ジム廃業して飛んでパルデア 作:あさいかくり
これよりパルデアの大穴、エリアゼロに潜る。
空飛ぶタクシーを飛ばして到着したのはゼロゲートという建造物。ここから大穴に出入りできるという。
『キミの助力に感謝する』
「くれぐれも彼らには内密に頼みますよ」
俺はオーリム博士に条件を出した。
俺が子供たちを陰から見守る。
ただし、こちらの存在は知らせない。
それがアオイとハルトたちを説得して、エリアゼロに送り出す大前提だった。
個人的には危険な場所に足を踏み入れてほしくない。
だが、子供たちや博士にだって事情や理由がある。生徒の、いや他者の行動を全て縛るのは不可能だ。
だから妥協点を見出す。
アオイ、ハルト、ネモはチャンピオンクラスのトレーナーだ。ペパーやボタンも三人に準ずる実力者。念入りな準備と心構えができていれば、エリアゼロを踏破してのける能力はあるはず。数名は若干の不安要素があるが。
ビデオ通話で彼らに伝えた内容はまさにそれ。
十分な支度を整えること。
何時も見えない危険を想定すること。
自分たちの命を第一に考えること。
どのような状況でも思考を止めないこと。
絶対に、無事に帰ってくること。
伝えるべきは伝えた。アオイは何かを言いたそうだったが……尋ねる前に電話を切られてしまった。気になるが、今は目の前のことに集中しよう。
いざという時を除いて手は出さない。
何事もなければ、この冒険で彼らは成長するだろう。心配でもどかしいが過保護すぎてもいかん。かわいい子には旅をさせよとも言う。生徒を信じろ。
自分に言い聞かせて、御一行を追跡する。
ちなみに『野鳥の会』にハンドシグナルを送って事情は説明済みだ。もし誰も戻らない場合はアカデミーに連絡が行くようにな。流石に生徒が消息不明は笑えない、今回ばかりは保険をかけておかねば。
あ、馬鹿。アーマーガアが来てるぞ気づけ。
ペパーとボタンはこんなとこで喧嘩すんな。
仲裁にネモのストッパーにと、ハルトは大変だ。
『ときに、キミは妻帯者かな』
「唐突ですね。見ての通り独身ですが」
『いやなに……子供の初めてのおつかいを見守る親とはこういう表情をするのだろうね』
うっせ。まだそんな年齢じゃないし相手もいないわ。
道のりは順調だ。しかし、そういう時に限って想定外の事態が飛び込んでくるのが世の常。
御一行から身を隠すために入った洞窟で、俺は野生ポケモンの襲撃にあった。
「ボーマンダとエルレイド……? いや」
縄張り争いで死闘を繰り広げる二匹は、俺の知るポケモンと似通っているがどこか異なる。
凶暴で荒々しい極彩色のボーマンダ。
鉄の機械のように無機質なエルレイド。
おい後者。はがねタイプじゃねーだろうな。
『あれはトドロクツキ、そしてテツノブジン。過去と未来からやって来たポケモンだ。事前に説明したが、とても凶暴なので十分に気をつけてくれ』
そうだろうね。こっちに敵意マシマシだから。
くそ、侵入者と判断されたか? だからって一時休戦して俺に向かってくるな。お互いで争ってろ。
「頼みますドラピオン」
高速で飛翔するトドロクツキからは逃げられないと判断してしねんのずつきを受ける。エスパーわざには無傷のドラピオンが両の爪でトドロクツキを抑えつけた。
あ、振り解かれた。
これはりゅうのまいを積んでやがるな。
ならこちらも考えがあるぞ。
とりあえず戦闘用の道具、ありったけ。
プラスパワー、スペシャルアップ、スピーダー、クリティカッターを使用する。
ついでにマルチアップ、にばいづけも投与。
野生相手ならルール無用だ。複数で一匹を袋叩きにしたっていいからね。
「ロズレイドとドククラゲは牽制、ゲンガーはわざを封じてください」
くさむすびで伸ばした草の檻と、バブルこうせんの泡の機雷で身動きを封じる。ついでにアンコール&かなしばりでトドロクツキにわるあがき以外を許さない。
「ドクロッグ、ドラピオン、とどめを」
どくづきとクロスポイズンでおしまいだ。
ぱっと見で効きそうなわざを使ったが……ドラゴンはまず確実として、複合タイプはひこうじゃないのか。確認する余裕はないけど。まだもう一匹が残っている。
「歯ごたえがないのはあなたが追い詰めていたからですか、ねッ」
不意の斬撃を避けて背後を取る。ダイレクトアタック無慈悲。野生ポケモンとの戦闘は気が抜けないぜ。
しかしこの位置取り、捕獲チャンスだな?
