ジム廃業して飛んでパルデア 作:あさいかくり
悪いチャンピオンをこらしめてほしい。
そう頼まれたのは、ブルーベリー学園へ交換留学に来て間もない頃だ。
詳しい話は説明してもらえなかったけれど、友達の頼みなら僕たちが断る理由はなかった。
ブルベリーグの挑戦はアオイに任せた。
代わりに僕は事情を調べる。役割分担だ。
でも、いくら人から話を聞いても。
チャンピオンについては何もわからなかった。
悪い噂どころか、正体すら知られていない。
スグリが秘密を抱えているのはわかる。
試合映像で仮面のチャンピオンが誰なのかはうっすらと察することができる。
全部、きっと理由があるのだと思うから。
「オーガポン、つたこんぼう」
「…………」
バトルコートの激突を見守る。
戦況は圧倒的にアオイが有利だ。
オーガポンはチャンピオンの手持ちを薙ぎ払う。
アーボック、マタドガス、そして今、アローラのすがたのベトベトンが倒れた。
だというのにチャンピオンは不気味なほど静かで、試合が始まってから一言も喋っていない。
(……らしくない)
頭の片隅に巣食う違和感。
僕はポケモン勝負が上手いわけじゃないけれど、これは、あまりにも精彩を欠いている。
(今の攻防だってそう。ラフレシアのちからをすいとる。オーガポンのこうげきを下げる狙いだろうけど、まけんきが発動して逆効果だ)
初心者が陥るようなミスを連発する。
熟練者が思考の迷路に入り込み、あるいは疲労から采配を誤った? だとしても。
(あの戦い方で四天王を突破できたとは思えない)
壊れた操り人形のようにふらつくチャンピオン。サムライみたいな一つ結びの黒髪がゆらゆら揺れる。
ポーチから取り出した五体目のボール、その紫と赤のデザインに僕は視線を奪われた。
マスターボールが空中に放物線を描く。
自然と目で追った先、向かい側の観客席に。
汗だくで席に着く、スグリがいた。
(………………待って)
なら、
遅れてバトルコートについた俺。
席をずれてくれたスグリの隣に腰掛ける。
ああ、こうして肉眼で視るとよくわかるな。
映像で見たチャンピオンと、今コートで試合しているチャンピオンはまったくの別人だ。
「……おれのせいなんだ」
なんですって?
「わるいやつになるつもりだった。鬼様にやっつけられる敵がいたら、また、みんなで冒険できると思った。……そのための強さがほしくて、おれ……おれは……」
スグリは握り拳を膝に叩きつける。
「先生。ともっこ、全部で何匹いたと思う?」
「…………まさか」
前世でいう桃太郎モチーフのポケモンたち。
猿、鳥、犬。残るはひとつ。
「おれは四匹目の力を借りようとした」
「『借りようとした』? では駄目だったと?」
「見つからなかったんだ。きっといるはずだと思って探したけど。それで、ねーちゃんにバカなことするなって怒られて。それで終わりのはずだったのに」
歓声がスグリの叫びを塗りつぶす。
試合は佳境に差し掛かり、両者が切り札のテラスタルオーブを起動していた。
アオイはオーガポンに。対するチャンピオンは……何あのポケモン。亀?
「ねーちゃんはおかしくなっちまった。だんだんヤバソチャたちのことも忘れて……リーグ部も、おれも、もう止められない。でもっ! アオイとハルトなら……!」
謎のポケモンがテラスタルする。
オーガポンのテラスタルエネルギーをも吸い取って。
十八の宝石。煌めく星。虹の結晶。
さながらそれは、藍の円盤。
結晶の光が照射される。
対象はバトルコート、そしてトレーナーと観客席……敵も味方もお構いなしの無差別攻撃。
俺は咄嗟に手持ちを繰り出すが、彼らとて会場全体をカバーすることはできない。
くそ、クラスター爆弾じゃねえんだぞ……!?
不幸中の幸いは同じ考えの腕利きが他にいたことだろうか。四天王や特別講師。おかげで最悪は免れた。
だが、どいつもこいつも満身創痍。
鍛えたポケモンたちが一撃でひんし寸前だ。
立っているのはチャンピオンただ一人。
半壊した仮面の奥に隠された正体。
気が強く、身勝手な、誰よりも弟思いの少女は。
涙をこぼす自由すら奪われた体で、ゼイユは。
言葉なく訴える。
――たすけて、と。
?「弟を止める力が欲しい?」
?「わかった! 助けてあげる!」
?「ぼくとご飯食べて、トモダチになってよ!」