ジム廃業して飛んでパルデア   作:あさいかくり

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 ジニア先生めっちゃ優しい。

 細かい質問でも丁寧に答えてくれるし、「ないと不便ですよねえ」って中古のスマホロトム貸してくれたし、これもう俺のことが好きなのでは? いやそうに違いない。

 なんて考えていたら手持ちのボールが同時に揺れた。

 

「……分かっていますよ。冗談です」

 

 パルデア地方のポケモン図鑑はジニア先生が制作したスマホロトム用アプリケーションだ。スマホがなけりゃ図鑑も使えない、そんな俺が他の地方の珍しいポケモンを手持ちにしているのだから研究対象にもなろうというもの。

 つまりお互いに利益のある取引だ。いいね。

 

 普通に授業の内容も面白かったしな。教室の後ろで研修するつもりが、つい生徒気分で聞き入ってしまった。

 特にパルデアのポケモンに関する知識は初耳なので大変勉強になる。オコリザルってまだ進化を一回残してるのか!? とかね。

 

「それじゃあ、今日はここまで。ありがとうございましたあ」

 

 ジニア先生に挨拶をして、ぞろぞろと生物室を出ていく生徒たち。基本は子供、特に十代が多いが、なかにはそれより上の年代も見かける。授業ごとに教室を移動するシステムといい、大学とよく似ているな。いやアカデミーって言ってるだろ。似てるんじゃなくてそのものだわ。

 

「今ので最後の授業ですねえ。どうでしたかあ?」

 

「勉強になりました。それと普通に楽しかったですね、他の生徒さんに申し訳ないくらいです」

 

「それはよかった! 授業方法は担当の先生に任されていますから、生物は僕なりのやり方でやってるんですよお。なのでウズ先生も頑張ってくださいねえ」

 

 なるほど、たしかにあの個性派ラインナップを画一化して殺すのは惜しい。

 生徒と教師の双方が自由であるからこそ、か。

 

「僕の担当は技術と言われましたが……技術とは、そもそも何する科目なんでしょうかね」

 

「ええ!? 大丈夫ですかあ……?」

 

 前世の記憶を漁っても木材切ったりパソコン叩いたりした記憶しかないぞ。

 教養科目とバトル学は既にあり、調理は家庭科に含まれる……やばい本気でどうしよう。この世界で俺が教えられる技術って何?

 

「技術は選択科目ですからあ、生徒の皆さんがやりたいことを聞いてみるのがいいかもしれませんねえ」

 

 生徒に……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジニア先生に礼を告げて、校舎内の探索に移る。

 が、悲しいかな。まだ俺の顔は生徒に知られていないので急に話しかけても驚かせてしまう。あと「授業で何やりたい?」と尋ねられても返答に窮するだけだ。

 

「叩き台がないと話になりません」

 

 それにはまず授業の方向性を設定しなければ。トレーナーズスクール時代はポケモンの知識を浅く広く教えればよかったが、ここでは専門性が求められる。

 どくタイプに関しては人並み以上のつもりだ。しかし一タイプに特化した授業など例を見ないし、そもそも技術だって言ってるだろ科目を履き違えるな。

 

「もっと勉強しておけばよかったですね……」

 

 ああ、考え事をすると頭が疲れる。

 こういうときは甘いものだ。

 

 購買部は、俺からすると決して品揃えが豊富とは言えないが、街まで降りずに済むのがメリットだ。おやつのためにあのくそ長い階段を往復するのは手間だからな。

 

 一直線に軽食が並ぶ棚に向かう。しかし商品を見ても食指が動く気配がない。欲しているのはヨウカンであって、スナック菓子やチョコレートではないのだ。

 妥協でモモン味の飴を手に取り、レジに並ぼうとしたところで、見覚えのあるポニーテールが視界をよぎる。

 

「もうちょっと買っておいたほうが……」

 

「どうされたのですかネモさん?」

 

「わっ!? あ、ウズさん……じゃなかった、ウズ先生。びっくりした」

 

 我が恩人にして現状ただ一人、俺を知っている生徒のネモはボール売り場の前で頭を抱えていた。

 

「モンスターボールですか。随分と多めに買われていますが、ポケモンの乱獲は生態系の破壊に繋がりますから、あまり褒められた行為ではありませんよ」

 

「違います! これは、そのう、必要で」

 

 彼女の様子と右手のサポーターを見て、俺はおおよその事情を察した。どうやら天はポケモン勝負の申し子に捕獲の才能までは与えなかったらしい。運動神経がいい印象だったので意外だが、この世界では上手にボールを投げれないトレーナーもわりと多い。

 

「動く的に当てるのは難しいですからね。外したボールを回収するのもまた一苦労です」

 

「わたしは探すの諦めちゃいますよー。だってぜんぜん見つからないんだもん! 新しく買った方が早い!」

 

 なんとまあ、環境に恵まれた思考スタイルである。モンスターボールだってつもり重なればかなりの金額だ。使えるものは使い回した方が経済的だと思うのだが。

 

「よし、今日はこれだけ買おうかな。じゃあね、ウズ先生! また勝負しよーねー!」

 

 両手のカゴいっぱいのボールを購入して、ネモは足早に立ち去った。

 

「ふむ……」

 

 その時、ふと閃いた。

 このアイデアは授業に活かせるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後。

 

 技術の授業、記念すべき第一回目が始まる。

 

「皆さんには、モンスターボールを作ってもらいます」

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