隙ありとボールを取り出し……次の瞬間、俺は嫌な予感がして手を引っ込めた。
理屈によらない判断。しかしてそれは大正解。
「……ボールを、斬った?」
金属部分も含めて粉微塵である。
一秒遅れていたら、俺の手が同じ目にあっていた。
やっぱ駄目だ危ないわこいつ。ここで倒す。
双刃刀を振るった体勢から即座に俺を追撃するテツノブジン。誰が司令塔か理解しているのだろう。そんでかなり強い。歴戦のヌシとでもいうのか。
この先、何が起こるか読めない以上は余力を残したい。手札を消費するか、時間と体力を消耗するかの二択。……決めた。一気呵成に仕留める。
「エルレイド、開眼――テラスタル」
テツノブジンの一刀を、間に入ったエルレイドが受け止めた。結晶化したその頭部には第三の瞳。エスパータイプのテラスタルである。
激しく切り結び、打ち合いを続ける二匹の力量は互角。テラスタル抜きだと負けてるか。どうやらテツノブジンはエスパー弱点のようだが……お前のタイプ、フェアリー・かくとうあたり?
「好都合です。サーナイト――メガシンカ」
腕貫に仕込んだキーストーンと、サーナイトに持たせたメガストーンが共鳴する。カロスの継承者から受け取った力だ。普段はあまり使い道がないけどね。
「ハイパーボイス」
フェアリースキンで強化された振動にテツノブジンはなすすべなく倒れる。白兵戦をしていたエルレイドは直前でテレポートして離脱済みだ。ナイス足止めだったぞ。
「思った以上に時間を食いましたね」
クロバットを護衛につけたから問題ないと思うが、早く合流せねば。あと監視がバレてもまずい。
『子供たちは先に進んでいる。追いかけるなら、観測ユニットのワープパネルを利用するといい』
あのぐるぐる回転するやつか。酔うからあまり好きじゃないのよね。あと道順忘れて迷子にならない?
第3観測ユニットから第4観測ユニットへ。
浮遊感を経て、視界に映る光景が一変する。
そこは荒れ果てた研究施設だった。
倒れた機械に散らばる書類。長らく使われていないことを示す埃の山と、何かが暴れたような痕跡。
……誰もいないな。
床はところどころ結晶に侵食されている。それらを避けて目に入った書類に視線を落とす。
――タイムマシンは未完成だった
――あの人は実験に失敗した
――これからは一人で研究を続けなければ
――人が足りない
――時間が足りない
手記らしき書類には延々と、思い通りにならない不満と焦燥が書き連ねられている。最後には力強い筆圧で、こう記されていた。
――自分がもう一人いればいいのに
「これは……」
少し離れた場所にある書類は焼け焦げて損傷している。文面が虫食い状態になっていた。
――研■■を■人増■し、効■が二■■
――■と同■知■■■術を■って■る
――タ■■マ■ンは完■■■
――■■、まだ足りない
――■去と未■の■■■■が暮らす楽園
――もう一基の■■ム■シン■作る
――そのた■には、あ■一人
ページをめくる。二枚目はさらに欠落が激しい。
――さら■■■一■の■■員■■■し■
――■の記■■ベ■ス■■格を再■■■
――……なんと愚■なことを■■しまっ■■だろう
「……」
俺は書類を元の位置に戻した。
今は先を急がないといけない。