ジム廃業して飛んでパルデア 作:あさいかくり
日が傾き、足元の影が歪に伸びる。
どこまでもついて回るもう一人の自分。
俯いたら目に入る陰り。それから逃げるように視線を彷徨わせて、スグリは思わず顔をしかめた。
きっかけは些細なことだ。
林間学校で知り合った友達と姉の話が聞こえてしまい、自分が仲間はずれにされていることを知った。
盗み聞きするつもりはなかった。
だが、彼らが話している内容を耳にして、最初に芽生えたのは疑問だった。
鬼と会った?
どうして話してくれない? スグリがどれだけ鬼を好きか、会ってみたいと思っているか知っているのに。
どうして自分をのけものにする?
友達だと言っていたのに。一人だけ仲間はずれにして、三人で楽しいことをひた隠しにして。
友達なんて言葉に舞い上がっていたのは自分だけで、本当は、何も知らない滑稽な自分を嘲笑っていたのか。
「嘘つき……嘘つき!」
ひどい。悲しい。許せない。
なぜこのような不条理が罷り通る。
無知だからか。田舎者だからか。
それとも……弱いからか。
強ければ鬼に会えたのか。
強ければ仲間に入れてくれたのか。
強ければ友達でいられたのか。
強ければ、何をしても許されるのか?
嘘を吐いても、人を傷つけても、弱い人間は黙ってされるがままに身を縮めていなければならないのか。
ゼイユは強い。
トレーナーとしての実力は相当なもの。勝負においてスグリが彼女に勝ち越したことはない。
姉という立場もスグリにとって大きな意味を持つ。
たった数年の生まれの差は、しかし同年代の子供がいない環境で育った彼にとって絶対的な格差であり。
物怖じせず自信に満ち溢れたゼイユの後ろに隠れて、ついて回るばかりだった。逆らっても機嫌を損ねるだけ。口論やポケモン勝負で勝てるはずもなく、姉のお節介で今までやってこれたのも事実……。
だからこそ、新しい友人に憧れた。
明るくて優しい素敵な二人組。
都会暮らしの洗練された仕草。
姉をやすやすと打ち負かす勝負の腕。
当然のように従える見たことのないポケモン。
すべてがキラキラと輝いていた。
まるで『物語の主人公』のように。
どうしたら、二人のようになれるのか。
強くなるにはどうすればいいか。
そんな質問をしたことがある。
『私は強くなんかないよ』
勝負の後でポケモンを労わりながら、鬼のように強い彼女は苦笑した。
『私は子供で、一人でやれることには限界があって。本当に強い人、すごい人ってたくさんいるし』
『たぶん、私も、大人になれば今よりできることが増えると思う。だけど……大人だからって何でもできるわけじゃない。できないこと、間違えることはある』
『私は強くない。誰しも完璧じゃない。でも、私はみんなに助けられて、今日を生きてる。私が強く見えるなら……それはきっと、みんなのおかげなんだと思う』
――謙遜するなよ。勝っておいて。
『強くあろうとはしてるかな』
笑顔を絶やさない少年は、バカ話のやり取りから一転、真面目な表情で答えた。
『これは勝負の勝ち負けに限らずさ』
『苦しいとき、逃げ出したいとき、目の前に立ち塞がる最大の敵って自分じゃない?』
『頑張りたいときは、全部を受け入れた上で、虚勢でいいから笑うんだ。そうしたら不思議と力が湧いてくる。それから一歩前に踏み出せばいい』
――いいよな。それで上手くいくんだから。
結局のところ、強いやつの理屈だ。
アオイとハルトが強いのは事実だし。
気持ちひとつで弱者が強くなったりはしない。
才能と運と環境と、何もかもが異なるから。
同じだけの努力をして、知恵を絞って。
それでも弱いやつはどうしろっていうんだ?
負けたくなかった。
強くなりたかった。
鬼と仲良くなりたかった。
「ずるい……ずるいずるいずるい! なんであいつらばっかり! 強くて、友達がいて、ヒーローみたいで! おれだって、特別な……そんな」
――主人公に、なりたかった。
「…………」
その様子を、じっと眺めるものがいた。
視線を感じてスグリは顔を上げる。
村に続く道の先。
夕闇に、見慣れない人影が立っていた。
(……誰だ?)
