ジム廃業して飛んでパルデア   作:あさいかくり

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 おいでよ、キタカミの里。

 

 飛行機と並走するカイリューや機内販売をジニア先生と楽しみつつ、やってきたのはスイリョクタウン。

 

 雑木林、小川、虫ポケモン、民家のブロック塀。

 どこか郷愁を覚える光景だ。

 やはり緑に囲まれていると心が落ち着く。

 あの辺の草は食べられるし、水場がある。悪くない。

 

「ではでは、さっそくフィールドワークですねえ」

 

 公民館に荷物を置いてまもなく、ジニア先生はうきうきした足取りで出かけて行った。

 あなた、生徒の見守りはいいんですか?

 

 まあ実際ほぼプライベートなのでなんとも言えん。

 あっちはブライア先生と管理人さんがいるからね。

 パルデア地方だと見かけないポケモンにテンションが上がる気持ちはよーくわかる。かくいう俺もヘイガニとかヤンヤンマの姿に子供心が抑えきれていない。

 

「凧糸とヤドンのしっぽで釣れるでしょうか」

 

 地元の子供たちを真似して川辺に。

 彼らからは不審者を見る目で様子を窺われているが、そんなものは知ったことかよ。

 俺はヘイガニ釣りをやるんだ……!

 

「あのおじさん、よそもの……?」

 

「よそものだ」

 

「大人のくせに昼間から遊んでら」

 

 そこで見ていろ子供たち。218番道路のコイキングと呼ばれた俺の業前を披露してやる。

 エサを凧糸にくくりつけてと。そうれ。

 

『ヘイ?』

 

 ちょうど水面から顔を出すターゲット。

 ぶらさがるヤドンのしっぽを前にしたやつは、

 

『ヘッ』

 

 プツリ、と凧糸をちょん切った。

 

「なっ……!?」

 

 エサだけ掠めとるとはクレバーなヘイガニめ。

 くそう。ジョウト産の上物なのに。

 

「逃げられてやんの」

 

「だっせー」

 

「君たち。人を笑うのはよろしくありませんよ」

 

「よそものが怒ったぞ! にげろー!」

 

「わー!」

 

「怒ってはいないのですが」

 

 一目散に駆け出す子供たち。

 あの年頃なら小言ひとつで騒ぎ立てるか。

 まあいいさ。こちとら休暇中のようなものだ。

 

 それよりリベンジだ。次は釣竿を使うとしよう。

 ポケモン用の釣り糸は尋常ではない程の強度を持つ。ギャラドスやホエルオーの重量に耐えるくらいだ。

 真に恐ろしいのはその竿を引けるトレーナーの腕力じゃないかと俺は思うわけだが。やばいな釣り人。

 

 

 

 

 

 水面に向かって釣り竿を振る。

 

「釣れませんね……」

 

 しばらく試すが獲物はヒットしない。

 さっきの騒ぎでポケモンが警戒したのだろうか。

 

 その代わりというか、集まってきた原種ウパーに囲まれている。君たち人慣れしてるね。暇なの?

 こいつら、かわいい顔してメインウェポンにじしんを覚えているんだよなあ。刺激しないようにせねば。

 

「オーッホッホッホ!」

 

 突然の爆音波。驚いて慌てるウパー。

 おい誰だこんなところで大声を出すやつは。

 野生ポケモンを刺激したくないって言ってるでしょ。

 

 声の主はあぜ道に立つ男女二人組だ。

 さびれた田園風景にはまるでそぐわない、ギンギラギンの金ピカ衣装にサングラスをかけている。

 

「ねえビリオ。あんなところに庶民がいるザマス」

 

「本当だね! あれは間違いなく庶民だ!」

 

 ケンカ売ってんのか?

 

「どうしましょう! あたくし、生の庶民と目を合わせてしまったザマス!」

 

「ネアちゃん落ち着いて! あの庶民は様子を窺っているだけさ! 見てごらん、じっと動かないだろう?」

 

 聞いている限り悪意はゼロ。また珍妙な。

 あの笑い方、どこぞの教え子と同じ臭いがする。彼女はメッキで彼らは純金のようであるが。

 関わり合いになると面倒そうなのでスルー。

 

 それにしても釣れないな。エサが悪いのか?

 

「きっとネアちゃんから溢れるオーラに目を惹かれたのさ! さすがは不動産会社パルデアエステートの社長! 庶民ですら放っておかないセレブリティだね!」

 

「オーッホッホッホ! オーッホッホッホ! そうゆうことならよござんしょ!」

 

 手持ちのよせだまのもと、そして適当に落ちているきのみや水草を組み合わせてクラフトしてみる。

 この辺りに生息するポケモンの好みに合わせて調整すれば、きっと良いエサになるだろう。

 

「ときにビリオ。あの庶民は一体何を?」

 

「あれは料理だね! 庶民は自分の食事を自分で用意するのさ! 食材の準備から調理までね!」

 

「まあ! 庶民はあの草やきのみも料理して食べてしまうということ……!? これが庶民の知恵……自然と共に生きるたくましいライフスタイル! あたくしたちセレブには到底思いもよらない考え方ザマス!」

 

「ひゅー! どんな物事からも学びを得る! さすがネアちゃん、社長の鑑だね!」

 

 さて味見を……雑味が残るな。

 組み合わせが悪いか? なら皮と繊維をできるだけ取り除いてから、こっちのきのみを入れて、と。

 

「で、でもビリオ? 人間があんな風にきのみの切れ端ばかりを食べるかしら?」

 

「……いや、違う。あれは」

 

 どうしたウパーたち。群がってきて。

 なに? このエサが気になるのか。

 じゃあ試食していいから感想を聞かせてくれ。

 

「で、でたー!! ネアちゃん! あの庶民は自分の食事を作っていたんじゃない! ポケモンたちのために食事を用意していたんだ!」

 

「な、なんですって!? ポケモンたちを優先して、自分の分は後回しにしていたザマスか!? 自分だけが満足することをよしとせず、周囲に分け与えるその姿勢……すなわちセレブ! ビリオ! あの庶民、セレブのオーラを秘めているザマス!」

 

「さすがネアちゃん! まさか庶民の中からセレブを見抜くなんて! これはすごい発見だよ!」

 

 超まずい? 嘘だろマジかよ。

 みずタイプの嗜好とかけ離れているのだろうか。

 それとも素材とよせだまのもとの相性か。

 

 悪かったよ。しょんぼりするなって。

 あーはいはい。水遊びね。わかったわかった。

 

 ……いや待て。だくりゅうはきつい。

 あと貴様はさっきのヘイガニぃ!? ハサミをギロチンの如く振りかざすんじゃねえ!

 

「庶民はポケモンと決闘もできるんザマスか! 庶民……なんて恐ろしい生き物……!」

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