ジム廃業して飛んでパルデア   作:あさいかくり

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 コサジの小道からいい匂いが漂ってくる。

 フィールドワーク後の空腹には堪らない。朝起きてから水と野草しか口にしていないからな。それもこれも買い出しを怠った自分のせい。いっそ家電類を全ロトム化して管理してもらうか……。

 

 匂いを辿った先は灯台前。

 見覚えのある男子生徒がピクニックをしている。

 

『ワフ!』

 

「どうしたマフィティフ? もうちょっとだからな」

 

 相棒の声に振り返ったペパーは俺の存在に気づいて料理の手を止めた。

 

「お、ウズ先生」

 

「どうもペパーさん。お元気そうですね」

 

 このような教師に相応しい挨拶を返そうとしたところ、俺の言葉は腹の音でかき消された。

 あ、穴があったら入りてー……このタイミングで空腹アピールは駄目だろ。どう言い繕っても食事をたかりに現れたようにしか見えない。野生のポケモンかな?

 

「よかったら座ってくれ」

 

「よろしいのですか?」

 

「作り過ぎちまったからさ。この量はオレ一人じゃ食べ切れない」

 

 テーブルには軽く見積もっても三人分の皿。

 パエリアやアヒージョ、それから名前の分からない家庭料理が所狭しと並んでいる。この上さらに調理中のサンドウィッチが増えるとすると、たしかに育ち盛りの男子でも持て余すだろう。

 

「ではお言葉に甘えて」

 

 手伝うことはなさそうなので椅子に腰掛ける。

 

「今日はどうしたんだよ先生。いつにも増して顔色が真っ青ちゃんだぜ」

 

「街中で面倒な輩に絡まれましてね」

 

「えっ!? 大丈夫かよ?」

 

「ええ、まあ。ただ振り切るのに少し体力を使いまして。それから今までポケモンを探していたので、口にものを入れる時間がなかったんですよ」

 

 ペパーは疑問に思いながらも納得した様子だ。というか納得して。生徒に愚痴は聞かせられない。

 俺の悪名を聞きつけた暇人との揉め事とか聞いてもつまらないでしょう。だいぶ頻度は下がった方だが、昼飯調達中にバトル仕掛けるのはやめてほしいね。

 

 なお逃げた先でオモダカ女史とエンカウント。

 救いはないんですか。

 

 粘り強いというか執心深い説得に折れ、学校最強大会に参加する羽目になりました。

 せっかくなのでパルデアのポケモンを育ててみては? じゃねーんですよ。

 

「よし、ペパー特製サンドウィッチの完成! あまりの美味さに疲れもたちまち吹き飛ぶぜ!」

 

 バゲット丸ごとを贅沢に使った具材山盛りのサンドウィッチを受け取る。食べやすいようにカットされている点はポイントが高い。では実食。

 

「いただきます……っ!?」

 

「なんだよ先生。泣くほど美味かったか?」

 

「そうですね。とても美味しいですよ」

 

「秘伝スパイスに合う食材を吟味したからな。オレにとっては宝探しの集大成みたいなもんだ。…………一人で食うのはもったいないからさ」

 

 表情を笑顔で覆い隠すのはやめてくれって。

 このサンドウィッチに追い塩は必要ない。

 

「これほどの品です。せっかくですから、お友達を誘ってみてはどうでしょう」

 

「んー……うん。いいなそれ! ハルトだろ、アオイだろ、生徒会長にボタン。となると料理が足りないな。よっしゃ、追加でもう何品か作るか!」

 

『バフッ!』

 

「おう任せろ。もちろんマフィティフたちの分もあるから安心ちゃんだぜ」

 

 結局のところ俺ができることは何もない。

 気遣うつもりが逆に気を遣われてしまうとは情けない限りである。ペパーの方が何倍も大人だよ。

 出会いと別れを経験して子供はどんどん成長していくんだよな。別に俺が育てたわけじゃないが込み上げてくるものがある。あゝ涙がちょちょぎれるぜ。

 

 とりあえず目薬を差し直さないとだな。

 これじゃあ流れ落ちてしまう。

 それにしてもンまぁーい。泣けるわー。

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