ゆっくりとした足取りで影は歩み寄る。
(村の大人じゃねえべな。あんまよく見えねえけど仮面つけてる? 鬼面衆でもない。鬼さまの仮面とは違う。丸っこくて、ピンク色で……桃?)
ゆらゆらと不気味に揺れながら、影は明らかにスグリのもとを目指している。
(そういや、変な噂があったよな)
スイリョクタウンで囁かれる仮面の影の存在。
同時に、脳裏に浮かぶのは先ほど目にしたばかりの看板の文章。キタカミの里に残る伝承の一説。
『黄昏時、村の外で向こうから
歩いてくる影があったなら気をつけよ』
『すぐさまお面をかぶって
みずからの顔を隠しなされ
さすれば影が人であれ、鬼であれ
お面同士、会釈して通り過ぎるのみ』
(い、いや。ただのおとぎ話だ。鬼さまはそんなことしねえ。こんなの嘘っぱちだ)
だが、スグリは目を離すことができなかった。
足が震えて動かない。明らかに人の形をしているのに、頭から突き出た一本角が恐ろしい。
いっそ、そのまま通り過ぎてくれ。
そんな祈りは届かず、影は距離を詰めてくる。
スグリの視線に気づいた影は……静かに一礼した。
(会釈返したらいいのか? でも)
『もし、お面を持たざるときあれば
影が人であることを願いなされ』
『その影、人であればよし
二度とお面忘れるべからず』
(お面、持ってない。こんなことならじんべえから着替えるんじゃなかった! 看板の続き、なんだっけ? えっと、たしか)
『その影が鬼であれば最期
真の面を覗き込まれたなら』
俯いた顔。視線が合うはずはないのに。
『その者、魂を抜きとられ
二度と村へは帰れぬだろう』
妖しい眼光に、間近で覗き込まれていた。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
スグリは逃げ出した。
ただ恐怖に突き動かされて走り出す。どこに向かうのかなど考えていない。ただ目の前のナニカから離れることができればそれでよかった。
「…………」
「ひいっ!?」
だが、逃げ出した先にソレはいた。
回り込まれたのだと考える余裕はない。
ただただ恐ろしくて、スグリは咄嗟にモンスターボールを投げつけた。
飛び出たオオタチは片手で押さえつけられて、もう片方の手でボールを奪われる。そのまま宥められたオオタチは無抵抗でボールに戻っていく。
「こ、こっち来るなバケモノ!」
「…………」
腰を抜かしたスグリに対して、仮面の影は何をするでもなく、懐からキズぐすりを取り出した。
地面に置いたキズぐすりとスグリの位置から遠ざかる。まるで危険がないことを示すように。
仮面の影はスグリと自らの膝を指差す。
「……使えって?」
腰を抜かしたときに擦りむいたのだろう。
膝からは血がにじんでいた。
仮面の影は、よくよく見ればただの人間で。
薬をくれる親切な人をバケモノ呼ばわりしたのだと、スグリが気づいたときにはもう遅い。
「ご、ごめんなさ……おれ、そんなつもりじゃ……」
これではまるで昔話と同じ。
鬼を恐れて、仲間はずれにした村人と。
今のスグリはなんら変わらないではないか。
「…………」
「気にしない、って……でも」
仮面の男は無言のまま頷いた。
なぜか巨大なモモンの実をくり抜いた仮面をかぶっていることといい、明らかに人間離れした足の速さといい、おかしな相手だが悪い人間ではないようだった。
「…………!」
「その代わりにバトル? えっと……うん、わかった。そういうことなら……お手柔らかに」
男につられてボールを構える。
正直なところ気乗りはしない。先程、看板前でアオイと戦ってぼろぼろに負けたばかりだから。
だが胸に燻る感情と、男から伝わる気迫が、首を横に振ることを許さなかった。
男のポケモンは相当鍛え上げられている。
それでもスグリは食い下がることができていた。
「止まるなヤンヤンマ!」
