ジム廃業して飛んでパルデア 作:あさいかくり
ともっこ像が壊れたらしい。
管理人さんの話では、原形をとどめないほどに木っ端微塵だとか。現在は犯人を探している様子。
いや、今回は何も知らないですよ。ドクロッグのパンチにそこまでの力はないわ。
ともっこプラザの方角に、空に登る光の柱を見たという人物もいて、情報は錯綜している。
いらぬ疑いをかけられないようによそ者は大人しくしときましょうかね。
ところで、目の前に三匹のポケモンがおるんじゃが。
もしかして君たちともっこだね?
『ヌンダ。ヌンダ』
『キチチ』
『マシキャァ……?』
昔話によると死んで埋葬されたはずだが。
キタカミもちを山盛りに抱えていやがる。
復活して二度目の生を漫喫中、って感じだな。
ひそひそと密談を交わす三匹。
犬と雉はそのまま立ち去り、猿はキタカミもちを手にして俺に近づいてきた。
え、なに。くれるの? お前いいやつじゃん。
「……? なぜ止めるんです」
だが、ボールから出た手持ちが一斉に割り込む。
猿に威嚇を、俺には警戒するよう促す彼ら。
旅の途中でたまによくこういうことはあるが。
「ああ、なるほど。毒ですか」
こいつめ、もちに一服盛ってやがる。
俺も鈍ったもんだ。完全に油断していたぜ。街中で仕掛けてくるとはいい度胸だな猿公。
悪巧みを暴かれて逃げ出す猿。
俺は後を追いかける……が、しかし、悲鳴と破壊音が聞こえて立ち止まった。スグリの家の方だ。
「クロバット、猿の追跡は任せます」
嫌な予感がする。頼むから当たってくれるなよ。
キタカミ姉弟とその祖父母のお宅は、スイリョクタウンに建つ趣深い一軒家だ。
しかし、塀は一角が砕かれており、昨晩お邪魔したばかりの庭は見るも無惨に荒れ果てている。
庭の隅に追いやられた祖父母のお二人。
倒れてうずくまるスグリと、それを囲む犬と雉。
「スグリ! 早くお面を渡してしまいなさい!」
「嫌だ! これは鬼さまの大事なお面だ! ともっこなんかに渡すもんかッ!」
「だが、それではお前が……!」
おーけー。状況はおおよそ把握した。
伝承で崇められている鬼退治の英雄ともっこ、その正体は悪いポケモンだってことをな。
そして、鬼の宝物にして落とし物……オモテ祭りの夜、ハルトたちが拾ったという碧のお面。ともっこが奪おうとしている代物はこれで間違いない。
こうなると昔話の悪さをする鬼というのも、どこまで本当だかわからんね。
ともあれ。考えるのは後回しにしよう。
スグリはお面を抱えて抵抗しているが長くは持つまい。既に手持ちポケモンはひんし状態のようだ。
「まったく、生身でポケモンに立ち向かうとは無茶をする。あまり感心できませんね」
「え……あんたは」
「危ないので下がっているように」
紫色の鎖を振り回す犬の攻撃を受け止める。
いってーな。咄嗟に防いでしまったじゃないか。
鍛えてなきゃ致命傷だぞこの威力。
さて、どうしよう。
この場で戦うと家屋なりの被害が増えるからな。スグリの怪我を診てやらないといかんし。
テレポートでこいつらを野外に飛ばすか。
「スグっ!?」
悲痛な叫び声が場にいる全員の注意を引く。
ブルーベリー学園の制服を着た少女は、傷だらけのスグリを見るなり顔を蒼白にして駆け寄る。
「何よこれ!? どういうこと? 誰にやられたの!? あんた死んでないでしょーね!」
「い、いた……ねーちゃんいたい……」
「痛い!? どこ、見せてごらんなさい!」
「お姉さま。一回落ち着いて」
スグリの肩を揺するゼイユ。半分狂乱状態の彼女を引き剥がすハルトと、俺の死角をカバーするアオイの二人はポケモンを出してともっこを牽制してくれている。
形勢の不利を悟ったともっこは逃走を選んだ。
俺は手持ちに指示して、わざと包囲に穴を作る。
ここで倒すことも考えたが……追い詰められた獣は何をしでかすか分からない。
ゲンガーとエルレイドを見張りにつけて、ここは一度仕切り直した方がいいだろう。
「待ちなさい! 私の弟に何してくれてんのよ!」
「だめゼイユ。まずは治療しないと」
「ぐっ……わかってる」
気持ちは分かるが冷静にな。
怪我人を放置するわけにもいかんだろ。
※毒入りもちは主人公が美味しくいただきました