ジム廃業して飛んでパルデア 作:あさいかくり
ラップバトルの誘いを受けた。
へいYO-YO 白くなりゆく山際。いやなんで。
揺れる蝋燭が雪景色を照らすフリッジタウン。例の如くクラフトキットの配達を済ませた後、ふらりと立ち寄ったライブ会場で俺は捕まったのだ。
白熱の口撃を交わすライムさんとハルトに。
「先生! 助けてくださいー!」
「アンタがウズかい。ちょうどいい、ちょっと挑戦受けてきな。ヘイカモン!」
今まさにオンステージじゃないっすか。ジム戦……ではないな。ポケモンを出していない。つまりエンタメとしてのラップバトルだろう。
俺ルールとか知らないです。客も多い、下手な事をしでかして雰囲気を盛り下げるのは勘弁だ。
イッシュでの経験を思い出せ。タチワキジムのライブハウスで縦笛を取り出し、ホミカのテンションを地の底まで落とした事故を。ギター弾けないです。何が言いたいかというと素人に急な無茶振りしないで。
「ええと……あなたはラッパー、僕は乱波。両手上げて降参クラッパーですよ」
「HAHAHA! 案外イカしたビート刻むじゃないか! 毒舌高説披露せず? 情熱消滅NOです撲滅!」
このやり取りで観客が沸いてしまい、俺は流されるままステージに上がる羽目になった。くそう……ああもう、生徒の頼みだ。こうなりゃヤケじゃい!
二人がかりで立ち向かったが、いくらなんでも流石に分が悪いです。いや本職には勝てんわ。
「すみません先生。バトルコートを借りようとしたら、ライムさんにライブに誘われちゃって」
「今回は仕方ありませんよ。ただ次は他の方を助っ人に呼んでいただけるとありがたいですね」
「先生、途中で思いっきり噛んでましたからね……」
うっせ。噛みめまめん。もとい噛んでません。
舌の痛みと恥ずかしさで泣いたりしてねーです。これは涙じゃなくて雪の結晶テラスタル。
人が去って閑散としたライブ会場改めバトルコートで敗者は傷を舐め合う。俺と違い、ハルトはライブ中もノリノリで楽しそうだったけどな。
とはいえだ。ライムさんはただ俺を助っ人として招いたわけではない。別れ際にうっすら事情は聞いている。彼女は気を利かせて、こうやって自然に話す機会を与えてくれたのだ。まさに年の功。女性の年齢に言及するのはマナー違反なので口にはしない。
「ところでアオイさんはどちらに?」
「今は別行動してます。その……昨日ここのジムに二人で挑戦したんですけど、僕だけが負けちゃって。だからコートの確認と対策を考えようと思ったんです」
ここのジム戦はダブルバトルであり、他と少し毛色が異なる。不慣れな形式、かつジムリーダーのライムさんが繰り出すゴーストタイプのポケモンに、真面目なハルトは翻弄されてしまったのかもしれない。
「一流のトレーナーでもダブルバトルになると実力を発揮できない人は多いですからね」
「なにかコツってありますか?」
「僕はキハダ先生ほど詳しいわけではないですが、やはり視野を広く持つことでしょうか。単純に一対一の勝負を二つ同時に行うわけではないので。二匹で一匹を集中攻撃してもいいですし、二体をまとめて狙うわざや、味方をサポートするわざも有効です」
「なるほど……」
「あとは指示ですね。自分のポケモンが混乱しないよう、事前に取り決めるのもありです。一から十までわざの名前を口に出す必要もありませんから」
というか腕利きのトレーナーとポケモンは全員が当たり前のように搭載しているオプションだ。スムーズな意思疎通と、自己判断の切り替え。俺の手持ちだって、こちらが口にせずとも自分の仕事をこなしてくれる。
「他にもわざを出す隙を減らすなど、ダブルバトルに限らない小技はたくさんありますね。強いトレーナーは同時に二種類のわざを指示したりするでしょう?」
「そっか! 発動前と後の硬直を減らせば、PPの限りわざが出せる。前に先生のドラピオンが使ったあれはそういうことだったんですね!」
「……ええ。概ねご想像の通りです」
実際には少し違うのだがな。わざの練度を極限まで磨き上げた結果、と考えれば間違いではない。
独学で似て非なる芸当を披露する連中もいる。ゲームのターン制というくびきから逃れたのをいいことに暴れ回る無法の猛者どもだ。一部のジムリーダーや四天王、チャンピオンに複数人の該当者がいる。
「自分のわざは全部当てる、相手のわざは全部躱す。そうすれば無敵、とは誰の言葉でしたか」
「…………」
「まあ、今のは机上の空論ですけれどね。強さは一日してならず。努力を継続することが大切ですよ」
「で、ですよね! あはは……」
ダンデさんのリザードンすら被弾はするからな。実際に「かわせ!」が通用したら勝負にならないんよ。