高速で移動するクロバット。分身による撹乱は厄介だが、スピード勝負ならヤンヤンマも負けていない。牽制を入れつつ、かそくで徐々に差を縮めていく。
「そこだ! エアスラッシュ!」
「…………」
空気の刃が同時に放たれ、相殺。
衝突に紛れてクロバットが背後を取る。攻撃後の隙を狙ったヘドロばくだん、ヤンヤンマが毒に侵された。
「ああっ!?」
動きが鈍ったヤンヤンマは無数の影分身に包囲されてしまう。全方位からのエアスラッシュは、どれが本物か見分けるのが至難の業だ。
一瞬の迷いが命取りになる。
即座に見極めて指示を出せば回避できたタイミングで、分身よりわずかに遅れた本命の攻撃。むしタイプにひこうタイプのわざは効果抜群だ。
(アオイなら避けてた。どうしておれはできない? ……いや、何考えてんだ。無理に決まってるのに)
本当にどうしようもない。
格の違いを散々思い知らされて、それでもまだ、憧れることをやめられない。
諦めの悪さじゃない。自分に無い輝きが羨ましくて、みっともなくもがいているだけ。
(ヤンヤンマはだめだ。次のポケモンを)
交換のために取り出したボールが揺れる。
スグリに何かを訴えるように。
砂煙の向こうから羽音が聞こえる。
ヤンヤンマ、否、もっと力強い高速の振動だ。
盾代わりの岩塊から姿を見せるはメガヤンマ。げんしのちからで身を守り、土壇場で進化を果たした。
「わやじゃ……だけど」
満身創痍のメガヤンマに勝機はない。
そんなスグリの思考を振り払うように、メガヤンマは全力で風を切る。
ひんしに追い込まれるだけのエアスラッシュを受けて、なお倒れず、秘められた原始の力を呼び起こす。
相打ち覚悟の特攻をしたメガヤンマが力尽きる。
倒れる直前、スグリに頷いてみせて。
(なんで?)
クロバットはまだ倒れていない。
メガヤンマの無茶は意味がなかった。
別に、進退を賭けた一戦ではないのに。
「…………」
今の出来事とスグリの表情に何を思ったか。
男は傷ついたクロバットをボールに戻す。まだ戦えるのに、ハンドサインで戦闘不能を示して。
余力を残した状態のリタイア。別にどうということはないが、少し不愉快な気分になる。理由は分からない。
「いけ、ニョロボン」
「…………」
男の二番手はドククラゲ。
触手を伸ばしてニョロボンを拘束しようとする。
「触っちゃだめだ。ハイドロポンプで弾け!」
蠢く触手が張り巡らされる中をニョロボンは掻い潜る。どうしても避けられない場面は高圧の水流で網の目を広げて、無理やりに押し通る。
「近づいて。もっと……もう少し……」
ドククラゲに近づくほど触手の密度は上がる。
しかし、それはまとめて薙ぎ払うチャンスでもある。
「そこ! ハイドロポンプから、かわらわりっ!」
触手を根本ごと水流で押し流し、ニョロボンは隙だらけの本体目掛けて手刀を叩き込む。
急所に当たった、そう錯覚する一撃。
しかしドククラゲは身体を流動状にしてとけることでぼうぎょを高め、打点を急所から逸らした。
「…………」
赤い水晶体が明滅する。あやしいひかりを直視したニョロボンは混乱してしまい、足が止まる。
すぐさまドククラゲはニョロボンの手足にまきついて、おまけに猛毒を浴びせかけた。
(まきつくに、どくどく! しかも関節を決められてる。あれじゃ抜け出せない)
じわじわとニョロボンの体力が削られる。
ときおり抵抗するが、混乱しているからか、ドククラゲではなく自分を攻撃してしまうようだ。
(ハルトだったら、こんなとき思いもよらねえ作戦で乗り切るのかな。おれにあいつの半分でも想像力があれば……はは、ないものねだりしてばっかだ)
できないものはできない。
そうやって納得できたらどれだけ楽だったか。
だが、ニョロボンはまだ立っている。
スグリの指示を待っている。
トレーナーなら、やるべきことがあるはずだ。
