ジム廃業して飛んでパルデア 作:あさいかくり
鬼が山に俺、参上。
逃げた三体を追うことしばし。
険しい岩山の道なき道をすいすいと登るともっこ。こちらは岩陰に隠れて様子を窺う。
戦利品のお面を振り回して実にご機嫌だ。
この先は鬼が住む洞窟、恐れ穴。
まさかオーガポンと遊ぶつもりではあるまい。
子供たちと鉢合わせしたらまずいか。
隙ができたタイミングでと考えていたが……今が仕掛け時だな。待機中のエルレイドに合図を送る。
即座に遠隔テレポート。
俺はともっこの背後に出現する。
「先程はどうも」
懐から取り出しますはモンスターボール。狙うはともっこで一番厄介なやつ、お前だ猿公。
完璧に虚をついた出会い頭の不意打ちを、しかし三体のうち猿だけは俺の動きを目視している。
気づかれたというわけじゃない。知っていた……視えていたという表現が正しいか。
マシマシラのみらいよち。
やつは少し先の未来を見ている。悪知恵が働くのでともっこの頭脳と言っても差し支えない。
たぶんエスパーとの複合タイプなんだろうな。勝負するにしてもやりづらいことこの上ない。
『……マ?』
「ですので、ええ。ご覧になった通り。こちらも対策させていただきます」
事前準備の時間はたっぷりあったからな。俺に付き従うサーナイトは既にテラスタルを済ませている、輝く冠の形状は海賊旗に描かれるようなドクロ。
言わずもがな、どくタイプのテラスタルである。
毒の鎖を伸ばして迎撃するマシマシラ。
残念ながら今のサーナイトにお得意のどくは通用しないわけだがな。どうした頭脳派? タイプ相性を理解していないとは勉強が足りていないんじゃないか?
「サーナイト、ふういん」
ただみらいよちと、あと絶対にサイコキネシスは持っているだろ? それ禁止カードです。
自分が覚えているわざと同じわざの使用を制限するふういん。効果はマシマシラのみにかかるので、サーナイトは同じわざを使い放題なのもポイントが高い。
いつだったか祖父さんは言っていた。
群れを作る野生ポケモンは全員を束ねる司令塔から倒すべし。残りは一体ずつ狩るべし、とな。
どくポケモンがみんな悪いわけじゃない。
ロケット団など悪の組織の影響で悪いイメージが植えついていたりするが。俺個人はどくタイプが大好きだ。
しかし事情はどうあれ、こいつらが欲望のまま、道徳的に悪とされる行為を働いたのは事実。
そして子供たちに手を出したのも事実。
それとこれとは別の話だ。
俺が手心を加えると思うなよ。
「毒を以て毒を制する――どくどくです」
どくタイプのポケモンは毒を受けない。
耐性によってわざの威力は軽減され、身体に浴びた毒は体力を蝕むことがない。
だが、何事にも例外が存在する。
どくタイプ、そしてはがねタイプにも通用する強力な毒を持つポケモンがいる。
たとえばエンニュートや一部のキラフロルなど。タイプ相性など関係なしにあらゆる相手を毒に染める、そんな彼らのとくせいはふしょくと呼ばれている。
今日はそれをなんと、サーナイトにですね。
サーナイトのとくせいはトレース。
他のポケモンのとくせいを写しとるというもの。
前もって裏方のエンニュートにふしょくをコピーさせてもらえば……タイプ一致必中で相手を問わず、もうどくを浴びせるサーナイトさんの出来上がりである。
サイコキネシスでマシマシラを浮かせる。
そのまま地面に叩きつけてKOフィニッシュだ。
あと勝手に飛び出したドクロッグのじしん。
なにしてんのお前。でもナイス。次!
「飛行能力を持つどくタイプの厄介さはよく知っていますとも」
優雅にこちらを見下ろすキチキギス。
上空に逃げられると俺は手が出せない。まあ鳥ポケモン相手に積極的に近づく理由もないが。
ひこう複合、つまり投石に弱いってことだよなぁ!
