ジム廃業して飛んでパルデア 作:あさいかくり
パラドックスポケモンの群れを食い止めろ。
俺は三つのギガトンボールを投げる。
ボールロックは意味をなさない。これはハイテクとは真逆を突き進む、ID登録もポケモンの保護機能も付いていない大昔のクラフト製ボールだからだ。
飛び出した影が静かに目を開く。
オオニューラ。
ハリーマン。
白いゾロアーク。
ご先祖様が連れていた三匹。遥か昔、シンオウがヒスイと呼ばれていた頃に生息していたポケモン。
彼らはオヤブンと称される個体らしい。
しかし大柄で屈強だというご先祖様の記録とは相違点があり、サイズは通常種に近い。
その代わりと言ってはあれだが相当長生きなご老体だ。過酷な環境下で生き延びた分、現代のポケモンより生命力が強いのか。鍛え上げられたポケモンは等しく寿命が伸びるのか。百歳はゆうに超えてるよな。
「何卒お力をお貸しください」
カミナギの笛を吹く。前世ではゲームを起動するたびに耳にした一節を奏でる。
彼らは正式には俺のポケモンじゃない。かつての主人の遺言で、カミナギの笛を持つ子孫に付き従うだけ。指示を聞くかは彼ら次第である。
『?』
いや首傾げんな。耳遠くなったか爺さん。
あ、違うわ。これ確認だ。
「あれらは自然の理に従っているだけ。凶暴ですが悪ではない。それでも、背後のあの子たちを脅かす敵です」
遠慮は要らない。やれ。
即座に景色が塗り替えられる。
雪が降り積もる極寒の大地へと。肌を刺す冷気まで再現しており、まるで現実と見紛うほど。
ゾロアークの仕業だ。恨みを糧に発動する幻影は、呪詛として肉体にまで影響を及ぼす。
「うらみつらみ」
先制攻撃をかまして気勢を削ぐ。伝え聞いた知識ではたたりめの上位互換なのだが、どう見てもこうげきを下げてるんだよな。長い年月で怨念が薄れたのか、わざの性質が変化しているようである。詳しい原理は分からん。
「きあいだめ、フェイタルクロー」
足を止めた集団にオオニューラが突撃。速度を活かして相手の隙間を駆けながら、すれ違いざまに長い鉤爪で切り刻む。どく・まひ・ねむり、どれがお望みだ。
パラドックスポケモンの大半は毒が通じる。とはいえ状態異常になるかは確率で、しかも二種類ほどタイプ相性が悪い。憎きはがねのテツノワダチ、そしてどく持ちのテツノドクガ。こいつらの相手は、
「アクアテール」
ちいさくなるを使ったハリーマンの役目だ。限界まで縮んだ姿はまきびしに紛れて探しづらいだろう。棘を隠すなら棘の中だ。踏み潰そうと考えようものなら無数のまきびしを味わうことになる。
とはいえ相手が諦めるとは思えない。あちらさんは野生の本能と数の暴力で攻め立てる。こちらの三匹は歴戦の猛者。しかし一騎当千とまではいかない。
素早く数を減らしていく必要があるが、息切れするとアオイやハルトたちの方が片付くまで防げない。
「厄介者が紛れていますね」
そこのテツノカイナ。
手に持っているのはマスターボールだな?
野球の投手よろしく振りかぶって狙いをつけてやがる。三匹に命中した場合、保護機能がないため確実に捕獲されてしまうだろう。ポケモンがボールを使うな。
タイミングよく、先にこちらでボールに戻す。
攻撃をすかせる緊急回避の小技だ。公式戦で使ったら交代と見做され、かつ非難轟々の嵐を呼ぶぞ。
ボールに戻したハリーマンを別方向に繰り出しつつ、俺は自らテツノカイナと対峙する。お腰につけたマスターボール、ひとつと言わず全て私にくださいな。
次々とボールをなげつけるテツノカイナ。
俺は避けながら距離を詰める。小賢しいことに、たまにこちらのポケモンを狙うので、その場合は捕球するか足で蹴り返す。気分はGKである。
「これはいただいておきます」
懐に入りマスターボールを回収。かみなりパンチをいなして、軸足を払いテツノカイナを転倒させる。……うわおっも!? 重い重い、これ体重かけられたら潰れるって。投げ飛ばすのは無理だわ。
それにしても、このテツノカイナの行動は厄介だったが参考になる。三匹ばかりに戦わせる必要はない。足止めに徹すれば俺も戦力として数えられる。お返しに祖父さん直伝のボール捌きを見せてやろう。
「クロバット、運んでもらえますか」
クロバットに背中を掴んでもらい、その飛翔能力を借りて加速、跳躍する。密集するポケモンに投げるのは特製ねばりだま。虫食いきのみやら泥、虫ポケモンの糸を紙で包んだクラフト品だ。命中した箇所から粘着質な中身が飛び散り、相手の動きを鈍らせることができる。
めかくしだまの煙幕に紛れ、三匹用の骨董品ギガトンボールを鈍器代わりにして気絶を誘発しつつ、時間を稼いでいると……背後から歓声が聞こえた。
「いけ! テラスタルで決めちまえ!」
あちらは佳境か。なら出し惜しみは無しだ。
「ゾロアーク、『力業』」
幸い煙幕で視界は閉ざされている。祖父さんから最後に教わった技術、技皆伝で一気にけりをつける。
「あやしいかぜ」
力業で威力が増した、身の毛もよだつ突風がパラドックスポケモンを押し返す。
「『早業』フェイタルクロー」
あやしいかぜを受けてなお健在の相手を目にも止まらぬ速さの連撃でオオニューラが刈り取り、
「『力業』どくばりセンボン」
毒で弱った生き残りにハリーマンがとどめを刺した。
取りこぼし無し。ふう……終わった。
煙幕が晴れて背後を振り返ると、ちょうど博士側のコライドン、ミライドンが力無く倒れるところだった。
『なんと……なんと素晴らしい! まさかオリジナル博士の最終手段まで退けてしまうとは!』
『キミたちは絶望のふちにいても、自分の頭で考え、友達を信じる勇気を持ち、決断できる人間なのだな』
『ありがとうハルト、アオイ。ありがとう子供たち。……そして、ありがとうウズ』
『どうやら我々がいる限りタイムマシンは止まらないらしい……我々自身がマシンを復旧するシステムの一部となっているようだ』
『だから我々はタイムマシンで……』
『夢にまで見た世界へと旅立とうと思う』
『少しさみしいがお別れだ』
『『ボン・ボヤージュ!』』
二人は旅立ち、タイムマシンは停止した。