「ニョロボン! 足元にだいちのちから!」
「……ッ」
初めて仮面の男に動揺が走る。
メガヤンマと同じ自爆覚悟の攻撃。だが、スグリがそんな指示を出すとは考えていなかっただろう。
ニョロボン諸共、ドククラゲにダメージが入る。不意をついた効果抜群の直撃だ。それでも、とくぼうが高いドククラゲを倒すまでには至らない。
それでいい。拘束は緩んだ。
「今だ! 決めろ!」
両手のかわらわりがドククラゲを沈める。
一度、興奮を鎮めるために深呼吸。
肩で息をするニョロボンにガッツポーズを送れば、力強いサムズアップが返ってくる。
勝った。今度は紛れもない実力だ。
メガヤンマのボールを撫でる。心の中でありがとうを呟いた。はっきりと言葉にはできないが、彼らのおかげで、スグリは何かを掴めそうな気がしている。
「……」
男は三本指を立てる。
次のポケモンで最後だと、意思をあらわに。
男は最後にロズレイドを繰り出した。
ニョロボンはもうどく状態で長くは保たない。
故に、スグリが選んだ戦術は速攻である。
「走りながらハイドロポンプ!」
「…………」
ロズレイドは舞うように攻撃を避ける。
はなびらのまい。花弁の嵐が壁となり、ニョロボンを一歩も近づけさせない。ロズレイドは時間を稼ぐだけで勝利できる。接近されるリスクを取ることはない。
(考えろ。勝つためには何をすればいい? 引き出しはあるはずだ。ブルーベリー学園で学んだこと、アオイと、ハルトと、ねーちゃんがやってたこと。そんで……この人がやってたこと!)
戦況の把握、ポケモンの状態、フィールド、わざの使い方、タイプ相性。それらに縛られない発想力。
「ニョロボン、くろいきり」
視界を奪う。そして背後からの強襲!
(明らかに特殊わざを使うポケモン。距離を取るスタイルなら、接近戦は不慣れなはず……え?)
霧が晴れた後、立っていたのはロズレイド。
ニョロボンの受けた切り傷を見て、スグリは自分が判断を誤ったことを遅まきながら悟る。
(物理わざも使うのか……! 何やってんだおれ。決めつけたらだめだろ。多分いあいぎりか? 目眩しが効いてなかった。霧の中でも見えてる?)
スグリは知る由もない。
煙幕からの不意打ちは男の十八番だと。
ポケモンたちにも、視界が効かない状況に対応する訓練を施しているということを。
「……けっぱれ! カミッチュ!」
三体目を出すと、なぜか男は喉を鳴らす。
すぐさまロズレイドの茨で我に返っていたが。
そうして男の雰囲気が一変する。
「…………!」
直後、カミッチュが吹き飛ぶ。
「え?」
攻撃を受けたことは理解した。
一瞬たりとも目は逸らしていない。
それでも、何が起きたのか分からない。
(……だめだ。考えろ、まだバトル中)
停止した思考を無理やり働かせる。
両手のバラを突き出した体勢のロズレイド。
カミッチュの体表に張った霜と、漂う冷気。
(こおりのつぶて、は違う。覚えるわけない。ウェザーボール? ばか、晴れてるだろ)
スグリは正解に辿りつけない。
ロズレイドが披露した技を、わざだけによるものと勘違いしたら、百点満点は得られない。
ポケモンの秘めた力を目覚めさせ、個体ごとに異なるタイプの攻撃を繰り出すわざと。
目にも止まらぬ速度で行動する、古より受け継がれた戦闘技術の合わせ技なのだから。
まるで先程の焼き直し。
何度も目にした光景だ。力量差を前にして、なす術なくポケモンが倒れるのを眺めていた。
栄光の影には夢の欠片が散らばっている。
誰かの思いは、より強い思いに砕かれる。
粉々になった破片を踏み躙って、勝者は高らかに叫び、勝利の味に酔っている。
一度だけ、なんて言えない。
積み重ねた努力は報われてほしい。
手を伸ばした願いは掴み取りたい。
どんな時も、スグリはそこに立っていたい。
――どんな手を使っても? 何を犠牲にしても?
