ジム廃業して飛んでパルデア 作:あさいかくり
荒ぶるテラパゴスを鎮める。
腕利きの包囲網が放つわざは幾重にも張られたバリアを突破しないことには通用しない。
有効打はテラスタルだが、エネルギーを吸収されるのでオタチごっことなってしまう。
故にこそ。他の手段で防御を崩す。
謎の光が形になった籠と玉。
初めて見るが使い方はよくわかる。
とりあえず投げればいいわけだ。
重さと質感を確認して試しの一投目。
小さい的だが見事に命中。テラパゴスは違和感に怯み、発動中のわざが中断する。
奇天烈現象に一抹の不安があったが有効な様子。
であるならばここは攻めるのみ。
「後ろ失礼します」
フェイントを交えてテラパゴスの背後を取る。
叩きつける要領で振り抜いた腕にバリアの感触。たしかに硬い、硬いが……この光の玉なら割れる。
一、二、三、四。ついでに五、六。亀裂を集中して狙いテラスタルの守りを打ち砕く。
よし体勢を崩したな?
「隙ありです。クロバット、クロスポイズン」
四枚羽が描く十字の軌跡を確認して諸共に離脱する。
これで甲羅に傷すらつかないとは流石だぞ。
それでも確実にダメージは響いている、体力が減ったらテラスタルは維持できないだろ。
「バリアが壊れたら攻撃、ですね!」
「皆さん察しがよくて助かりますよ」
俺の考えを理解したハルトたちは互いに連携して、テラパゴスの気を引く戦い方にシフトする。
こちらは投擲に専念すればいいわけだ。テラパゴスの反撃は続いているので正直助かる。
わざの予兆と範囲を見極めて走り、前転し、他を巻き込まない位置取りを探るのは神経を使う。
これほど脳みそと眼を酷使するのは現役時代のエキシビションマッチ以来だ。ポケモン勝負とこの状況じゃ比較しようがないけれども……肉体スペックにものを言わせる、昔のような無茶は難しい。
だから今回は頼らせてもらう。
ポケモンとひと、そしてトレーナー同士がお互いに力を合わせれば! 暴れるポケモン一匹、屁でもない!
テラパゴスのバリアとて無限ではない。
直感を信じるなら全タイプ数と同じ十八。
まとめて砕いて、めでたしめでたしに繋げたる。
背負った籠の中身をダストシュートの如く、テラパゴスに張り付いて光の玉をぶちまける。
結晶を砕かれるテラパゴスの鳴き声には良心が痛むが、今は許せ、お前を助けるためでもある。
「ウズ先生、バリアが!」
っと、最後の最後で一味加えてくるか。
前後二重に形成される透明な壁は檻となって、俺を無理やり閉じ込めようと迫る。
おそらく野生の防衛本能だろう。暴れていても無抵抗でやられるつもりは毛頭ないよな。
「ですが遅い」
舐めてもらったら困るなテラパゴス。
俺の相棒は、ちと速いぞ?
バリアの包囲が完成する直前、わずかな亀裂に身をよじり飛来する紫の残像。
指示を出す必要はない。言葉より早くすべきことを理解してくれる……そうだろクロバット。
空中に投げたテラスタルオーブ。
起動済みのそれに触れ、クロバットは風船の冠、ひこうタイプのテラスタルジュエルを戴く。
弱点を探しながら力を溜める隙、その一瞬を最小限にするパワフルハーブが決まる。
ハーブは服用した。速度は十分。必要なのは一撃でバリアを破壊する貫通力と破壊力。
「『力業』――ゴッドバード」
一人一枚。同時に最後のバリアを破壊する。
今のでテラパゴスをかなり消耗させた。テラスタルを吸わないのを見るに、追加バリアも打ち止め。
だがクロバットは反動のダメージで追撃できない。よく頑張ったな……ゆっくり休んでくれ。
「決め手は譲ります」
いけ、お前たちの手で決着をつけろ。
「晴れ渡れコライドン!」
「お願いミライドン、オーガポン」
双竜と鬼が吼える。
チャンスを逃さず指示を出すハルトとアオイ。
そして、彼らの背中を見つめる者がいる。
「ほら、あんたもいくのよ」
「ねーちゃん……」
「いっちょ前に責任感じてる? こうなったのはスグのせいじゃないから。勘違いしないで」
「でも」
「友達なんでしょ?」
スグリは見る。
二人が振り返っていることを。
自分に向けて手を伸ばしていることを。
君も一緒に、と。
「うん……!」
彼はボールを手に走り出した。
アオイとハルトの背中を前に立ち止まり、振り返って、また姉のもとに駆け寄る。
「ねーちゃんも一緒に!」
「は? あんたねぇ、無茶言わないでよ」
「これ前もらった薬。元気になるから」
「苦ッ! それで怖いくらい調子いいんだけど!? ……あーもう、いいわ。快気祝いに教えてあげる。弟より弱い姉なんて存在しないってこと」
繋いだ手から伝わる熱。
躊躇いは、いつの間にか溶け去っていた。
「いけカミツオロチ!」
「待たせたわね。ヤバソチャ!」
「「全力で、けっぱる!」」