ジム廃業して飛んでパルデア 作:あさいかくり
無職になってしまった。
貯金が底をついたのでオージャの湖で食料調達である。ここなら水場で、人もあまり訪れない。
しかもこの湖、野生の寿司が落ちているのだ。
『シャリシャリ』
『スメーシー』
『オレスシ……?』
『スシスシ』
『スシッス』
『ギンシャリ』
『スシシスター』
『ガリ!』
最後おかしいだろ。
というか喋ってるよね。ポケモン図鑑で調べてみると、シャリタツというポケモンなんだって。
それでもガリは違うじゃん、ガリじゃん。
とはいえシャリタツを追いかけると、ヘイラッシャなる巨大魚が現れる。こいつらが虚空から寿司を生み出すという珍妙なわざを使うのよ。ポケモンって不思議。
おかげで三食寿司にありつけているため、今のところ食事には困っていない。
……俺は何をしているんだろうな。
初心にかえったのはいいが、時間を置いてみると、馬鹿な真似をしたと考えてしまう。ただポケモンの危険は伝えないといけない内容だった。
これからどうしよう。日がな一日水面見つめて寿司狩りばかりするのはな……他に大事なことがあるだろと言われたら返す言葉がない。
と、背後から足音。オモダカ女史か?
「お元気そうですね」
「ポケモンリーグ委員長がこんな僻地に用事ですか?」
「今日は理事長としての立場で参りました。教職を辞されたとのことでしたので、安否確認を兼ねてご挨拶に」
「前者は建前でしょう。あなたは目と耳がいい」
「ええ。そちらも含めてお詫びとご報告を」
わかるわかる、偉い人なら警戒するよな。……今は俺が野垂れ死にしないようにか。『野鳥観察』の範囲なので、基本は撒かずに放置すると決めていた。
「この度は誠に申し訳ございません」
「授業に関しては僕の独断です。むしろ後始末を丸投げしてしまいました。こちらこそ申し訳ないです」
「ウズ先生が去られた後、課外授業の安全性が見直されました。ジムリーダーや現役のレスキューを講師としてお招きしたりですね。彼らのご協力で、以前より指導の質は向上するでしょう」
パルデア地方は自然が豊かな分、遭難等の事故も多い。アカデミーだって何も対策していなかったわけじゃないだろう。より力を入れるようになったという話だ。
各地のジムリーダーは担当する周辺地域の環境に慣れている。なるほど、ジム巡りをする生徒が多いのだから、指導者としては相応しいといえよう。
仕事増やしてごめんね。本業もあるし無理のない範囲で……でもオモダカ女史は人使い荒めだからな……メインはレスキューのみなさんにお願いして。
「特にグルーシャさんは熱心に取り組まれていまして。指導要領の改善や各方面への交渉役に立候補してくださいました。それはもう……十徹したアオキ並み、とでも申しましょうか。ウズ先生の顛末を耳にしてから彼は人が変わったようです。何かご存知ですか?」
もしかしなくても俺が原因じゃん。
違うグルーシャ、負い目を感じる必要はないんだ。一人で抱え込まないで。
「彼に伝言をお願いできますか。僕は気にしていないと」
「それはご自分でお伝えするべきだと思いますよ。直接が難しいのなら電話でご連絡されてみては?」
ごもっとも。でも番号知らない……。
「ええと、ではこれを届けてもらいたいのですが」
「紙のメールですか……たしかに預かりました。グルーシャさんにお渡ししましょう」
またアナログな、みたいな表情しないでくれる? シンオウじゃ今でもポケモンにメールを持たせて文通したりするんです。古風で趣があると言え。
「ポケモンリーグは監視員の増員や巡回強化等で支援させていただきました。ジム巡りの一環で起こる問題でもありますから、安全性を精査して再発防止に努めます」
リーグやレスキュー、ポケモンレンジャーといった外部の機関と連携を取れば、一般のトレーナーの事故率だって減るだろう。決して無駄にはならない。
「ウズ先生はこれからどうなさるおつもりですか?」
「本音を言えばお手伝いしたいですが。ただ、僕がどの面を下げてという思いが混在しているので……」
オモダカ女史に頼めば、監視やレスキューの仕事を斡旋してもらうことはできるだろうが。
すぐには返答できそうもない。そんな俺の感情を読み取ってか、彼女は早々に話を切り上げる。
「もし気が向きましたら、私にご連絡ください」
渡された手土産はシンオウ老舗のヨウカンだった。
翌日。
知らない番号から電話がかかってきた。
『ハロー。こちらオーリム』
天気予報を見ようとしただけなのに。電源をつけた一瞬を狙いすましてくるとは、ただものじゃないぞ。
ポケモンの研究で有名なオーリム博士だったか。雑誌に論文が掲載されていたな。
『突然すまない。キミに頼みたいことがある』
なにもう。厄介事は勘弁して。
「……緊急の要件でしょうか」
『そうとも言える。どうか子供たちを説得してくれ。ワタシのいるエリアゼロまで来るように』
エリアゼロはパルデアの大穴、その内部に当たる危険区域を指す呼称だったはず。歴史上でも数えるほどの人間しか足を踏み入れていない未知の領域……図書館にある上下巻の本の受け売りだが。たしかスカーレットブックとバイオレットブックとかいう。
そんな場所に?
昨日の今日で?
子供を送り込めだと?
いや落ち着け。オーリム博士はこちらの事情なんて知らない。八つ当たりはするな。
「なぜです?」
『彼らは口を揃えてキミの名前を出した。よって、キミならば彼らに影響力があると判断した』
「そちらではなく。どのような理由で、子供を危険区域に向かわせるというのですかね」
『……』
「申し訳ないですが、話せないというなら応える義理はありませんよ」
『……ワタシの目的はタイムマシンの停止。そのために強いトレーナーの力を借りたい。コライドンとミライドンに認められた二人の少年少女たちのような』
「なぜ自分で止めないのですか?」
『……』
まただんまり。だが沈黙が雄弁に物語っている。タイムマシンの存在を部外者に開示する。しかも開発者本人は止められない。事態は俺の想像より深刻なのか……?
『……すまない。キミがそう考えるのは当然だ。今から全てを話そう。ただし他言無用でお願いする』
俺はオーリム博士の事情を把握した。
『子供たちは前向きな反応をくれた。だが、何かが彼らを躊躇わせている。キミが彼らを案じているのはワタシも理解しているつもりだ。それでも頼む』
彼女を一蹴するには気掛かりが多すぎる。
生徒は心配だ。俺が教えたことは無駄になっていない様子なのは幸いだが。
アカデミーの教師じゃなくなったとしても……ここで何もしないのは違うよな。