(それは……そうだろ? 勝てるなら)
余裕のつもりだろうか。
ロズレイドは待ちの姿勢を崩さない。
「まだやれるよな? 立ってくれカミッチュ!」
カミッチュは声援を受けて力を取り戻す。
トレーナーとポケモンの思いは共に、しかしてポケモンが抱くは勝利の念に止まらず。
スグリが、もう敗北に思い詰めないように。
「細かく牽制、そんで力を溜めろ! そう……まだ、もっと……今だ! りゅうのはど……」
「あっ、こら!?」
わざを撃つ瞬間、男が慌てふためいた。
男の元にはスグリのオオタチ。
ボールから飛び出して、興奮した様子で飛び跳ねては、押さえつける男の手の中でもがいている。
「大人しくなさい。(バトルに参加したいのはわかったが乱入したら)痛い目にあいますよ」
「きょ、脅迫……!?」
(なんてやつだ! オオタチを人質にとってまで、勝負に勝つつもりなのか!)
スグリは男の執念を見誤っていた。
真に手段を選ばない強さとはこういうことか。
たしかにスグリは強くなりたい。
目の前にチャンスがあるなら掴みたい。
だが、だとしても。
大事なポケモンを切り捨てるような。
踏み台にして笑うような真似はしたくない。
パートナーを裏切るのはいやだ。
その行為は憧れの否定だ。
スグリが信じる全てに対する裏切りだ。
「カミッチュ! 前じゃなくて上に撃て!」
スグリに応えたカミッチュは蓄積したエネルギーをロズレイドにではなく、頭上に放つ。
波動の奔流が雲を割り、夕焼けを裂く。
「……わかってた」
スグリは毒気が抜けた表情で呟いた。
「おれは、主人公になれない」
「だってそうだろ? 根暗で、弱くて、友達を信じることすらできないんだから」
「本当は全部わかってた。何か理由があるって」
「仲間はずれだとか、アオイやハルトがするわけない。ねーちゃんは……うん、わりといつもひどいけど。でも姉弟だから。いいところだって少しは知ってる」
「……なんか、違う気がするから。勝負はおれの負けでいい。オオタチを返せ」
なぜかプロ顔負けのブラッシングを始めた男と、脱力してされるがままのオオタチに声をかける。
なお、誤解が解けたのは数分後のことである。
互いのポケモンを回復した後、男はオオタチのモンスターボールをスグリに返却する。
「まずは謝罪を。あなたとポケモンには酷なことをした。申し訳ありません」
「あんたが謝ることじゃないべ。その……おれのほうこそ、ごめんなさい」
突然のエンカウントは戸惑ったが。
男は単純に勝負をするつもりだっただけ。
普通に話しかけてこい、とは思う。あと、そのへんてこりんな仮面は何なのだ? とも。
「でも、悪いと思うなら教えて。なんで? どうしてこんなことしたの?」
「タレコミがありましてね」
「タレコミ?」
「いえ、失敬。……強いトレーナーが道に迷っていると、そんな噂を聞きつけたので。どれほどのものか見定めてみようと思っただけですよ」
仮面で男の表情は読み解けない。
今の言葉が本心から出たのか、それともはぐらかしているのか。スグリは後者と判断した。
「誰から聞いたホラ話だよ」
「事実でしょう」
戦ってみて、身にしみて理解しました、と自分のモンスターボールに手をやる男。
「地力とセンスは十分。年齢を考えたら破格です。上と見比べて卑下しているようですが……あなたは、彼らに決して劣らない強さを既に持っている」
知ったような口調で紡がれる戯言だ。
スグリが耳を傾けたところで、気休めになるどころか、慰められているようで羞恥が勝る。
「他者を思うことができる。そして、過ちを認めることができる。あなたの長所で、強みです。意外と得難いものですよ。この手の才能は勝負で身につきませんから」
「ふーん」
結局は負けたけど。そんな負け惜しみは、流石に子供っぽいので口にしない。
スグリなりに考える。男の言葉を咀嚼して、自分の中で納得ができる箇所とできない箇所をより分けて、役に立つと思った内容は飲み込んだ。
「さて、もう日が暮れる。村まで送ります」
「……うん」
家までの道のりで、スグリは物思いにふける。
考えるばかりで答えが出ない。
きっと。主人公なら、この程度では悩まない。
いつもの装束は洗濯中だった