ジム廃業して飛んでパルデア 作:あさいかくり
ワッショーイ! そーれ祭りだ祭りだ!
地域で一番盛り上がるのはこの祭りinキタカミ!
私はですね、キタカミの里はスイリョクタウンの北東に位置するキタカミセンターに来ております。
三角の鳥居と阿吽のヒスイガーディ像を通り過ぎて、長い階段を登った先は砂利道の境内。
ゆらゆら揺れる提灯、こわいお兄さんがやっているテキ屋の屋台を冷やかすことができまする。
では通りすがりの現地の方、コメントを。
「えっ!? お、おれ……? えっと、ごめんなさい。友達さ待たせてっから……」
少年は緑のお面をかぶって足早に立ち去る。
ありがとう。君のおかげで少し冷静になれた。
いい大人が祭りの空気にはしゃいでどうするよ。
うちの生徒の目もあるんだ、落ち着いて見守りをするくらいの心持ちでいなければ。
「こんばんは。ウズ先生、だったかな」
「おやそちらは……ブライア先生」
たしか林間学校の引率役でブルーベリー学園の教務主任だったか。公民館で挨拶したっきりだな。
「お祭りを満喫しているかい?」
「それなりに楽しませていただいていますよ」
「ふふっ、それなりか。りんご飴を両手でほおばる人のセリフとして聞くと面白いね」
彼女は笑うが、まさかさっきまで口と両手で三本ずつ持っていたとは思うまいて。手持ちポケモンの分なんだから勘違いしないでよねっ。
「オモテ祭りではお面をかぶるのが慣わしだそうだよ。仮面をつけると人は違う自分になったかのような錯覚を覚える。それがある種の非日常感と結びついているのかもしれない。……残念ながら私は買えていないけれど」
「店番の方が席を外していましたね」
俺は自前の仮面を持っている。ただこの場で使うわけにはいかないし、祭りで買うお面とは別物だよね。
「まあ構わないさ。夜は長い。これも何かの縁だ。待つ間、おしゃべりに付き合ってはくれないかな?」
フランクに接してくれるところを悪いのだが、ブライア先生との会話はどうも背筋がひりついてやまない。
なんだろうな、この探りを入れてくる感じ……レホール先生と似た系統の……どこか油断ならない。
「申し訳ありません。目当ての出し物がありまして」
俺は境内の奥にある屋台を指差す。
誰が呼んだか、鬼退治フェスという。
ポケモンにライドして野外を駆け回り、バラバラに配置された風船の中にあるきのみを集めるゲームだ。
鬼要素どこよ? と思うけども。
景品でキタカミ名産のもちがもらえると聞いた。
これはやるしかあるまいよ。
「では失礼」
にげあしにげごしききかいひ。
三十六計すたこらさっさー。
「……ふられてしまったか。エリアゼロの話を聞ければと思ったのだが、少し甘く見過ぎたかな?」
ライドポケモンに跨り風船を割る。
ルールや些細は異なれど、似通った競技は大昔から存在していた。それこそヒスイの時代から。
風船割りを極めることでご先祖様は村の一員として認められたそうな。実に眉唾ものである。
そんなご先祖様の教えにはこうある。
『陸、海、空。即ち三位一体の極意なり』。
これくらいできないと話にならないよ、ライドポケモンを鍛えましょうねというありがたーい訓示なのだ。
しかし俺のモトトカゲは陸専用。
お世辞にもオフロード性能が高いとは言えない。
サンドウィッチ大好きオギャアス、もといミライドン・コライドンなら話は違うのだが。
今から進化してあんな感じにならない?
ひでんマシンが手元にあればな。ロッククライムとなみのり、あとそらをとぶを教えたいところ。
一度鍛えてみるか。ドラゴンだしやれるやれる。
気長なモトトカゲ改造プランは置いといて。
鬼退治フェスはライドポケモンが必須である。自前のポケモンがいなければ受付でオドシシを借りられる。
「どう? これがオニバルーン割り王の実力……」
前方に他の参加者を発見。
加速した勢いで少女を飛び越える。
「えっ、何?」
おっと、袋からきのみがこぼれているぞ。
もったいない。投擲で返してあげよう。
「何なの!?」
ついでに少女の進路上にあった風船を叩き割る。
卑怯と思うな、早い者勝ちだ。
「何だってのよー!!」
罰金100万円な!
「ていうか何あいつ? 速すぎて白い残像しか見えなかったけど!?」
普通のオドシシとは違うのだよ、オドシシとは。
こいつは通常の三倍の速度で駆け抜けるのだ。
しかし変装の必要はなかったな……装束を持ち出すのはやり過ぎた。気づかれる前に着替えよう。