ジム廃業して飛んでパルデア 作:あさいかくり
またしても騙された。
オモダカ女史からの呼び出しを受け、連れてこられたのはテレビ局。割り当てられた控室に置かれていたのは番組の台本だった。「ボールデコ特集」ってなに。
出演者の欄にはナンジャモとリップ、パルデア地方にて流行の先駆けたらんとする二人組の名前が記されていた。
で、その下に俺の名前があるのはなんで?
噂をすれば、扉をノックする二つの気配。開けたくないが控室の出入り口は一つだけ。逃げ出すにしたって鍵は開けないとならんだろう。詰んだ。
「おはこんハロチャオ~!」
「どうも。本日はどのようなご用向きでしょう」
「共演者に挨拶するのは常識でしょ」
「番組の件なら初耳なのですが。困ります、オファーは事務所を通していただかないと」
「ウズ氏は無所属じゃん。だいたい、ボクのメッセージを無視するからこんな目に合うんだよ」
「はて……めっせ……?」
「ボケた振りしてとぼけるなぁ!」
すみませんのう、いかんせん年を取ると耳が遠くなりましてな。すまほろとむなる絡繰についても老骨にはとんと分かりかねまする……ファファファ。
ナンジャモはこれで誤魔化せるとして、問題は続いて入室したもう一人の方である。
「おつかれさまでーす。メイクアップアーティストのリップよ。ジムリーダーの方が通りがいいかしら」
「どちらの肩書きも存じ上げていますよ。はじめまして、教師のウズと申します」
艶やかな雰囲気のエスパー使い、人を見た目の印象で判断するつもりはないが、あまり俺が得意なタイプではないのは確かだ。業界人のオーラに緊張するというか、どう対応したらいいか分からない。
「オモダカちゃんに連れてこられたんでしょう。あなたも大変ね」
あれ、意外と親しみがあって付き合いやすい。
「でも身だしなみに気を使っていないのはチョベリバよ。これから収録なんだから。ちょっといじらせてね……髪を整えて、お化粧で血色を補って……ウズちゃん、もう少し綺麗な目をしてくれる?」
前言撤回。やっぱりこの人あれだわ、オサレ人。
常に美しくあろうとする姿勢は尊敬するし、いい人なのだがな。俺はそこまでストイックになれない。
両目の光が消えてるのは好き勝手に弄られてるからよ。誰が死んだ魚じゃい。そこまで濁っとらんわ。
容姿の重要性は理解できるよ。俺だって公共の場や教壇に立つ時はそれなりに気を使っているつもりだ。
ただTPOってあるだろ。気を抜きたい時はだらしない格好させて。流行りとかコーデ考えるの大変なんだ。その点生徒はいいよな……制服着回せるから。
「あの、僕は番組に出るつもりはないのですが」
「そんなドロンしたそうなウズちゃんに、オモダカちゃんから伝言。『ボールカプセルとシールの一件で、あなたは私に借りがありますね』ですって」
そんな気はしてたぜちくしょう。
「……番組の趣旨を説明していただけますか?」
「また全体で打ち合わせがあると思うけど。簡単に言うと、アカデミーの学生ちゃんたちの間で流行りのボールデコを世間に紹介するのが目的よ。一般のトレーナーもカプセルとシールを使えるように」
「こ〜んなバズりの塊を隠し持ってるなんてねー? ウズ氏め、なかなかやるではないか! ……ねえ、なんで最初にボクに教えないの? まだ何か隠してたりする?」
「勘弁してください。僕からしてみれば、というよりシンオウでは、ボールデコは当たり前の機能なんですよ。ここまで大事になると誰が思います」
この世界だとコンテストの演出が主な利用法で、普段使いするトレーナーはシンオウでもコーディネーターを中心にそこそこの数しかいないが……前世では違った。
ゲーム内で、ボールのエフェクトを後天的に、しかも自分好みに編集できる機能だ。お世話になったプレイヤーも多いはずである。
でもここまで受けるぅ?
「リップが思うにね。人間も、ポケモンちゃんも、誰だって心の底では綺麗になりたい、素敵な自分でいたいと思っているの」
お洒落に関心の薄い俺とて気持ちは分かる。散髪したり、身綺麗にしたり、新品の服に袖を通したり、そういうのってテンションがわずかなりとも上がるよな。
「変わりたいという願いを、リップはお化粧道具やメイクの技術で後押しする。それと同じように、ポケモンちゃんの魅力をより引き出すのがボールデコ……特別なバトルに、いつもの日常に、そっと彩りを添えてあげられる。それってとても素敵なことじゃない?」
ああくそ、そこまで言われたら断れないだろう。
どちらにせよ俺に拒否権はないのだが。
番組に出演はするよ。だが、しかし。
「それではゲストのご登場……ボクたちにボールデコについて教えてくれるのは放浪の伝道師! ノモセ大湿原からやってきたグレッグル氏でーす!(ヤケクソ)」
「ケッ(渾身のモノマネ)」
「それじゃーグレッグル氏。今日はよろしくー!」
「シビレビレ」
倉庫にあったグレッグルの着ぐるみ、多少ほつれていたものを修繕して使わせてもらった。
正体が俺と分からなければ問題ない。我ながら天才か? あー顔が隠れていると落ち着くわー。
端々に6Vスペックが垣間見えて知人にはバレる