ジム廃業して飛んでパルデア 作:あさいかくり
ブライアせんせい を つかまえた!
キタカミの里に着いた我々が捜査を始めてわずか十分の出来事である。いやチョロすぎんか。
「こんな古典的な罠にかかるなんて」
ヒモを結んだ棒とカゴで作るトラップにかかりジタバタするブライア先生。ええはい、よくあるアレです。
ハルトの提案で俺がクラフトした。あからさま過ぎて、きょうびポケモンも引っかからないと思う。
「テラパゴスに釣られたね」
「キビキビー! テラパゴスキビー!」
「……見るに耐えないわー」
有効なエサは何かと相談した結果、テラパゴスに協力を仰いで待つこと数分。草むらから飛び出したホシはあっさり捕まった。ミッションコンプリートである。
捜査隊はアオイとハルト、キタカミ姉弟、ネモ、ペパー、ボタンに俺を加えた総勢八名。全員なんとも言えない表情を浮かべている。
これなら俺一人でよかったと思わなくもない。
「では正気に戻します。頼みますよ、ナマコブシ」
『(・大・)ブッシ』
パルデアで同様の症状を診た経験から、操られたひとの治療方法はいくつか判明している。
ひとつは気絶させること。しばらく動きは止まるが、根本的な解決はできない。
もうひとつは薬を飲ませること。モモンのみやどくけしが有効なため、特殊な毒が原因のようだ。
つまりポケモンのわざで治療できる。
「じょうかです」
『(・大・)バッシュ!』
「キビゴハァ!?」
ナマコブシの内臓がブライア先生の腹部に炸裂。
彼女は口から毒を吐き出した。
まあアロマセラピーを使ってもよかったんだが。予想通りならばこの方法が一番効率的だろう。
「うーん……おや、ここは? 私はテラリウムドームに居たはずなのだけど」
だめだこの女教師。何も覚えてない。
「これで終わりか。意外とあっさりちゃんだな」
「いやまだ黒幕が残ってるし。油断したら愉快なダンスさせられる羽目になるよ」
「キビキビー!」
「そうそう、こんなふうに……え?」
ボタンが振り返ると、そこにはキレのよい踊りを披露するネモの姿があった。
「「「で、でたぁー!?」」」
くそっ、周囲の警戒はしていたのに。
事前の打ち合わせ通りに円陣を組む。
推測では、四匹目のともっこは毒を与えた相手を操る。そして獲物に毒を投与する方法は、
「経口接種、モチを食べること」
手裏剣の如く飛来するモチが皆を襲う。
流石の業前だ。居所を悟らせず、この量のモチを的確に口内目掛けて射出するとは。
だが甘い。モモンのみより甘い。
人数分のモチを空中で掴み、操られることを阻止。来るとわかっていれば余裕よ。
モチの速度はしんそく程度か。ポケモントレーナーなら見切ることは朝飯前だろう。現にアオイたちは下手人が潜む方向に目星をつけている。
「見つけた! でも逃げ足早……!」
「ライドするよ。二組に分かれて乗って」
見えた影はかなり小柄。素早い動きと潜伏技術。
臆病で逃走に躊躇いがない気質。
まともに追いかけると骨が折れそうだ。
「ウズ先生? 追いかけないと」
「……ふむ」
ところでこのモチ美味そうだよね。
手を合わせてください。せーの。
「いただきます」
「先生!?」
〜キタカミの里〜
ウズ先生が毒入りのモチを食べてしまった。
僕たちにあれだけ注意するように言っていたのに、何を考えてるんだろうこの人は。
いや……大丈夫。ウズ先生に毒は効かない。
きっと何か考えがあるはずで、
「キビキビ」
あ、だめだ。操られている。
「おいどうすんだこれ!? ネモだけじゃなくウズ先生まで敵になっちまった!」
「あ、ああ……おわりだぁ……俺たちみんな、ああなっちまうんだ……!」
「落ち着いてペパー。スグリも。やることは変わらないよ。二人を正気に戻して、ともっこを捕まえるだけ」
「そうは言ってもよ……」
ウズ先生は不気味に佇んでいる。
その背後から小さな影が顔を出す。
『(( ))モ、モモ、モッ……』
モモンのみを逆さにした形のポケモン。
あれが人を操る四匹目のともっこだろう。
『(Ф)(་ ⧓ ་)(Ф)モ モ ワ ロ ウ!』
ともっこ――モモワロウが殻を開いて、モチの発射体勢を取る。止めようとしてもウズ先生が邪魔だ。
「なるほど。私はあのポケモンに操られていたのだね」
「テラパゴス抱いてていいから、ちょっと下がっててくれる!?」
ブライア先生を庇って前に立つ。
視界いっぱいのモチの雨が、僕たちを襲い。
一個として届くことはなかった。
『(Ф)( ᣟ⧓ᣟ )(Ф)モ……?』
「モグモグ……キビキビ」
全部のモチをウズ先生がキャッチしたからだ。
そして次から次へと口に運んでいる。
誰も目の前の光景を完全には理解できていない。
