ジム廃業して飛んでパルデア 作:あさいかくり
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この場をお借りしてみなさまに御礼申し上げます
ポケモンのちからってすげー!
技術室、ここが俺の城にして戦場だ。
俺は教壇に立って生徒を見下ろす。と言っても初回の受講者は二人と少ない。一人はネモなので、授業内容に興味を惹かれた生徒は実質一人ということになる。
「授業の前に簡単な自己紹介を。僕はウズ。技術を専門に教えるのは初めてですから、皆さんと一緒に試行錯誤していきたいと考えています。よろしくお願いします」
二人からは拍手。素直で反応があるとこちらとしてもやりやすい。
「この時間では、主に冒険で役立つ知識について、皆さんに頭と手を使って学んでもらいます。もし次もこの授業を受けるのであれば、汚れても構わない服装で参加することをおすすめします」
これは学校に提出した授業計画書にも記した内容だが、この手の注意事項は繰り返し口にして聞かせた方がいいと相場が決まっている。文章だと流し読みする人間や目を通さない人間が必ずいるからな。……その手のタイプは今回の授業を登録すらしてないだろうけど。
「アカデミーには、宝探しと呼ばれる課外授業があると聞きました。そんな旅の道中で活用できる『ものづくり』の技術……クラフトの初歩を今日は体験してみましょう」
ということで、どん。
ポケットから出したものを掲げてみせる。
「皆さんには、
「先生!」
「何ですか、ネモさん」
「わたしの知ってるモンスターボールと違います!」
「よく気づきましたね。そう、これは世間一般に流通している市販のボールではありません。これはぼんぐりというきのみを使い、僕が作ったモンスターボールです」
ぼんぐりボール。前世ではガンテツボールやオシャボと呼ばれて、それはもう希少価値を誇ったものだ。ちなみに俺の手にあるのは普通の赤いモンスターボールだ。生徒が見比べられるよう、市販のボールと並べて分かりやすい位置に置いておく。
「フレンドリィショップもない時代から、人は手作業でぼんぐりをボールに加工して使っていました。ジョウト地方では今でもガンテツという方がぼんぐりボールを製作されています。時間の都合で詳しい説明は省きますが、興味があれば調べてみてください」
おっと? ガンテツの名前を出した途端、もう一人の生徒が反応したな。俺とほぼ同時期にこのアカデミーに入学した男子生徒。名前は……たしか名簿に記載が。
「ハルトさんはご存知のようですね」
「えっ、はい。それで……今日作るボールはどの種類ですか? もし選べるならムーンボールかヘビーボールがいいなと思っていて」
「ああ、その手の特殊なボール製作は人間国宝レベルの技量が求められるので、とても授業では取り扱えませんね。ご期待に添えず申し訳ないですが」
「あ、そうですか……」
「ガンテツさんとは面識がありますから機会があればご紹介しますよ。大変気難しい方なので、ボールを作ってくださるかはハルトさん次第になってしまいますけどね」
「っ! ありがとうございます!」
なるほど。授業計画書を見てガンテツボールが作れると勘違いしたのか。後で訂正を加えておかないとだな。
「気を取り直して、早速ボール作りを始めましょう。必要な材料とクラフトキットを配ります。危ないので工具は人に向けないように」
「ウズ先生。ぼんぐりはわかりますけど、この石はなんですか?」
「たまいしといいます。ぼんぐりを補強するための素材ですね。わりとどこにでも落ちているので、見つけたら拾っておくといいですよ」
この授業のために調査をしたところ、たまいしはパルデア地方の全域で産出されることが判明した。用途が限られるので研究者やボール製作会社以外は存在を知らない人が多いようである。ぼんぐりについても同様、こちらはまだ一般認知度が高めだったがな。
「手順は黒板にまとめてあります。分からない箇所があれば質問してください」
俺は教壇で待つ。歩いて回ると、二人の間を往復する羽目になって邪魔になるからだ。慣れない道具を使っている隣でうろちょろされたら集中力が削がれるだろうよ。
まあ、ぼんぐりの加工は簡単だ。適当な厚みを残して中身をくり抜いたらいい。ハルトは手先が器用なようで順調に作業を進めている。ネモは少し苦戦しているか? だが問題はなさそうだ。
その後も二人は作業に取り組み、見事、授業時間内に自分のボールを完成させた。こちらの想定より十分も早い。見てくれは不恰好だが、初めてにしては上出来だ。
「はい、確認しました。どちらも問題はありませんね」
「ふう……バトルより疲れたかも。ハルトは?」
「え、結構楽しかったよ」
「それは何より。宝探し中にボールが無くなってしまったら、今日のことを思い出していただけると幸いです。慣れると五分もかからず作れますし、自分の手の大きさや投げ方の癖に合わせて形を調整できますからね」
材料も全て現地調達できるからな。
「ああ、そうでした。最後に大事なことをひとつ。自分で作ったモンスターボールはポケモンの捕獲こそ可能ですが、市販のボールと異なり、ある機能が備わっていません。それが何だか分かりますか?」
「……ポケモンの保護機能?」
マジか。これを答えられるとは思わなかった。どうやらハルトはボールについての知識が豊富らしい。
「ご名答です。市販のボールは、ポケモンが野生かそうでないかを判別する装置が組み込まれています。これのおかげで、トレーナーがいるポケモンにボールを投げても捕まえられません。しかし自作のボールにはそんなもの付いていませんから、捕獲したポケモンでもシステム上は野生扱いになってしまう」
つまり自作ボールは横から他人にポケモンを奪われる可能性が非常に高いというわけだ。たとえ信頼関係を築いていようと、保護機能が働いていないポケモンは『誰のものでもない』ことになる。
「ですから、自作のボールで野生ポケモンを捕獲した場合、街に戻ったら改めて市販のボールに入れてあげるのがよろしい。人のものを盗ったら泥棒……とはいえ、避けられるトラブルは自分で避けていきましょう」
言い切ると同時にチャイムが鳴った。時間配分は念入りにしたつもりだったが……ギリギリだな。ネモとハルトの作業が早めに終わらなかったら足が出ていた。少し早口で駆け足気味にしてこれだと先が思いやられる。
「今日の授業はここまで。作ったボールは持ち帰って構いません。繰り返しますが、取り扱いにはお気をつけて」
まあよし。どうせあまり人気は出ないだろうし、これくらいの少人数でゆるめにやっていこう。
授業の登録者数が急増したらしい。やめて。