ジム廃業して飛んでパルデア   作:あさいかくり

67 / 86
067

 大きいともっこVSキョダイマックスゲンガー(偽)。

 

 当然だがダイマックスはガラル地方のパワースポットでしか使用できない。あと俺はねがいぼしを加工したダイマックスバンドを持っていない。

 

 なのでこれはイミテーション。

 ゲンガーのナイトヘッドによる幻覚だ。この子、爺さん監修のもと自力で編み出しやがったのよ。

 実態は投影のようなもの。しかし触れたと相手が錯覚する幻は本物と同等以上だ。

 

 巨大化返しはいい牽制になっているようで、ともっこはこちらの出方を窺っている。

 

「助太刀するわ! スグはオーガポンと下がってなさい。まだ本調子じゃないでしょ」

 

「……いや。おれも戦う」

 

「はあ!?」

 

 姉の驚愕をよそに、スグリはオーガポンと向き合う。

 

「鬼さま。おれ、ずっと鬼さまに憧れてたんだ。強くて、かっこよくて、一人でもへっちゃらで。そんな鬼さまみたいになりたかった」

 

『ぽに?』

 

「わかんないか。だよな。うん」

 

 見下ろした素顔のあどけなさに、思い描いていた憧れとまるで異なる真実に、スグリは何を思ったか。

 

「おれじゃ役に立てないのはわかってる」

 

「だけど、いやなんだ。見ているだけで何もしないのは。お面を取り返してオーガポンの力になりたい」

 

 主人公になれずとも、主人公の隣に立っていたいとスグリは語る。かつて夢見た理想を追い求める。

 

「見てて。おれ、けっぱるから」

 

 スグリはアオイ、ハルトに並び立つ。

 隠れることをやめた……庇う必要がなくなった弟にゼイユは言葉を探してどうにか口から絞り出す。

 

「言うわね。スグ」

 

「ねーちゃんが何言おうともう決めたから。おれ、今回は絶対に引かねえ」

 

「いいんじゃない別に。ただ、カッコつけるなら最後まで貫きなさい。……応援くらいはしてあげる」

 

 各々がボールを構える。

 一丸となってともっこに立ち向かう構え。

 よろしい、ならばトリプルバトルだ。実際は乱戦だが、ローテーションとの組み合わせと考えたらいけるいける。イッシュで鍛えたなら余裕だろ?

 

『ぽに! ぽにおー!』

 

 オーガポンの声援がみなの力になる!

 特にスグリの気迫が凄まじい。ゼイユは般若の殺気をぶち放っておるし、当然チャンピオン二人は全力。

 

『ヌン……』

 

 今更やばいと悟ったようだな。

 だが、ともっこは逃げられない。ゲンガーのくろいまなざしに囚われている。これで詰みだ。

 

「待って、なんだか様子がおかしい。ともっこが……オーガポンのお面をかぶった!?」

 

 マシマシラのいどのめん。

 キチキギスにかまどのめん。

 イイネイヌはいしずえのめん。

 

 それぞれ奪ったお面の力でテラスタルしたともっこは、変身ヒーローのようないでたちで襲いかかる。

 そんなのありですか? もうお前らともっこじゃなくてずるっこに改名しろ。

 

「お面の力……てことは、タイプが変わってるはずだ! ねーちゃんとハルトはマシマシラを!」

 

「おっけー! ショータイムだよマスカーニャ!」

 

「弱点で攻めてあげるわ。モルペコ、ヤバソチャ!」

 

 みずタイプに効果抜群のくさ・でんきタイプでマシマシラと対峙するハルトとゼイユ。

 

「先生はこっちを手伝って。私の手持ち、ちょっと相性のいい子がいなくて」

 

「承りました」

 

 アオイが繰り出したのはラウドボーンとセグレイブか。じしん覚えてるし十分じゃない?

 とはいえ戦力はあるに越したことはない。エルサナとゲンガーでキチキギス包囲網を構築する。

 

「お前の相手はおれだ。イイネイヌ」

 

 一人立ち向かうスグリに、イイネイヌはあからさまに安堵と小馬鹿にした表情を浮かべた。

 一番弱いやつと当たって運がいい、こいつを倒して挽回してやる、そんな内心が透けて見える。

 

『ヌンダッフル!』

 

 イイネイヌはビルドアップでスグリを威圧する。

 彼の手足が微かに震えていることを嘲笑う。

 動かないスグリと徐々に距離を詰めていく。

 

「……ッ」

 

 スグリはモンスターボールを握りしめている。

 おい何を躊躇っている。早くポケモンを出せ。

 まさか……土壇場で動けないのか? くそ、仕方ない。こちらでカバーに回るしか……。

 

 だが、俺より先にイイネイヌに肉薄する影が一つ。

 

『がおぽにーーっ!』

 

『ヌン!?』

 

 オーガポンの棍棒がイイネイヌの脳天に炸裂する。

 続け様に顎、鳩尾、それから急所を殴りつけたオーガポンは、イイネイヌの巨体を軽々と宙に吹き飛ばして、立ちすくむスグリを庇うように前に出た。

 

「オーガ、ポン?」

 

『ぽに!』

 

「え、え……? ひょっとして……おれと、戦ってくれるのか……? 勘違いとかじゃなくて……?」

 

 じっと指示を待つオーガポン。

 理解が及ばず、スグリは呆然とするばかりだ。

 

「……は、はは……夢みたいだ」

 

 スグリは自分の頬をつねる。

 痛みで涙が溢れるほど強くつねる。

 うるむ視界は痛みだけのせいではあるまいが、本人はどこまで自覚しているのだろうか。

 

「いや、夢なのかな? 夢でもいい……今、この一度だけでもいい……おれに力を貸してくれ。一緒に……お面を取り返そう!」

 

『ぽに!』

 

 気合いを入れたオーガポンがテラスタルする。

 纏うは修復した碧のお面、表す感情は喜び。

 

 かつて鬼と共に過ごした一人の男との思い出。

 村人から恐れられていた鬼と男を哀れに思った、お面職人の心遣いに対する感謝。

 長い長い年月を経て、悲しい過去を抱えながらも、再び友と呼べる人間と出会えた今この時。

 

 そのすべてが――オーガポンの力になる!

 

「やっちゃえ、オーガポン!」

 

『がおー!』




ナイトヘッドゲンガー
こけおどし。気合いで巨大化してみせているので、動くと空気の抜けた風船のようにしぼむ。
この欠点に主人公は気づいていない。

(没ネタ)
『スグリ……なんと哀れな少年よ……ダークライ! 彼に幸せな夢を見せてやるでセウス! たとえ夢オチでも無聊の慰めになれば何より。うーん、善行を積むと気分がいいでセウスねえ〜! ア〜ルアルアル!』
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。