「たぶん先生の食い意地が刺激されている」
「アリなんかそれ?」
一番戸惑っているのはモモワロウだ。支配した傀儡が自分の邪魔をするのだから。
大量のモチを食べたウズ先生は複雑な印を結ぶ。
すると体の輪郭が二重にずれていき。
「モチモチ」
「ニンニン」
「ウズウズ」
「ピチピチ」
「「「「キビキビイモモチッ!」」」」
四人に分身した。
「本人、ゾロアーク、ゾロア……一人多い。手札を隠していたみたいだね」
「冷静に分析しとる場合か?」
ボタンの言う通りだよアオイ。
四人のウズ先生はポケモン勝負を仕掛けてきた。
分身ごとに別々なのか、いつもの手持ちから、普段は連れていないポケモンまで繰り出している。
「キビキビ実り! キビキビ勝負ー!」
「ネモさんまで……どうする?」
「スグ、あんたならやれるわ! あたしはブライア先生を守るからよろしく!」
「私もスグリを手伝う。ハルト、ペパー、ボタン! 分身を倒して!」
分身の一体はモモワロウの側で動かない。
ネモはアオイとスグリが押さえてくれる。
残りの三体を僕たちで倒す、という作戦だ。
「そうだな。彼女の作戦は悪くない」
僕の隣で腕組みをするウズ先生。
冷静に言葉を発する、モモワロウに操られていない五人目の分身が音もなく立っていた。
「おっと勘違いで攻撃してくれるなよ。アローラ、少年。俺はブス。ウズの生き別れの兄弟で、国際警察の人間だ。こいつは相棒のナマコブシ」
『(・大・)ブシ……』
「ウズ先生ですよね?」
「……違いますよ。俺はブシ。コードネームは、そう、ハンサム。技の2号と呼んでくれ」
嘘を吐くならもっとマシな嘘を吐けばいいのに。
いきなり自分の名前を間違えている。
「安心しろ。隙を作ってくれれば俺がなんとかする」
「わかりました。お願いします先生」
「人違いです」
立ち塞がるドダイトスを前に、僕はボールを握った。
バトルを余裕綽々で眺めるモモワロウ。
臆病なこのポケモンが逃げ出さない理由は絶対的な安全と優位性が確保されているからだ。
側に控えるのは桃の仮面を被った分身。それとへいこらする三匹のともっこたち。
他の分身とネモを突破したとして、この最終防衛ラインを倒すことができようか。
『(Ф)( ᩷ ⧓ ᩷ )(Ф)モモワーイ』
長い長い眠りについていたモモワロウ。
懐かしい香りで目を覚ましてみれば、おあつらえむきのニンゲンがゴロゴロと転がっていた。
特にこの仮面のニンゲンは素晴らしい。
常人を遥かに凌駕する欲望と膂力。
恐怖から溢れる生への渇望。
ニンゲンの二倍の生命力を有する魂は、ゴーストタイプのポケモンにとっては垂涎もの。
願いの叶えがいがあり、子分としても申し分ない。
……などと考えているのだろうな。
ゆえに、浮かれるモモワロウは気づかない。
背後に立つ俺の存在に。
「どうも。モチ、ご馳走様です」
『(Ф)( ᣟ⧓ᣟ )(Ф)……モ!?』
モンスターボールを叩きつける。
殻で身を守るモモワロウだが、衝撃で吹き飛び、ころころと転がっていく。
いいのかモモワロウ。その先は地獄だぞ。
包囲網は完成している。普段の手持ちと、爺さんらにともっこ。毒に強いメンバーだ。
『(Ф)(` ⧓ ´)(Ф)モゲゲッ! モゲ!?』
「まったく、裏切るだなんて人聞きの悪い。僕は最初からこちら側です」
敵を欺くにはまず味方からというだろう。
追いかけるより調子に乗らせた方が早そうなどくタイプだったので、一計を案じさせてもらった。
俺を買収したければ全世界イモモチ化計画でも練ってくるんだな。
まあ、たらふく腹を満たしてもらったからね。俺を操ろうとしたことは水に流そう。桃太郎だけに。
「ですが、それ以外の件はお灸が必要ですね」
おらくらえやボールアタック。
殻にこもろうとしても無駄だぞ。少々硬いがこじ開けられる。更生のお時間だ。
『(Ф)( ; ⧓ ;)(Ф)モ、モゲー!?』
とくと味わってもらおうか。
コトブキジム伝統の特訓メニューをな。
ウズ(ヒスイのすがた)
「モチモチ」
ウズ(シノビのすがた)
「ニンニン」
ウズ(きょうしのすがた)
「ウズウズ」
ウズ(ピーチだんのすがた)
「ピチピチ」
※協賛:ヒスイ狐’s&メタモン
ナマコブシ ♂
ずぶとい性格。打たれ強い。
ガラル地方で出会った。
キルクスタウンのステーキハウスで、間違えて食べられそうになったことがある。
得意わざは飛び出す拳のじょうか。
ナタネのドダイトス ♀
おっとりした性格。考え事が多い。
ハクタイシティで出会った。
友好の証として交換した。現役時代はおやが遊びに来る口実として頻繁に使われていた。
得意わざははがねタイプを絶対に倒すじしん。