軽量化を突き詰めた空色のボール。
ご先祖様から伝わるレシピに、独自の改良を加えてクラフトした、俺専用のジェットボールを投擲する。
ボールは一直線にキチキギスを撃ち抜く。
おお、一発で当たるとは思っていなかったがやるじゃないか俺。最近はコンディションが絶好調である。
しかし激しい抵抗により捕獲は失敗。ボールは壊れて中から怒り心頭のキチキギスが飛び出してくる。
やはり背後から当てないと厳しいな。ジェットボールは飛行するポケモンや素早いポケモンを捕まえやすいはずなんだが……あなたそんなに速くない?
「まあ落ちるまで投げますが」
『キチガッ!?』
結果を確認する前に、俺は次のボールを投げている。
ボールから出た瞬間が一番狙いやすい。無防備だし。
意地と気合いで二投目を回避したキチキギスは勝ち誇った表情を見せるが、残念、背後が疎かだ。
テレポートしたエルレイドが空中に。
外したジェットボールをバレーのスマッシュが如く、キチキギス目掛けて打ち返す。
捕獲こそできないものの地上に落とした。
綺麗な翼がお飾りだね。おかわいいこと。
当然のようにドクロッグのじしん。効果は抜群だ!
『ヌンヌンヌンダッフル!』
「おっと危ない」
前転して鎖のぶん回しを回避する。
背後からの不意打ちとは卑怯じゃないの。
『ヌン……ヌンダヌン!? ヌンダ……ヌン……ッ』
イイネイヌは目に涙を浮かべて何かを訴える。
ミブリムテブリムと声色から察するに、どうやら俺がともっこを襲撃する理由が理解できないようだ。
イイネイヌ、キチキギス、マシマシラ。
俺はこいつらに何もされていない。だから困惑する気持ちはわからなくも……。
「いえ、思いっきり毒盛られましたね」
『……ヌンダ!』
じゃあ仕方ないか、みたいに納得すんな。
それともあれか。俺が絆されることを期待した泣き落としだったのか。おのれワルイワン。
イイネイヌは接近戦を仕掛けてきた。
手持ちが割って入る隙を与えず、か弱い人間の司令塔を狙う。実に小賢しく、理にかなった戦略だ。
真っ向からぶつかるのは痛いので却下。
煙幕を焚き、円の動きで背後に回る。おあつらえむきにぶら下がっている鎖を掴むのを忘れずに。
足に絡めてバランスを崩し、でかい図体を簀巻きにして転がせば一丁上がりだ。じしんを忘れずにな。
「お面は返してもらいますよ」
地面に伏す欲望まみれのサル・トリ・イヌ。コンボみたいに語呂が良い。
彼らの懐をまさぐると精巧な細工のお面が三つ。
これでミッションコンプリート……ん?
『キチチチチ!』
『マシマシマシキャ!』
『ヌンダッフル!』
巨大化しやがった。嘘でしょ?
一回り以上に大きくなったともっこたち。
秘伝スパイスをたらふく摂取するとポケモンは巨大化するんだったな。あの餅のせいじゃねーかよ。
そこまでしてヒーローのお約束をやらんでええ。
ちゃっかりお面も取り返しやがってこいつらめ。
「先生!」
「ハルトさん、皆さん。それと……」
子供たちの隣に立つ知らないポケモン。
緑色の半纏を羽織った童子のような姿。
あれがキタカミの鬼、オーガポンだろう。
そりゃ住処の近くで騒いでたら様子を見るよね。
彼らを庇いながらの長期戦は難しい。
ゆえに速攻だ。巨大化には巨大化で対抗する。
「行きますよゲンガー。最初からキョダイマックスです」
それっぽいだけで本当は別物だけどな!
※キチキギス:どく/フェアリー