ジム廃業して飛んでパルデア   作:あさいかくり

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 金欠だ。なら副業だ。金策だ。

 

 俺、心の一句。

 辞世の句? そうならないとイイネ。

 

 なぜかガオガエンのカラーバリエーションが頭に浮かんだので脳裏から振り払う。これ以上妙ちきりんな電波を受信してたまるものかよ。

 

 実のところ、生活には困っていない。

 衣食住は人並みを維持しているのだが。

 

 近々、林間学校が開催されるらしい。

 場所はキタカミの里。自然豊かな田舎だそうな。

 イッシュのストロベリーだかブルーベリーだかいう名前の学校と合同で、アカデミーからはくじ引きで選ばれた生徒数名が向かうことになる。

 当然、引率として教師の誰かは同行するだろう。ここで深刻な問題が浮上してくるわけだ。

 

 俺の場合、旅費が出せない。

 いや分かってるよ。さすがに個人で全額負担はないだろう。なんならタダで旅行に行けるかもしらん。

 でも違うじゃん。旅行にかかるお金ってのは、交通費と宿泊費だけじゃないじゃん。

 

 今の時期、キタカミの里は祭りの真っ最中。

 遊ぶお金は必要経費。お祭り屋台価格のうまいもんを制覇できるだけの軍資金を早々に拵えねばならぬ。

 

「キタカミもち……興味深いですね」

 

 テーブルシティの目立たない路地にゴザを敷いて、俯きがちに座り込む。生徒に見つからないようにね。

 

 へいらっしゃ。ここは道具屋だよ。

 主に商品はエリアゼロの時空の歪みから回収した道具やガラクタの類である。

 

 ヒスイのポケモンを送り返すついでに検証したところ、時空の歪みは一定時間が経過する、あるいはある程度の質量を持つ物質が通過すると消滅することが判明した。

 そして、過去からやって来るものと現在から送り出すものの総質量はおおよそ釣り合うことも。

 この発見から、事前にいらないものを入れることで、不意に人間やポケモンが飛ばされる心配はなくなった。

 

 だからって壊れた家電を投げ込むか普通。タイムパラドックス起きたらどうすんだ。

 この時代に流れつくものも大概はガラクタだが。

 

 たとえば前世で見たようなケーブル。この時代のゲーム機と規格が合わないためマジもんのゴミ。

 こんなものを誰が買うのか、と思うが意外にも高値で売れるんだよなあ……商売の世界は分からない。

 木彫りのグレッグルと並んで二大商品である。惜しむらくは仕入に時の運が絡む点か。手に入るのが砂利・石ばかりの日もあり稼ぎは安定しない。

 

「こんにちは。手に取ってみてもいいかしら」

 

「どうぞ。破損した場合は買い取っていただきますのでお気をつけて」

 

 プレートやら古文書を真剣に眺める女性。

 ときおり聞こえる小さな呟きから察するに好事家、あるいは歴史の研究者あたりか。

 立ち振る舞いからしてかなりの実力者。ボールの中からやばい気配がぷんぷんしてやがる。

 うーん。なーんか見覚えあるな?

 いやまさかこんなところにいるわけ、

 

「……その声。人違いなら申し訳ないのですが、もしやシンオウチャンピオンのシロナさんでは」

 

「あら、気づいてなかった?」

 

 ナァンデイルンデスカァ⁈⁉︎

 

「何でいるんですか!?」

 

「きみに会いにきたの」

 

 あらやだ。ストレートな殺し文句。

 なにしでかした俺。心当たりが皆無だぞ。現役時代まで遡ると、うん。ドわすれドわすれ。

 

「急用を思い出したのでこれにて失礼」

 

「ガブリアス」

 

 音速に勝てるわけがない。

 

 荷物をまとめて逃げ出した俺を、強襲&とおせんぼするシンオウの600族。ねえこれ人死ぬよ……?

 

「ちょっと? 逃げることないじゃない。同じ研究室で学んだ仲でしょ」

 

「僕は腰掛けでしたが」

 

 ムスッとしないの。あんた大人でしょ。

 

 たしかに一時期、共同研究はしていた。

 厳しい教授で単位が足りなくてな。でも保たなかった。頭のレベルが違い過ぎる。ゲームの知識があってもまるで話についていけん。

 

 あとは掃除がさ……その、あれで……ね。

 

「自己評価は相変わらずなのね。はいこれ、ナナカマド博士からのお届けもの。ポケモンの進化に関する論文と研究データよ。すぐに必要かと思って」

 

「あ……そうでしたか。わざわざすみません」

 

 いや申し訳ない。早とちりしたのはもちろん、多忙なチャンピオンにお使いをさせてしまうとは。

 でもゲームだとシロナさん結構出歩いていたな。シンオウリーグの四天王を突破する猛者がそうそう現れるとも思えないし、実は暇なのかもしれん。

 

「まだ研究続けてるんだ。論文楽しみにしてるわね」

 

「いえ、半分趣味みたいなものですから。というか二度と書きませんよ。卒論でお腹いっぱいです」

 

「教職を取るだけなのに、考古学の論文も並行して進めるからよ」

 

 誰のせいだと。ほぼ自業自得です。すべてはポロッとすべるこのお口がいかん。

 

「すぐシンオウに帰られるんですか?」

 

「一応バカンスのつもりで休暇を取ってるわ。イッシュで羽を伸ばそうかなって。サザナミタウンって知ってる? あそこの別荘にお邪魔させてもらう予定なの」

 

「イッシュですか……知らない場所ですね……」

 

 あの地方、海水浴するとプルリルに手を引かれるし。

 ロクな思い出がないな。1……2の……ポカン!

 えーと、わしは誰じゃったかの?

 

「でも、せっかくだしパルデア観光もいいわね。出立まで時間があるから……本音を言うと、きみとのポケモン勝負をお願いしたいところだけど」

 

「ご存知ですか? パルデアでは目と目が合っても勝負には発展しないんですよ」

 

「残念。気が変わったらいつでも連絡して。じゃね!」

 

 バチバチの殺気を一当てして、シロナさんは二束三文のガラクタを購入していった。

 

 ここはネモをスケープゴートにするか。

 きっと二人とも喜ぶことだろう。

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