ジム廃業して飛んでパルデア 作:あさいかくり
紙芝居のページをめくって息継ぎをする。
一人用テントに大人二人。狭いし蒸し暑い。
野宿は慣れているが……宿は取ってないんか?
「それで? 続きは?」
「悪いともっこは退治された。お面は取り戻した。普通のハッピーエンドです」
ともっこ騒動から早数日。
林間学校の冒険は子供たちの完全勝利で幕を閉じた。
取り返したお面は三つとも壊れていたんだが。
ともっこが無茶やらかしたせいだろうな。
お面を直すため、子供らはキタカミ各地を巡った。
その道中、謎のクラフトお兄さんことピーチ団のボス、
俺は何も知らないが、まあ大変だったらしいドン。
素材集めついでにカレーを作ったり、サンドウィッチを作ったり、イモモチを作ったり。
俺は知るよしもないが、どれも美味しかったモン。
とにかくお面は無事に修復できて何より。
ピーチ団幹部のDr.ジーニアスの協力に感謝ピチね。
もちろん俺は無関係である。まったく、いい年して楽しそうですねジニア先生。
「青春してるなー。若いっていいね」
「あなたもまだお若いでしょう」
スイリョクタウンで遭遇した写真家、名をサザレ。
キタカミの顔面600族枠である。
なんとシンオウ地方出身で俺と同郷らしい。
彼女と行動を共にしている理由は簡単だ。
サザレが連れているガーディ……どう見てもヒスイのガーディなんよ。俺の目はごまかせない。
しかも珍しいガチグマを探してキタカミにやってきたと言うではないか。
霧の深い夜にのみ現れる『赫月』。
我々はその謎を解き明かすべく、とこしえの森に向かったのだった……。
「正直ワタシだけじゃ不安だったから助かるよ。期待してるぜジムリーダー!」
「元をつけてください。それと、あまり期待されても困ります。僕の手持ちはガチグマと相性が悪い。危ないと思ったらすぐ逃げてください」
「なるほど。やっぱり詳しいね。頼んで正解だ」
「? どういう意味でしょう」
「ああいや、こっちの話」
サザレは手元のカメラに視線を逸らす。
「ヒスイ関連は公然の秘密って雑誌の特集に書いてあったもんな……」
おいそこ。聞こえてますが?
いや、まあね。文献は残っているから、ヒスイの時代の知識は専売特許というわけじゃない。
一般的には失伝している内容が多いだろうが。
ほら早業とか現代じゃ聞かないよね。
しかし俺=ヒスイは周知の事実なのかよ。
二十数年生きてきて初耳だわ。
おのれ月刊ポケモンウィーク……!
あとポケモンリーグ営業ェ……!
「……霧が出てきましたね」
気がついたら日が暮れている。
過去の負債は置いといて、切り替えていこうか。
深い霧は一寸先すら見通せない。
だが、静まり返った森の奥に強大なポケモンの気配がビンビンと感じ取れる。
「クロバット、きりばらい」
ひでんわざで周囲の視界を確保する。
木立の向こう、闇から這い出る巨体と真紅の満月。
隻眼の亡霊と評するに相応しい異形が姿を見せる。
「あれが赫月……すごい。本物だ。あれを写真に納められたら、きっとスランプだって……」
サザレはカメラを手にして接近する。
彼女の目的は赫月の写真を撮ること。それは事前に聞いているが、写真家としてポケモンを刺激しない技術を持っているとも言っていたが……しかしこれは。
「よーしよし。いい子だ、大人しくしててね……」
アホウ、やつは臨戦態勢だ!
「エルレイド! サイドチェンジ!」
サザレと立ち位置を交代したエルレイドが、代わりに赫月の一撃を受け止める。
額の満月から放たれた紅い気迫。
奔流に飲まれたエルレイドはその場で膝をつく。
おそらくは特殊技。だが、とくぼうが高いエルレイドを一撃でひんし寸前に追い込むだと?
「ご、ごめん。ありがとう助かった!」
「ここは退きますよ。えらく気が立っているようですが、森の外までは追ってこないでしょう」
「そう思う? ワタシには、とても逃がしてくれそうに見えないや」
「奇遇ですね。同意見です」
殺意マシマシ敵意高めのデストロイモード。
下手すりゃ人里まで降りてくるな。
一体なぜだ。話を聞く限り、赫月はむやみやたらと暴れ回る性質ではない。人を襲ったという伝承もない。
人の目を引かないよう森に隠れ潜む知能がある。ことさら凶暴化しているようにも見えん。
「僕、ですか」
どうやら赫月は俺を警戒しているようだ。
理由は不明。やつの眼光に射竦められると、心の臓にえも言われぬ悪寒が走るのと関係しているのか。
そんな死人か化物に会ったような態度でよ。
何なの? 背中に変な霊でも憑いてる?
腹を割って話し合いができたらいいが、その前に頭をパカーンとかち割られそうだ。
「サザレさん。下がっていてください」
逃げたら背中に先程のビームを撃たれる。
ここは相手の戦意を削ぐしかあるまい。
「戻れエルレイド」
赫月とてガチグマである。
よほど捻くれたリージョンフォームでもない限り、タイプはじめん・ノーマルの複合で間違いないはず。
じめんわざで弱点を突かれないクロバットと、ノーマルわざを透かせるゲンガー。この二体で攻める。
『ワギアアアア!』
「は?」
ハイパーボイスでゲンガーが落ちた。
なんでや。なんでゴーストタイプに当たるんや。きもったまミルタンクやあらへんで。
「クロバット、かげぶんしんで牽制」
動揺を誤魔化すための時間稼ぎ。
しかし赫月は数ある分身から瞬時に本体を見つけ出し、先程のビームを再度放ってクロバットを追い詰める。
まぐれか? にしては迷いがない。
というかまずいぞ。この調子でダメージを受けていたらあっという間に全滅する。回復の隙を作らねば。
「狙いは僕でしょう。こっちですよ」
手持ちに代わり前に出る。突貫すると見せて、煙幕を焚き相手の視界を奪う。そのまま背後を取っ……
『ワギィ』
なぜ、視線が合っている。
「ッ、まず」
直感に従い咄嗟の回避行動。
頭上すれすれを穿つしんくうは。
こっちの動きを目で捉えているだと。
分身に惑わされず、暗闇と白煙で視界を奪われてなお、正確にこちらの位置を把握する眼力。
心の眼、しんがんとでも称するか。おそらくは赫月のとくせいだ。やつに視覚的な小細工は通用しない。
ゴーストタイプにわざを当てたのも目には見えない真実を捉えるって意味合いかね。
ちょっとトンデモすぎやしませんか……?
『マシキャー!』
『キーチッチチ!』
『イヌヌワン!』
ここぞとばかりにともっこが嗤ってやがる。
赫月をけしかけて俺に報復するつもりかよ。
……あ、だいちのちからでやられてやんの。
でもって俺に泣きつくの、恥ずかしくないんか。
ええい、ままよ。なんとかなれー!
この後めちゃくちゃねばりだまを投げた。
赫月「中身違うじゃん……怖」