ジム廃業して飛んでパルデア   作:あさいかくり

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 なにやらエントランスが騒がしい。

 

 司書教諭の業務……林間学校が間近ということで、キタカミの里に関連した蔵書をピックアップした特設コーナーを設営していると、生徒のどよめきが耳についた。

 図書館ではお静かにぃ言うとろうが。悪い子のもとには鬼が出るぞ。

 

 モモンの実を模ったお手製ポップの飾り付けに満足したので騒ぎの大元に足を運ぶ。

 

「はぁ〜……さいっこうにたのしかった……」

 

「あたしもよ。やっぱり世界には強いトレーナーがたくさんいるわね。とてもいい刺激になりました。またバトルしてくれると嬉しいわ」

 

「……っ! はい!! もちろん!!! なんだったら今すぐにでも!!!!」

 

「疲れを知らないんか?」

 

「まあネモだからな……」

 

 野次馬が遠巻きに眺める中央。

 テーブル席の一団は見覚えのある顔ばかり。

 疲労困憊で死にそうな顔のペパーとボタン。

 妙に肌がツヤツヤなネモと、隣でケロッとしているアオイ&ハルトの二人組。

 そしてアカデミーの制服を着たシロナさん……制服姿のシロナさん?(二度見)

 

 目をこするといつものコート姿だった。

 かげぶんしんばりの残像を見た気がしたのだが。

 そうか幻覚。疲れてるな俺。

 

「あ、ウズ先生だ。こんにちはー」

 

「こんにちは。シロナさんはアカデミーの見学で?」

 

「ええ。あとはきみの話を少しね」

 

 おい生徒に何を吹き込んだ。

 現役時代のあれこれを語ったんじゃなかろうな。

 

「シンオウの初心者殺し、カッコいいですね!」

 

「ウズ先生は昔からウズ先生なんだなと」

 

「シンオウ地方の人ってみんなニンジャなのかと思ってたけど違うのな。当然だけど」

 

「えー!? 先生ってニンジャなの?」

 

「さすがに冗談でしょ……?」

 

 ほかにも現役時代の黒歴史がエトセトラ。

 ぐぬぬ。やめろ、当時の俺を真似するんじゃあない。

 かさぶたをはがして傷口を抉る所業ですよ。

 

 これが元ジムトレーナーの二人ならこうてつじま送りにしているところだ。どくタイプつかいのトレーナーは涙目で謝り慈悲を乞うレベルの刑罰である。

 マグニチュードとじばくでトレーナーはしぬ。

 だが、ハガネールから生き延びて初めてコトブキのジムトレーナーを名乗れるのだ。

 

 なおコトブキジムではいつもの日常であった。

 なんで生きてんだろうなあいつら。

 

 そもジムトレーナーを雇うつもりはなかったので。

 だからって俺の真似をするんじゃないよ。こっちだって好きでやってるわけじゃないからな。

 救助に行ったら普通に住み着いてたし、ミオジムのおっちゃんたちと打ち解けてるしさあ……。

 実にふてぶてしい野郎どもである。だから俺のキャラが薄いとか言われるんだよ。

 

「そろそろ集合時間だよ。アオイ」

 

「あ、本当だ。それじゃまたね」

 

 時計を確認したアオイとハルトは席を立ち、各々が思い思いの言葉を返す。え、何。どこ行くの。

 

「林間学校。今日出発だってさ」

 

「初耳ですが」

 

 引率は?

 

 どうりで今朝は見知らぬ女性がエントランスに立っているわけだよ。あの美人、他校の先生か。

 そういや会議のレジュメ、はしっこに小さい文字でちょこっと書かれていたような。まじか、アカデミーの教員はお呼びでないと。

 

 キタカミグルメ……タダ旅行……。

 

「先生大丈夫? 勝負する?」

 

「お気遣いはありがとうございます。嫌です」

 

「お腹を空かせているのかしら。はいどうぞ」

 

「オレの弁当もやるからさ、元気だせよ先生」

 

「いただきます……」

 

 ヨウカンうめ……サンドウィッチうめ……。

 

 しょぼくれた俺の腰でボールが揺れる。

 手持ちたち、慰めてくれるのか……?

 いや違うな。注意喚起だ。この揺れ方、来る!

 

「キタカミの里に向かうのか。ワタシも同行しよう」

 

「ええと、レホール先生は授業がありますよねえ?」

 

「自習用のテキストは用意した。休暇も申請している。……待て。ジニア先生、なぜ逃げる」

 

「あ! ウズ先生! ちょうどいいところに!」

 

 ええい、こっちに厄災を連れてくるな。

 助けを求める顔をするのはよしなさい。いくらジニア先生でもやっていいことと悪いことがありますよ。

 くっそ、シロナさんと生徒で動線が遮られている。

 

「すみませんレホール先生。実はですねえ、ぼくはウズ先生に同行を頼んだんですよお」

 

「二人が三人に増えても問題あるまい」

 

 テコでも動かないつもりだなレホール先生。

 仕方ない、ここは説得しないと逃げられん。

 どうにか彼女をなだめる方向に話を持っていこう。

 

「少しよろしいですか? キタカミの里は、言ってしまえば、変哲のない田舎です。語られる民間伝承も、起源はそれほど古いものではありません。レホール先生が興味を惹かれる理由が僕には分からないのですが」

 

「フッ。愚問だな」

 

 レホール先生は図書館の一角を指差す。

 俺が設置したキタカミの里コーナーではないか。

 関連図書をピックアップしただけだが?

 

「目を疑ったよ。キタカミの里には大昔に姿を消したポケモンが住んでいるそうじゃないか。ひょっとすると……すべて貴様の思惑通りか? ウズ先生」

 

「なんのことでしょう。ああ、バスラオの話ですか? 本の記述では珍しい個体が生息しているようですね」

 

 しろすじのすがたのバスラオな。

 ヒスイの時代から移り住んで定着したのだろうか。

 俺だってフィールドワークしたい気持ちはあるのよ。

 

「まあいい。今回は退こう。ときに、考古学者のシロナとお見受けする。会えて光栄だ。ぜひ学術的な議論を交わしたい。この後の時間は空いているか?」

 

「ええもちろん。大歓迎よ」

 

「では早速、シンオウの神話について……」

 

 よかった。諦めてくれたようでヨシ。

 油断も隙もないのよな、レホール先生ってば。

 一度アオイに化けたゾロアークを夜の校庭に寄越してきやがった時は流石に肝が冷えた。

 ヒスイのポケモンについてはバレてないよね?

 

「それでは行きましょうかあ、ウズ先生」

 

「はい?」

 


 

シロナ

シンオウ地方のチャンピオン。著名な考古学者。

ウズのことは友人と思って接しているが、当人からはなぜ親しげなのかいまいち理解されていない。

この後めちゃくちゃ神話と歴史を語った。

 

ガブリアス ♀

シロナのポケモン。切り札にしてエース。

ウズとその手持ちに敬意を払っており、油断せず、容赦なく、最初から全力で殺しにかかる(比喩)。

 

レホール先生

アカデミーの教師。油断も隙もない大人。

残念ながら休暇の申請は通らなかった。

シロナの知見とウズの言動を照らし合わせている。

あれれー? おっかしいぞー?

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