ジム廃業して飛んでパルデア 作:あさいかくり
はぁー金がねえ、金がねえ。
財布の中身はすっからかん。
宿泊まる、飯を食う、生きてるだけで大赤字。
職員室でこんな歌口ずさんだら品性を疑われそうだ。
「おはようございます。本日からこちらで働かせていただきます、ウズと申します。若輩の身ではありますが皆様のお手を煩わせぬよう」
「もう少し砕けて問題ありませんよウズ先生。他の先生方が困っていらっしゃいます」
「いやそれは……失礼しました」
どう考えても俺の背後に二人が立っているからでは。
そうは思いませんか、クラベル校長。
そしてトップチャンピオンのオモダカ女史。
いや本当に何でこうなった?
昨晩テーブルシティに到着した俺はとある重大で深刻な問題に直面した。
そう。宿に泊まる金すらないのである。
仕方ないから野宿すっか、と旅慣れた感覚で適当に一夜を明かせる場所を探そうとしたところネモズストップ。
アカデミーの寮を借りれるよう上に掛け合ってくれたのだが、流石に部外者を校内に入れるのはNGが出た。
この時点で諦めていた俺は、拾った木材で手慰みにグレッグルの木彫りの置物を彫っていたのだが、通りがかった老人が「ほう、これはなかなか」とかやりだした。注文通りにリーゼント・グレッグルの木彫りの置物を仕上げたところ、いい値段で買ってくれたのよ。
それがまさかアカデミーの校長とは思うまい。
金を手にした俺はホテルに泊まり。
翌日……つまり今日の早朝だな、来客があった。
誰だと思う。ポケモンリーグ委員長様だぜ。信じられるか? 俺は信じなかった。詐欺だと思って逃げたわ。
だが権力者相手に土地勘のない市街戦は無謀だ。わりとあっさり俺は捕まった。
で、クラベル校長とオモダカ女史にご対面だ。
……改めて考えると意味わからんな。
とりあえずスマホロトムと、あのバイクみたいなポケモンを脳内ほしい物リストに入れたよね。
話が逸れた。二人の用事ってのは、どうやら俺のスカウトで。ネモから話を聞いた校長、そこから話を聞きつけたオモダカ女史が示し合わせて訪れたというわけだ。
やらねーよ、ジムリーダーも四天王も営業も。
一般サラリーマンとか死んでもやだね。俺もう一回死んでるけど。ハハッ、転生者ジョーク。
俺は逃げるようにオモダカ女史のスカウトを蹴り、縋るようにクラベル校長の申し出を受けたわけである。
そしたらさあ……ふつーにオモダカ女史おるやん。
アカデミーの理事長らしいじゃん? 俺の胃袋が泣き叫ぶことが決定づけられた瞬間だよね。
だって今も背中にプレッシャー感じますもん。「うち蹴ったくせにおめえよくもツラァ見せられたなあ?」みたいな雰囲気感じますもん。表情に出してないけど。
「ウズ先生は以前トレーナーズスクールで教鞭を取られていたのでしたね?」
「はっ。……失礼、そうですね。最低限の基礎は教えられます。それと司書教諭の資格も」
「それはそれは。まだ若いのに勤勉ですね。ではウズ先生には担当者が不在の技術と、司書としてのお仕事もお願いしてよろしいですか?」
「精一杯やらせていただきます」
「既にご覧になったかもしれませんが、我が校の図書館はエントランスホールにありましてね。設計はこちらのオモダカさんが担当されているのですよ」
「き、興味深いお話です」
校長やめて。これ以上話を広げないで校長。
オモダカ女史の圧が俺に向いてて辛いの。
「おっと、始業のチャイムが鳴ってしまいますね。ではウズ先生。今日はジニア先生の補佐をしながらアカデミーのことを教わってくださいね」
クラベル校長が退室したことで解散の雰囲気になり、教師はみなそれぞれの仕事に向かう。なぜかオモダカ女史は残ってるが俺は知らん。こっち見てるけど知らん。
さーてジニア先生に挨拶を、
「私はまだ諦めたわけではありません。アカデミーもポケモンリーグも兼業可ですので、気が変わったらいつでもご連絡ください。お待ちしていますよ、ウズ先生」
「身に余るお言葉です。お疲れ様でした」
……寿命縮むわぁ。