ジム廃業して飛んでパルデア   作:あさいかくり

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 昼下がりのチャンプルタウン。

 上空でムクホークが旋回していた。

 クラフトキットの配達を済ませた俺の胃が空腹を訴えている。食事にはちょうどいい時間だ。

 この街には飲食店や屋台が多い。そこかしこから料理の香りが漂っているから腹の虫が鳴り止まないぞ。何でもいいから早く口にしたいところだが、普段訪れない街の、あまり機会がない外食。慌てて店を決めたら「なんか違う、これじゃない」と後悔する気がする。

 

 店を物色するが、やはり迷う。二度三度と往復していたら不審がられるだろうしなあ。

 

「おや、宝食堂。ここがあの」

 

 以前聞いた話を思い出す。

 あれはたしか……グレッグルの木彫りの置物について、どのポージングが見栄え良いか、ハッサク先生と品評会を執り行っていた時のことだったか。最終的には芸術に貴賎はないという結論で両者の合意形成に至ったが、今はそんな話をしていない。

 

 この食堂では、ポケモンのテラスタルのタイプを変更する料理を提供してもらえるのだという。

 

 よし。今日の昼は君に決めた。

 

 内装はいかにも大衆食堂然とした雰囲気だ。お座敷や手書きのメニュー、仲の良さそうな常連さん、どこか懐かしさと同時にかすかな疎外感を覚える。

 案内されたのはカウンター席。昼過ぎで客足が引いているとはいえ、一人なのでまあ当然だね。

 

「ご注文は?」

 

「そうですね……」

 

 初めて入った店で勝手が分からん。しかしハズレは引きたくない時に取るべき行動を述べよ。

 正解、周りの客が何を食べているか見るべし。

 

 ネギを山盛りにしたかけそば。美味そう。

 具沢山のゴーヤーチャンプル。美味そう。

 ぜんざい。美味そうだけどデザート。

 からしむすび。食べたことないな。美味そう。

 

 やばい糖分不足で語彙が。

 

「ステーキ、一人前、焼き加減はかえんほうしゃ! ええと、付け合わせはなしで!」

 

「こっちはオムレツで。二人前のひのこ。付け合わせレモンでお願いします。……これ本当に合ってる?」

 

 え、ステーキとかあるの。和食メインだと思っていたらとんだ伏兵が潜んでいた。たぶんこういう食堂のステーキは美味い、ソースは和風でも洋風でも可。

 オムレツは半熟で重量感がある、とろける黄金とケチャップとの対比が美しい。レモンは……個人的にはなし。

 

「焼きおにぎりとオムレツ、いやステーキ……」

 

「おっと悪いねお兄さん。それはジムテスト用の特別メニューなんだ」

 

 なん……だと……?

 

「そうですか。残念ですが、ではゴーヤーチャンプルとからしむすびを一つずつお願いします」

 

「あいよ! からむすチャンプルね!」

 

 店固有の謎の略称ってあるよなー。通った注文の調理風景を眺めながら、ただぼんやりと時間を過ごす。

 

「はいお待ちどお!」

 

 気がついたら目の前に大皿が置かれた。湯気がのぼるホウエン風肉野菜炒め、とうふと卵も入っておりボリュームは十分。これ一品で腹を満たせる量だ。

 それに炊き立てご飯のふっくらおむすび。茶碗一杯分を握ったものが二つ、これは値段詐欺で訴えられるレベルのサービス精神である。

 

「いただきます」

 

 まずはゴーヤーチャンプルを一口。

 

「……美味しい」

 

 流石は街の名前でもある料理。出汁と塩が効いているのだろうか? 少し濃い目の味付けが疲れた体に染み渡る。野菜が多めに入っているのは栄養バランスを考えると嬉しい。また溶き卵が絡むことでゴーヤーの苦味は主張を控え、他の具材と調和を保っている。肉と合わせてタンパク質も確保。卵は料理の調停者だった……?

 

 この味はご飯が進む。

 コメくいてー。

 

 からしむすびを掴んで頬張る。うん。白米にからし、意外にいけるぞ。練りからしというのか、舌に残る辛味がご飯の甘さを引き立てる。図らずもゴーヤーチャンプルと一緒に食べると味変を楽しめるのも素晴らしい。そしてナスの漬物を忘れるな。程よい浸かり具合だ。これ単体でかじれるし、お茶と合わせてもいい。

 

 あっという間に完食してしまった……。

 

「ごちそうさまでした」

 

 エネルギーを補給すると、店内をさらに観察する余裕が生まれるわけで。

 

 ジムチャレンジに挑戦中の子供はアカデミーの生徒だ。どうも正解の注文があるようだが、組み合わせを外してばかりで(文字通りの意味で)腹を抱えている。ここのジムリーダーはもう少し挑戦者の胃袋を労ってやれ。

 

 あと俺の隣にいるサラリーマン、はちゃめちゃ大量の料理を食べてやがる。この人ならメニューを全パターン注文してクリアできそうだ。

 

「……焼きおにぎりをお願いします」

 

 まだ食うんかい。さては貴様カビゴンだな。

 

「それと、こちらの彼に同じものを」

 

「あいよ! お兄さん食べられる?」

 

「そうですね、量を少なめにしてもらえるなら。しかし特別メニューなのでは」

 

「ああ……いいのいいの。あんた得したね。お礼ならこの人に言っておくれ」

 

 店員さんは笑って調理に戻る。どうやら知り合い、いや雰囲気からしてサラリーマンは店の常連だろう。

 

「口利きしていただきありがとうございます」

 

「……いえ」

 

 この人どこかで会ったことがある気がするんだが、横顔だと思い出せないな。俺はわりかし人の顔を記憶できる性質なのに。あなた、一回食べるのやめて、こっち向いてくれませんか。正面なら分かるよ多分。

 

「……この店の料理はどれもうまいです」

 

「ええ。そうですね」

 

「食事を楽しむあなたは『普通の人』でした。ですから、自分はふさわしい対応をしただけですよ」

 

「はあ……?」

 

「次は他のメニューを頼んでみてください」

 

 何が言いたいのかさっぱりレモンちゃんだぜ……。

 ただ悪い人ではなかろう。代わりに注文してくれたし。

 出来立ての焼きおにぎりうんめー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみにテラスタルの変更は断られた。

 テラピースってなんだよもう。




あまもか様より、また素敵なイラストをいただいたので、この場を借りてご紹介させていただきます。
アカデミーの技術教師+αな主人公です。

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