ジム廃業して飛んでパルデア 作:あさいかくり
家に帰るまでが冒険です。
質問攻めにされる前に煙幕で離脱。
その後、御一行が街に戻ったのを確認して、クラベル校長に大穴での出来事を一部始終まとめた手紙(と回収したマスターボール)を気づかれないよう届けた。オモダカ女史のところにも同じように手紙を置いてきた。
これで今回の一件は終了だ。
後は自分の尻拭いをするだけである。
なんかクラベル校長に呼び出された。
「失礼します」
「窓から入室するのはやめてくださいね」
すみません。非常識だと理解はしているのだが、他の学校関係者の目を盗んできたので。なおゾロアークのイリュージョンを使えばいいと気づくまで残り数秒。
改めて正攻法で校長室に赴く。
「それで僕に用件とは……?」
「まずは座ってください。お茶を飲みながら、ゆっくりとお話しましょう」
お説教コースでは。
何かしたっけ。やらかしたやろボケ。
「紅茶とコーヒー、どちらがお好みですか?」
「コーヒーでお願いします」
「では私も同じものをいただきましょう」
後ろのポットデスが無言で訴えるんだもん。
信頼するクラベル校長に他の飲み物を飲んでほしくはないけど、自分以外の紅茶を飲ませたら絶対に許さないというゴーストタイプの怨念が。
椅子に腰掛け、喉を湿らせて一息ついた。
「ここ最近、各方面に顔を出されているようですね」
「はい。逃げ出すような形になってしまったので、謝罪とできる限りの協力を」
問題スパルタ授業を契機に取り上げられた、トレーナーの安全に関する諸問題。その対策を取り進める関係者各位にできることはないかと考えた結果の行動だ。
まあ既に組織ぐるみで動いているから部外者が口を出す余地はなくて、どちらかというと謝罪&感謝を伝える生存報告みたいになってしまったけど。
「……その、こちらにも伺う予定だったのですが」
「そうですか。であればまずは一安心です。このままアカデミーは訪れないのかと懸念していたのですよ」
「重ね重ね、皆さんにはご迷惑とご心配をおかけしてしまい申し訳ありません」
パルデア各地を飛び回っていたのと、あとはやっぱり、気分的に一番訪問しづらかった。嫌われ者でいいとか言ったけど人間なので普通に嫌だし辛いです。
「あれから生徒でトラウマを抱えてしまった子はいませんか? 時間が経ってから、徐々に恐怖が芽生える場合もあると聞きます」
「ご心配には及びませんよ。定期的に面談を行なっていますが、あの授業が原因で、そうした心的外傷の兆候が見られる生徒さんは現れていません。ただ……」
「ただ?」
「いえ……今はまだ話すべき時ではありませんね。それよりも、本日お呼びした件について説明しましょう」
引っかかる言い方だが、それ以上の追及を受け付けず、クラベル校長は話を進める。
「とても、大変、非常に言いにくいのですが」
なに、なんだよ。その溜めはいらんて。
「後任の先生が未だ到着されないのです」
「……なんですって?」
俺が紹介して本人とアカデミーの了承を得たはずではなかったのか。シンオウからパルデアまでは、交通機関を使えばそこまで日数かからないだろう。
いや待て……もしかしてあいつ。
嫌な予感がした俺は、問題の人物、かつての同僚にして元教え子に電話をかけた。
『ロトロトロトロト、ロトロトロトロト……』
「はいもしもし? ……あら、親愛なる我がクソ恩師ではございませんの。ごきげんよう」
「なぜ南国の海を背景に水着でグラサンしてやがるんですかあなたは」
「懐かしいですわー。現役時代の先生もオフでポロッと悪態を溢していましたわね」
どう言い繕ってもビーチを満喫中のご令嬢アコは昔を懐かしんだ後、満面の笑みで胸を張った。
「乗る便を間違えましたわ!」
そうだった……彼女には致命的な欠点がある。
