ジム廃業して飛んでパルデア   作:あさいかくり

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 トンテンカンガリガリギュルルルル。

 

 え、技術室から騒音が聞こえる?

 あー多分それ俺の腹の虫(適当)。

 

 などと適当に誤魔化して教師生徒を追い払い、製作していたブツがようやく完成した。

 

「呼ばれたから来ましたけど」

 

「ウズ先生、これは?」

 

「よくぞ聞いてくれました」

 

 アオイとハルトに完成品を掲げてみせる。

 淡い翡翠色のモンスターボール。

 

「名付けて、ストレンジボールです」

 

 奇妙なことに、目が覚めたら枕元にあった材料。なんか頭に浮かび上がる知らないレシピ。

 それをぼんぐりボールの要領でクラフトしたら完成したものがこちらになります。

 

 見た目の仕上がりは市販のボールに近い。

 手触りは滑らかで非常に軽く、飛距離は上々。ただ普通のボールより脆いので繊細な扱いが必要だ。

 既にテスト済みだから性能は保証する。試作品は粉微塵になったりして大変だったけどな。

 

 そしてこのボールには、二人に会いたがっているポケモンが入っているのだ。

 

「出てきてください。ゾロア」

 

 ボールから出たヒスイゾロアは、勢いよく飛び跳ねるように、アオイとハルトの元に駆け寄った。

 

「わ! もう元気になったの!?」

 

「よかった……でも、いったいどうやって? 前に様子を見に行った時はぐったりしていたのに」

 

「エリアゼロの凶暴なポケモンに襲われて弱っていただけでなく、見知らぬ環境で神経をすり減らしていたのでしょうね。なのでゾロアが落ち着けるような工夫をこのボールに細工してみました」

 

 元の生息地に近しい気候、かつライムさんやジニア先生の助力もあり、ゾロアの体力は早々に回復した。

 だが、こやつ警戒心が強いものでな。アオイやハルトが見舞いに顔を見せても唸り声をあげる始末。

 ゾロアークの爺さんがいなければ、食事にすら手をつけてくれなかったかもしれん。

 

 ストレンジボールは内部に特殊な構造が施してある。

 特にヒスイで暮らしていたポケモンは不思議と安らぎを得られるようだ。

 効果はご覧の通りである。うらみぎつねが一瞬で絆されやがった。うーんフォックス。

 ま、他のポケモンでも試したから間違いない。

 

 ゾロアを保護した日の翌日、俺は各方面に声をかけて、エリアゼロの異変を調べる調査隊を秘密裏に発足した。

 ある程度の調査を進めて判明したのは、主に小型のポケモンが時空の歪みから現れていることと、人間が巻き込まれる心配は限りなく低いこと。それと現状では解決の手段がないことだった。

 

 下手にタイムマシンの残骸に触れて事態が悪化したら大変だよね、というわけで我々は静観一択なのよ。

 もともと一般人は立ち入り禁止区域だし。

 

 にしても実働たった数名でよく調べたと思わんか?

 生半可なトレーナーを投入しても被害者を増やすだけ。だからって俺とアオキさんだけかよ。

 理屈は分かるけどね。オモダカ女史ってばああ見えて多忙だし、クラベル校長はジニア先生と時空の歪みの予兆を察知するシステム構築してたから。

 

 閑話休題。

 

 とにかく襲ってくるポケモンと戦い、捕獲して、落ち着かせたら時空の歪みを通じて元の時代に送り返すという仕事でここ数日はまともに休めていない。

 

「ウズ先生、大丈夫ですか? なんだか顔色が悪い……のはいつもですけど。すごい疲れているみたい」

 

「問題ありません。この特製栄養剤を飲めばね」

 

「それ石炭ですよ!?」

 

 いっけね、間違えた。

 これヒョウタに頼んで送ってもらったやつだわ。

 イヤー、コレ、オレノエナジークマ。

 

「エリアゼロの調査で休めていないんですよね」

 

「なんのことですか?」

 

「とぼけても無駄ですよ。僕たち知ってますからね」

 

 調査隊の件は関係者しか知らないはず。

 緘口令を敷いて、データは紙に残さず、全て厳重にクラウドで管理して……あー……。

 

 そういやスーパーハッカーとお友達だったね君ら。

 

「私にできることはありますか? あるなら、お手伝いさせてください」

 

「僕たちはエリアゼロに行ったことがあります。危険なのは分かってます、ちゃんと考えて動きます」

 

 真剣な表情で詰め寄らないでくれないか。

 

 二人はまだ子供だ。数奇な巡り合わせでタイムマシンの一件では活躍したが、本来なら危険も責任も負わず、無邪気に宝探しをしていればよかったはずだ。

 

 ……いや、違うよな。

 大人からは危なっかしく見えても、子供にとってはその時しか体験できない、かけがえのないものなんだ。

 頭ごなしに押さえつけて、大事に囲って守るだけじゃいけない。俺たち大人がするべきは、子供の成長を見守り、どうしようもなくなったときに責任を取ること。

 前回の一件で身に染みたことだろうよ。

 

 それに、彼らにはポケモンがついている。

 アオイとハルトの実力は折り紙つきだ。調査隊の助っ人としてはこれ以上ないくらいに優秀な人材。

 

「ですが、やはり今回は」

 

「連れて行ってくれたらヨウカンを奢ります!」

 

「何言ってるのアオイ。そんな条件でウズ先生が頷くわけないよ、ヨクバリスじゃないんだから」

 

「…………」

 

「あれ?」

 

 い、いや別に?

 その程度でぐらっときたりしてないんだからね!

 それにどうせ君たちはパンに挟むんでしょ。俺は知っているんだ。騙されないからな。

 危なかった。ヨウカンだったから耐えられたが、これがイモモチなら理性に歯止めが効かなかった。

 アオイ、恐ろしい子っ。

 

「ふう……少し時間をください」

 

 真面目に考えるか。

 イモモチのフレーバー……ではなく、彼ら生徒の訴えにどう対応するのかという方針を。




 ウズ先生から
 信頼を 感じる!

ストレンジボール
時空の歪みから現れたポケモンが捕まえやすくなる奇妙なボール。
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