ジム廃業して飛んでパルデア   作:あさいかくり

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 技術、六回目の授業はグラウンドで行う。

 

「配布したものは行き渡りましたか? 足りないという人は手を挙げてくださいね」

 

 今回は受講者全員を一堂に集めた。技術室だと入り切らない人数だ。アオイにハルトやネモ、ペパー、ボタン、そしてスター団をはじめ不登校だった生徒たちといった顔ぶれが揃っている。

 

「貸出用のスマホロトム、おまもり、誓約書。この三つがあれば問題ありません」

 

「せ、先生? これって……」

 

「よく読んでから署名してくださいね。今回は少し危ない内容なので、事前に同意が必要なんです」

 

 戸惑いながらもこちらの指示に従う生徒たち。素直で助かるよ。おかげでやりやすい。

 

「今日は機械や情報といった、今まで触れてこなかった分野に焦点を当ててみましょう。機械と言えば、皆さんの大半がお持ちのスマホロトムですね。今回は配布したスマホを使っていただきます。自分のスマホロトムはしまっていいですよ」

 

 スマホロトムを持っていない生徒もいるからな。例えば昔の俺のように。今回は全員参加の授業なのでスマホは必須だ。ないと本人が困るだろう。

 

「改めて説明する必要はないでしょうが、念のため。スマホロトムとは、機械に入り込む能力を持つロトムというポケモンの力を借りたデバイスです。これは豆知識ですが、スマホロトムは単体で動作するので情報端末デバイスという分類に含んでいいでしょう」

 

 単体というよりポケモンと機械だが。この世界でそこを突っ込む生徒はいない。ロトムは操作を補助するAIのような役割だ。間違いではなかろう。よってヨシ。

 

「スマホロトムの大きな特徴としては、機能の拡張性が挙げられます。アプリを追加するとできることが増える。マップ表示や空飛ぶタクシーの呼出、トレーナーのプロフィールカード編集、そして皆さんの大好きなジニア先生が開発されたポケモン図鑑などがありますね。いずれもトレーナーに必須の機能です」

 

 ちなみに貸出用のスマホにインストールしたアプリはポケモン図鑑だけである。

 

「この他にも、スマホロトムには役立つ機能が備わっているのですが……さて質問です。課外授業で活用できるスマホロトムの機能とは何でしょう?」

 

「はい! 高いところから落ちても大丈夫な安全機能です!」

 

「ご名答ですネモさん。高い崖や灯台の上から足を滑らせても、スマホロトムは一瞬だけ浮遊することで落下速度を抑え、所有者を守ってくれます。……スマホというよりはロトムの力ですけどね」

 

 百聞は一見にしかず。

 俺はクロバットに協力してもらい、高所からの落下を実演してみせる。掴まって、飛んで、落ちる。左右に振り回されても大丈夫。スマホロトムならね。

 

「このように、落下以外にも受け身の代わりとして使うことができます。また緊急時は救難信号を発することも可能です。いいですか皆さん。スマホロトムは命綱になり得ます。決して手放してはいけませんよ?」

 

 今回のポイントであり、彼らの今後を左右する内容だ。しっかりと言い含めておかねば。幸い、今日の生徒たちは真剣に耳を傾けている。なぜか緊張気味で怯えが見られるが気のせいだろう。

 

 そして実際に安全機能を体験してもらう。

 積み上げた箱の上からマット目掛けて飛び降りたり、横向きに軽く突き飛ばしたり。ウォーミングアップをかねた軽いレクチャーだ。数回こなすと、皆それなりに受け身がさまになってくる。反復練習すると無意識に身体が反応するからオススメだぞ。

 

「普段ならこれで授業は終わりなのですが……最後ですから、もう少しお時間をいただきましょうか」

 

 ここまでは前座。ここからが本題だ。

 このために授業時間を二コマ分申請したのだぜ。

 

「……先日、一人の生徒が野生ポケモンに襲われて傷を負いました。幸い命に関わる怪我ではありませんでした。ですが、僕はこの事態を大変重く見ています」

 

 しんと静まり返るグラウンド。

 鳥の声、風の音すら聞こえないように錯覚する。それだけ、この場の空気が張り詰めている。

 

「僕が教えた内容は野外活動と密接に関係しています。素材集め然り、クラフトを活用する機会然り。安全な街中ではあまり役に立たないでしょうね。当然です、フレンドリィショップがあるならクラフトなんてする必要はない。きのみだって買えばいい」

 

 生徒一人一人と視線を合わせる。

 

「自然は時に優しく、時に厳しい。危険な環境や凶暴な野生ポケモンは容赦なく人間に牙を剥く。あなた方に授けた知識はそんな危険に備えるためのもの。しかし知識があるからと言って、むやみに危険に飛び込めと教えたつもりは僕にはありません」

 

 俺はベルトと懐に手をやった。

 

「その点を勘違いされたままでは困るので……今から特別授業を始めます」

 

 八つのボールを宙に投げる。

 俺の手持ちが生徒を睨めつける。

 

「サーナイト――はかいこうせん」

 

 強烈な光が空気を焼いた。

 生徒の眼前に焦げ跡が刻まれる。

 

 驚愕で固まり身動きの取れない彼らに、俺は心ばかりの忠告を贈ることにした。

 

「ポケモンを出しなさい。さもないと死にますよ」

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