「しかも飛行機がハイジャックされた挙句、乱気流に巻き込まれてしまいまして……不時着した先は無人島。これ救助待ってたら間に合わねーということで、開き直ってバカンスですわー! オホホホホ!」
不運・方向音痴・フリーダム。
役満の三点セットである。
方向音痴はダンデさんほどじゃないが、他二つとの相乗効果で彼以上のトンチキをしてのける。
仕事はできる超優秀な教師なのだが……ばっかやろう、こんな醜態を見せたら転職できるわけねーじゃん。お前を紹介した俺が赤っ恥ですわよ。
「もちろんアカデミーには真っ先に連絡いたしましたのよ? そうしたら、そちらの校長先生が今回のお話は無かったことにしてほしい、と。トレーナーズスクールに復職まで掛け合ってくださったのです! まさに捨てる神あれば拾う神あり! ラッキー・ハピナス・ビクティニー! 私ツイてますわねー」
「それはよかった。では切りますね」
「ああ! お待ちになって!」
「何ですか。あなたと話していると疲れるのですが」
「コホン……大体の事情はお伺いしていますわ。どうせまた全部一人で解決しようとしたのでしょう。言っておきますが、それクッッッソダサいですわよ」
「あ”?」
「もっと同僚と生徒の気持ちを考えやがれですわ。常時平静なら尊敬できるのですが、それがあるから先生はクソ恩師止まりなのです。ではアゲたまのご飯の時間ですので、これにて。ごきげんよう」
自分はいきなり通話切るのかい。
相変わらずだな、あのポジティブ自由人め。
しかしハイジャックに無人島生活とかやばいだろ。あいつ大丈夫かな……? いや絶対に大丈夫だわ。ポケモン勝負と生存力にかけては俺に匹敵するし。不運で揉まれた胆力は伊達じゃない。本当に一般人か?
「というわけですから、現在アカデミーでは技術を担当してくださる先生がいらっしゃらないのです」
というわけで、じゃない。
彼女が無断で仕事をバックレたのかと思ったから背筋が凍ったぞ。クラベル校長、あなたわざと誤解を招く言い回しをしましたね?
「あれを断るのは……一歩譲らずとも理解します。しかし、他に適任がいるはずでは? 新しい募集をかけていないんですか?」
「そうですね。する必要がないと言いましょうか」
クラベル校長は引き出しから書類を取り出した。
それ俺の辞表では。
「こちら、受理していません」
「え」
「ですから名目上、あなたはまだアカデミーの技術教師、ウズ先生なのですよ」
「えっ」
「現在は謹慎中という扱いになっていますね」
「えっ?」
待って待って。おかしいじゃん。
あれだけの大事をしでかしたやつをクビにしないで留めおくなんて、不利益があるだろう。
「あの授業は校長の私が許可を出したものです。つまり責任はアカデミーにあります。保護者や理事会に対しての答弁も行っています。ただ、どちらにせよウズ先生も出席しての会見を執り行う必要があるでしょうか」
「ええ……?」
「気が進みませんか。こればかりは、アカデミーとしても説明責任がありますからね」
違います、会見が嫌とかではなくね。
そんな軽い処分でいいのかという話よ。
「罰を受けて辞職する。生徒の成長を見届ける。どちらも責任の取り方ですが。今回の場合、どちらがより責任を果たしていると言えるでしょう?」
「……それは」
「無理強いはできませんが、知っておいてほしいのです。我々はあなたの帰りをお待ちしています。……ちょうどいらっしゃいましたね」
校長室にノックの音が響いた。
クラベル校長が扉を開ける。
招かれたのは緊張でガチガチのアオイだった。
「わ、渡したいものがあるんです」
アコ
元コトブキジムのジムトレーナー。
トレーナーズスクールでウズの後釜を務める。
口の悪さは恩師(ジムリver)譲り。
相棒はドクケイル。
ハイジャック犯を制圧したり。
持ち前の明るさと泥を啜っても生き延びるしぶとさで無人島生活のまとめ役をこなしたり。
この後無事に救助された。
実家は個人経営のうどん屋。
お嬢様ではない。