ジム廃業して飛んでパルデア   作:あさいかくり

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グルーシャ視点・三人称風味


もっと! 飛んで×2 パルデア
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 ナッペ山は一年を通して積雪がほとんど溶けない。

 

 季節外れだろうと雪があり、であるならば、遊ばない理由はどこにもない。

 そうグルーシャに述べた人物は慣れた手つきでかまくらを作り、今は火鉢で暖を取っている。

 

「……なんで餅とブドウ」

 

「半額だったので」

 

 それにしたってどういう組み合わせだ。

 飛び出しかけた言葉を飲み込む。手土産に文句をつけるつもりはない。が、グルーシャが用意したコーヒーは後に回した方がよさそうだった。

 

 網の上で膨らむ餅の焼き加減を眺めながら、種なしのブドウを口に入れる。

 

「ウズさんと会うのは三度目かな」

 

「お互い立て込んでいましたからね。病院で一度。その後に一度でしたか」

 

 グルーシャは仕事。ウズは謝罪と挨拶回り。

 どちらも同じ出来事に起因する責務であり、予定を合わせて会う機会がなかった。なんとはなしに紙のメールではやり取りが続いているが。

 

「無事にひと段落ついたということで、ゆっくり羽を伸ばすのも悪くはないでしょう。もう夜ですが」

 

 当日に降って湧いた残業は仕方ない。ウズからの連絡を受けて、グルーシャは準備を整えてある。

 

「サムかったらカイロ使いなよ。毛布も、ジムに置いてあるし。すぐ取ってこれる」

 

「もしかして割と楽しみでした?」

 

「別に。風邪をひいたら困るってだけ」

 

「道理ですね。では、追加で汁物でも作りますか。体を内側から温めましょう」

 

「どこから出したんだよその鍋と具材」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グルーシャとて噂は耳にしていた。

 新任の教師が世間を騒がせていると。それ自体は何を思うでもないが、アオイの一件は見過ごせなかった。

 

 第一印象は拍子抜けだった。

 聞きかじった噂で、身長二メートル超のデカヌチャンのような人物を想像していたからだ。

 それが蓋を開けてみればグルーシャと変わらない普通の人間で、話が通じる常識人に見えた。

 

 だから忠告した。何か起きてからでは遅い。

 グルーシャが関わる生徒は主にジムの挑戦者だ。ナッペ山ジムを訪れるトレーナーは上澄みも上澄みで、全体としてはごく僅か。アカデミーの協力は必要だった。今一度、雪山の脅威について考えてほしかった。

 

 思い返せば、他に言い方があった。

 多少の私情も混ざっていた。

 それでも、相手はグルーシャの言いたいことを会話から汲み取ってくれた。そのはずだった。

 

 問題は、相手が噂通りの人物だったこと。

 そして当の本人が責任を抱え込んだこと。

 

 ポケモンで人間を攻撃する授業。教師は謹慎処分を受けたと聞いて、グルーシャは全身から血の気が引いた。

 グルーシャの言葉が契機なのは間違いない。言葉足らずで相手を追い詰めてしまった。誤解を解こうにも連絡先を知らず、本人は消息不明。

 

 やり取りを知っているのはグルーシャ一人。ゆえに彼を責める者はいない。周囲の気遣いと優しさがより一層心を苛む。真実を告げたところで事態は解決しない。ただ同情と非難が向けられるだけ。グルーシャの重荷が一つ減り、それ以上に増えるだけ。選んだ沈黙は保身に繋がる。どう足掻いても罪の意識から抜け出せない。

 

 逃避のために仕事をした。

 教師が残した置き土産、問題の対策と改善に従事することがグルーシャにできる贖罪だった。

 

 限界寸前のグルーシャを止めたのはオモダカから渡された手紙だった。私信を読む時間すら惜しいと机に放置した彼に、彼女は一言、差出人の名前を告げた。

 

 手紙には慰めの言葉が綴られていた。

 責任を負う必要はないと。

 ……しかし、半ば混濁した頭で読む文面はどこか現実味に欠けていた。自分が生み出した都合のいい幻覚ではないかと疑いは晴れなかった。

 

 グルーシャは過酷な労働を続け、そして――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝焼けが銀雪を茜色に染め上げる。

 グルーシャは雪の照り返しから目を背けた。視線の先はかまくらをデコレーションするウズの姿。モチーフは巨大化したゲンガーだ。いつの間にか、隣には小さいドヒドイデ型のかまくらが並ぶ。

 

「あんた、結構面白いよね」

 

「何ですか唐突に。口説いてます?」

 

「いや全然違うけど。なんでそうなるわけ?」

 

「グルーシャさん。あなたは一度、自分のポテンシャルを自覚した方がよろしいかと」

 

 顔面600族、などと意味の分からない呟き。

 この男、やはり常識とは程遠い感性に生きている。

 

「口説くって言うなら、いきなり人を抱きしめる方がよっぽどだよ」

 

「仕方ないでしょう。過労で今にも死にそうなのに仕事止めないんですから」

 

「誰かさんが仕事を辞めたからじゃない」

 

「……何も言い返せないですね」

 

 軽口の応酬ができるようになったのは最近だ。

 

 手紙の返信がないことを不審に思ったウズは謝罪を兼ねてグルーシャの元を訪れた。

 顔を合わせた途端、彼はグルーシャを抱きしめて「あなたは悪くない」と謝り続けた。涙と人肌の温もりに、グルーシャも釣られて泣いてしまったのは秘密だ。

 その後、体調が戻るまでは十分な休養を取った。当然だが休みの間は仕事厳禁である。割烹着ニンジャの監視(看病付き)からは逃げられない。

 

「……」

 

 二人で一晩中話した。

 沈黙も長かったが、多くの言葉を交わした。

 その中には両者の過去も含まれる。

 

「どうされました?」

 

「いや。アルクジラのかまくら、作ろうかな」

 

「ハルクジラとチルタリスもできそうですね」

 

 だが、蒸し返すのは無粋だろう。

 深夜にしかできない話はあるものだ。

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