ジム廃業して飛んでパルデア 作:あさいかくり
やることが……やることが多い……!
なにせ特別講師の朝は早い。
食堂にろくなメニューがないため、朝食用のケムリイモを栽培するところから始めねばならん。
そして昨日植えた収穫済みのものがこちらです。
「ねえねえ! これ足していい?」
おいアカマツ。それノワキのみ*1じゃねーか。
「却下です」
「えー。これ授業で栽培したやつだよー」
「僕の授業に興味を持ってくれたのはありがたいですが、料理を邪魔するのは危ないですからね」
辛党にも限度があるでしょう。
くっ、助けてくれペパー。味覚がやられちまう。
「ときに、スグリさんと同じクラスと聞きましたが」
「そうだよ。あ、でもスグリのことは話せないんだ。秘密にしてって言われてるから」
「ほう。なぜです?」
「それは……」
「おぉ〜っと。いい朝だねぃアカマツ」
アカマツの言葉を遮り、厨房に現れるカキツバタ。
タイミングが悪い。さては様子見していたな。
「カキツバタ先輩? まだ昼前だよ」
「オイラだってたまには早起きするさ。……それより、ウズ先生よう。弱点狙いは卑怯だぜ」
「はて。何のことでしょう」
リーグ部が何か隠していることは分かっていた。
謎のチャンピオン。俺が落とした仮面。
スグリの言う「チャンピオンの圧制」と、まるでそうは見えない平穏な部活動の様子。
しばらく接して年長者が隙を見せなかったので、切り崩しやすいアカマツにターゲットを絞った。
あからさまなやり方で気取られてしまったが。
「たしかに? 今のリーグ部はちょいと問題を抱えてる。でもあんたに関係があるか? 教師なら教師らしく、自分の仕事に専念していただいて結構だぜ?」
まるで期待をしていない目。
大人というものに、否、教師という存在に見切りをつけている賢しげな視線が突き刺さる。
これまでもそうだったのだろうか。
「関係はあります」
「……うん?」
仕方のないことかもしれない。
この世界にだってスーパーヒーローのような万能の解決策はそう転がっていない。
人間である以上、できること・できないことがある。
ましてやこの世界にはポケモンがいる。
人とポケモンの数だけ関係性があり、考え方は異なる。
厄介事を背負いたくないと考える人だって。
彼らにとっての当たり前があり。
俺にとっての当たり前がある。
「あなた方は僕の生徒ですから」
そして俺は教師である。
「生徒が困っているなら、力になりますよ」
それでもお節介というならそれで結構。
大人を頼る、その選択肢があることを知ってくれ。
意外と先達は侮れないものだぞ。こっちの考えとか簡単に見透かされるからな。
「これツバッさん人間として負けてね?」
「先輩大丈夫! 勝ち負けじゃないよ!」
「そこは否定かフォローほしかったぜい。よよよ」
カキツバタは特徴的な前髪をへにょりとさせて、大袈裟に崩れ落ちてみせた。わざとらしい演技である。
「ま、オイラたちにも意地があるからよ。とっておきを繰り出して、それでも駄目だった時はわるあがきで頼らせてもらう。そういうことで勘弁してくれねーかな」
「ええ。当事者で解決できるなら何よりですから」
命の危機でもなければ無理に出張るまいよ。
普通、学校で生死を脅かされることないけどな!
というわけで技術教師は静かに去るぜ。
「あー! そういやアカマツよう!」
「うるっさ!? 静かにしてよ先輩!」
「えー? よく聞こえないって? じゃあ腹から声出すしかねーわな!」
「聞こえてるってば!」
騒がしいぞおい。背中に響くわ。
「スグリのやつ、なんか調べものしてたなー!?」
「え? ああ、難しそうな本読んでたよ」
「そうかー!! なんて題名だった!?」
「えぇ……覚えてないよ……?」
「なるほどなぁ! 『キタカミの歴史』とー? 『ともっこ昔話』とー? 『伝説・幻のポケモン図鑑』かー! そういやそうだっなー!!」
「何も言ってないし!?」
この後、すぐ飛んできたタロの「そういうのよくないと思います!」攻撃でカキツバタは倒れた。
あれ実質クロスチョップよな。