りたいくらいだよ。

 

「あなたにはまだケムリイモは渡せません。まずはその辺のリンゴで包丁の扱いを学びなさい」

 

「そんな! で、ではせめて完成品をもうひとつもらえないか! これをサンドウィッチに挟めば最高の一品ができると思うんだ!」

 

「糖質に糖質を合わせる気ですか」

 

 いやイモモチならきっと美味いけどさ。

 筋トレが趣味なら禁忌だろ。

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